怖くて震えて助けてもらいたい話。
真っ暗な中に闇が蔓延る、冷たくて寒くて怖い所。
嘗ての私は光なんて無いその場所で、意味もなく『ごめんなさい』と呟き続けていたのを覚えている。
暗い部屋では時折、カラフルな景色が見える事があったんだ。
それを言うと、目の前に立つ大きくて白い人は、それを描けって――
怖い、怖い、怖い。……思い出せない。
思い出せない。何も分からない。
自分の名前が分からない。自分の事が分からない。
昔、誰かが自分を呼び、笑顔を向けてくる。懐かしい様な、もう会えないような。……ねぇ、この人達は誰?分からないよ。思い出せない。
――世界が赤くなったと思ったら、バチッて火花が散って。
暗い部屋に居たはずの私は、気付けば獣になっていた。
私、捨てられたの?体も変になっちゃった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ねぇお願い、許して。今後はちゃんと描くから!言う事聞くから。
ねぇ、捨てないで。元に戻して。誰か助けて!
謝れない。声が出ない。
『ごめんなさい』は咆哮になる。
怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて……。
次第に変な体にも慣れた。
四つの足で歩き、長い尻尾で物を掴み、長い首で周囲を警戒する。
未だに他の獣に威嚇されるのが怖いんだ。
だから他の生物がいない事を確認しながらヒッソリと草を食み、住み着いた洞窟で息を潜めるようにして眠る毎日。
そんなある時、久しぶりにあの、カラフルな景色が見えたんだ。
いつもはどんよりとした水面を晒す湖が、珍しくキラキラと煌めく、そんなとある日。
獣である私が、村を荒していた。
崩れる建物、積み上がる瓦礫。
怒った人々、怯えた人々。
その後、村を去った私を追い掛けて来た人がいたんだ、青い人。
私は知った。
この人なら、私を助けてくれる。
この人に、会わなきゃいけない。
私は、そんな“未来を見た”んだ。
そして今日。
いつもは淀んだ湖が、珍しくキラキラ煌めいていたんだ。
それを見て、私はハッキリと確信した。今日が、あの時見た未来だと。
私は意を決して村に向かう。
……怖かった。嫌だった。行きたくなかった。
誰かを傷付けたくはない。
でも。
……行かなきゃ。やらなくちゃ。
じゃないと、あの人に見つけてもらえない。
私は、救われたい。
お願い、私を助けて!
「うわぁ!!化け物だ!」
村に向かえば、そんな悲鳴と共にみんなが逃げた。
ねぇ、なんで逃げるの?
私、本当はみんなと同じ『人間』なんだよ?
……嫌だよ、逃げないでよ。
待って、待って!置いていかないで?
私を一人にしないでよ!
――哀しくなって。苦しくなって。
『グルァァァアア!!』
(嫌だ、一人にしないでよぅ!!)
獣が吠える。
『私』が塗り潰されていく。
『グルァァァアア!!』
(うふふふふふふふ……。)
壊して、壊して、壊して、壊して!!
もっと、もっと、グチャグチャに。
もっと、もっと、メチャメチャに!
――理性を失った獣は止まらない。
知らない、知らない!
だって知らない!!
私を置いてった人達がどうなろうと知らない!
私を独りぼっちにした人達がどうなろうと知らない!
天罰だよ!
私は知らない!何も知らないっ!
全部、アンタらが悪いんだぁ!
「ヒィィィ!お、お助けを……。」
私を見上げる怯えた瞳。情けない悲鳴。恐怖の余り縮めた身体。
ふと、我に返る。
その弱々しい姿に、昔の自分が重なったんだ。
(……なさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。)
背筋が凍る。
目の前が真っ暗になる。
『グルァァァアア!!』
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。)
……逃げた。私は逃げた。
怖いよ。怖い。
分かんない。
知らないうちに傷付けちゃった。壊しちゃった。
どうしよう、どうしよう。
ひたすら逃げて、逃げて。暴れて。
『―――よ。』
どのくらい時間が経ったのか。
ふと、優しい声が聞こえたんだ。
暖かくって、フワフワして、意識がトロトロになる。
エヘヘ。私の周りで、皆が笑ってる。私の名前を呼んでいる。
何故だか、とっても懐かしい。
幸せ。ふふふっ。
―――――
―――
―
『さて、始めようか。イシアさん。』
冷たい水を掛けられた様に、シャッキリと意識が覚醒した。
目の前には、あの夢の、青い人。
休止。
活動報告、2019年4月10日投稿記事参照。




