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「君を妻として愛することも認めることもない。社交も禁じる。別の家と生活費は用意してやったから、無事でいたいのならばそこで大人しく過ごすことだな」
結婚式の後。初めて会ったときから「貧乏男爵令嬢を金で買ってやった」と蔑む夫に妻としての役割も否定されメイカは目の前が真っ暗になった。ショックで身体中から力が抜けるとどこからか自分の声が響いた。
--はあ~っ、久しぶりに会ったらいきなり「妻として認めない!」だなんて。びっくりしたわ~。
ん? でも、これってよく考えたら「妻としての仕事も面倒な社交もしなくていいし、住む家と生活費は保障する」ってこと? もしそうだったら最高じゃないっ!!
うきうきした声に戸惑うと、ぱっと明かりがついたように前世の記憶がよみがえる。
前世のメイカは平凡な社会人だった。今世は贅沢好きな両親と姉を奴隷だと思っているいじわるな妹に悩まされる、同じ名前の男爵令嬢に転生した。
そして、愛する平民女性との結婚を実権を握る両親に許されなかった、目の前の旦那様(仮)ことアディンゼル伯爵に、周りに根回しする間、両親の目をごまかすためのお飾りの妻としてお金で買われたらしい。
生まれ育った家と嫁ぎ先に尽くせと教え込まれた生粋のご令嬢だったら「何もせずにただいればいい」と言われるなんて、自分の存在をまるごと否定されるぐらいひどい仕打ちなのかもしれないけれど。前世は1人暮らしの社会人で毎日へとへとだったメイカにとっては最高の言葉だ。今世のメイカも格上の婚家にも平然と金をたかり姉をいびりに来るであろう害しかない身内と会わなくていいなんて、感謝しかない。
2人のメイカの想いが重なって新しい生活への期待が込み上げてくる。興奮をぐっと堪えてメイカはふんぞりかえる旦那様(仮)にそっと確認をとった。
「わかりました。少し質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、手短にな」
「ありがとうございます。では、この結婚はアディンゼル伯爵様が本当に結婚を望まれている方と結ばれるために準備をするための、いわば形だけのものなのでしょうか?」
「君には関係ないことだ。彼女に手を出そうとすれば家ごと潰されると思え」
つい一番気になることを聞くと旦那様(ご機嫌ななめ)が眉間にシワを作る。しまった、浮かれるあまりつっこみすぎた。
「申し訳ありません、言葉が過ぎました。ただ、アディンゼル伯爵様と心から愛する方の身分を超えた恋愛は令嬢たちの間で密かな噂になっていますので。つい気になって聞いてしまいました」
「ほう、ご令嬢たちの噂に。まあ、それは仕方がないな。アイリーンは美しい上に健気な女性だからな」
慌てて褒めると旦那様(意外とちょろい?)はとたんに機嫌が良くなる。そういえばこの人の名前なんだったっけ?
「そこまで知っているのならば仕方ないな、その通りだ。アイリを妻に迎える準備が整ったら、君とはすぐに離婚する」
うまくごまかせたのは良かったけれど。爽やかな笑顔でドクズな発言を吐かれてドン引きする。
「そうなのですね。いつ頃を想定していらっしゃるのでしょうか?」
「1年後だ。それまでは契約通り男爵家に支援をする。その代わりこの結婚の内容を外部にもらしたり、私やアイリに関わることは許さない」
おお、さすが大貴族、脅し文句も堂々としているわ~。でも、いくらお金で何でも言うことを聞く相手とはいえこんな口が軽くて大丈夫なのかしら。まあ、こっちとしては話が通じる相手で助かるからいいか~。
「もちろんですわ、困窮する我が家を助けてくださったアディンゼル伯爵様には心から感謝しております。家名にかけて何があろうと絶対にお二人に関わらないとお約束します」
「ああ、それでいい」
満足げにうなずいて話を切り上げようとする旦那様(ラブラブ結婚計画中)を急いで引きとめる。
「あの、お願いがあるのですが。時々図書館に出かけてもよろしいでしょうか?」
「ああ、それぐらいならば構わない。ただ、出かけるときは家の者に伝えるように」
「やったっ、ありがとうございます!」
喜びのあまりついうっかり素で返事をしてしまったが、無礼だと怒るかと思いきや旦那様(実は良い人なのかも)は戸惑ったようにメイカをまじまじと見つめた。その探るような視線にメイカは慌ててとりつくろった笑みを浮かべた。
「失礼いたしました。私の希望も聞きいれてくださってありがとうございます」
「いや、君は意外と話のわかる人なんだな。他の細かい決まりごとは明日書類にして渡す。私はもう休む」
「わかりました。では、私は自分の部屋に戻ります。おやすみなさいませ」
どうやら旦那様(期間限定)に良いイメージを持ってもらえたようだ。ほっとしたメイカは少しでも印象を良くするべく愛想笑いを浮かべるとそそくさと自室に引っ込んだ。1人になると笑みが浮かんでくる。
「やったわ、今度こそ逃げられるっ!!」
今世のメイカはろくでもない実家から逃げるために仲の良いメイドのルリと内職をして逃亡資金を稼いでいた。残念ながら逃げだす前に結婚させられてしまったが、メイカに興味のない旦那様(そうだ、ヘンドリック様だ)のおかげでまた逃げる準備を進められる。
離婚されるまでの間にまたお金を貯めよう。そして、貴族をやめてただのメイカとして自分の力で生きるんだ。
「それもこれも優しい旦那様(仮)のおかげね。旦那様(仮)、ありがとうございます。愛するアイリーンさんと幸せになれるようにこの世界の神様に祈りますね。よしっ、明日からがんばるぞー!!」
メイカは気合を入れると人生で一番ふかふかのベッドで眠りについた。




