第4話 いきなり迷子になってしまいました
私たちを見つけて船に乗せてくれた漁師さんにお礼を言いつつ私とヴァーテルは船から降りました。
「やっと陸だ!」
ヴァーテルが大きく伸びをする。
それはそうであろう。ヴァーテルは私よりも長い間あの流氷の上にいたのですから…
「それで…どうするの?」
「とりあえず宿屋を探す…。」
そう言ってヴァーテルは歩き出した。
私とヴァーテルは小さな港町の中心にある通りを歩いていています。
左右には石造りの建物が並びその前でたくさんの人が露天を開いていて、露天を覗いてみると魚や果物、野菜が売っているのだが、時々、見たこともないような奇妙なものが売っていたりもして、そう言うものを見ると異世界に来てしまったということを改めて実感させられることになるのです。
「そこの姉ちゃん! いい薬草が入ってるよ! 安くするよ!」
他の人と比べて私は目立っているつもりはないのですが、左右の露天の店主からかなりの頻度で話しかけられる。
「いえ…そう言うのはいいので…。」
私は、寄ってくる人たちをよけてヴァーテルについていくのですが、ヴァーテルは慣れているのか話しかけられることすらありません…
「何でこう人が来るんでしょうか?」
「ここは、港町だからな…おそらく漁師の妻が買い物に来ることが多いんだろう…だから、女の人を呼び込もうとしているんだ…。」
活気にみちあるれた通りをヴァーテルはずんずん歩いていく。
私も負けじとついていくのですが、悲しいほどに運動神経がないので徐々に距離が開いていく。
「ちょっと! ヴァーテル!」
彼の名前を呼ぶが人々の声にかき消されてしまいました。
「困ったなぁ…。」
そしているうちにヴァーテルを完全に見失ってしまいました。
周りを見回すがそれらしき人物は全くと言っていいほどいません…
「とりあえず探しますか…。」
ここに突っ立ていても埒が明かないので町の中を探すことにしました。
ヴァーテルは小さな港町だって言ってたけれど、この町は意外と広く、あの大通りを端まで抜けるだけでも30分以上かかりました。
そのあとも町中を探すのですが、ヴァーテルは一向に見つかりません…
歩き疲れた私は、町はずれにある丘の上にちょこんと座っていました。
町が一望できるこの位置にある丘から西の方を見ると徐々に夕日が沈み始めていました。
もし、このような状況でなければ、綺麗な夕日だな…なんて考えながら見とれていたのでしょうが今の私はそう言うわけにもいかな状態です。
「どうしよう…。」
見知らぬ街に来て右も左もわからない状態で迷子になるというのは想像以上に心細いものです。特にこの世界では、今のところ知り合いと言えるのはヴァーテルだけなのでなおさらそうなのかもしれません…
「ヴァーテル…。」
私の目にうっすら涙が浮かぶ。
私は、1週間ちょっとしか一緒にいない彼の事を思いのほか信用していたようだ…やはりあの時、あの流氷の上にいてくれたからだろうか…
「まったく…こんなところに居やがった…世話の焼けるやつだ…。」
そんな声と共に私の肩に手が置かれて反射的に私は、後ろを見た。
「ヴァー…テル?」
「それ以外の誰だっていうんだよ…まったく…思ったより情けないんだな…。」
私の顔を見つめるヴァーテルは、あきれ顔である。
「べっ別に迷子になったわけじゃなくて! その…少し町を見て回っていただけです!」
私が抗議しながら立ち上がる。
だって、この年にもなって迷子なんて認めたくありませんし…
「ははははは! そうかそうか!」
そんな私を見てヴァーテルは笑っている。
そんなおかしな顔をしているのだろうか?
「とりあえず行くぞ! 宿は取ってある…今度は迷子になるなよ!」
ヴァーテルが町の方に歩き出す。
と言うか迷子になってたってバレバレでした…
「だから! 迷子なんじゃないんだって!」
私は、今度こそはぐれまいと歩き始めました。
頼れる人がいるっていいな…
私の心は、温かい感情でいっぱいだった。
私とヴァーテルの旅は、ここから始まる…いや…もしかしたらあの流氷の上で出会った時から私とヴァーテルの旅は始まっていたのかもしれません…
私とヴァーテルは、夕闇に染まり始めた街の方へ歩いて行きました。
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