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お茶会の反省会 アガサ夫人の教育方針

イベント開催後の反省ミーティングです。

 ■モーニングルーム■


 ハルバーウィン家のモーニングルームに、少しふてくされた様子で長男のギディオンが入ってきた。


「母上、先日のヴィッキーのお茶会の反省会をするとお聞きしました。僕は出席していないし、関係ないですよね」

 今朝、雨が降りそうだから遠乗りはやめなさいと言ってから、機嫌が悪い。


「女性の社交を知っておくことも、よい経験になります。

 今日参加してみて意味がないと思うなら、次からは参加しなくていいわ

 その場合、婚約者選びの時に希望を聞いてあげないだけよ」

 脅すつもりはなかったけれど、ぎょっとした顔をして、大人しく布張りの椅子に腰掛けた。


 侍女は菓子が盛られた皿を数枚テーブルに置くと、一礼してから出て行った。


 見慣れた高級店の菓子もあれば、見慣れない素朴な菓子もある。


「兄上、これは昨日、手土産でいただいたものよ」

 ヴィクトリアが目をキラキラさせて、ギディオンに勧めた。


 地味なクッキーを一つ摘まむ。

 しょっぱさと甘さが、口の中でほろりと崩れた。

「あれ、美味しい」


「それは、シスルダウン家からいただいたチーズクッキーです!」

 ヴィクトリアがドヤ顔で言う。

「っふ、ヴィッキーの手柄じゃないだろう」

 美味しいものを食べて機嫌が直ったギディオンは、いつものように妹をからかい始めた。


「いいえ、シスルダウン嬢を呼ぼうとしたのはわたくしですから、わたくしの手柄です!」

 ヴィクトリアは腰に手を当てて、調子に乗る。

「はいはい、ヴィッキーのお手柄ですよ。

 ・・・しかし、これをもう少し固めに焼いたら、携帯糧食になるかもしれない。欲しいな」


「ギディのお眼鏡にかなったのなら、今夜、旦那様にもお出ししてみましょう」

 アガサ夫人はゆったりと微笑んだ。


 これで息子も「お茶会」に興味を持てたかしら。



 ■反省会■


 紅茶を半分ほど飲んだところで、改めてヴィクトリアにお茶会の話を促す。


 彼女は気付いた点を箇条書きでまとめてきて、順番に分かりやすく話をした。

 いくつかアドバイスを加えたが、初めて主催したお茶会としては及第点といえよう。


 ギディオンは「そんなことにも気を配っていたのか」と、驚きながら大人しく聞いていた。


「わたくしも概ね成功だと思っていたのですが、最後の最後、馬車でお帰りになる際にトラブルが発生しました」

 ヴィクトリアが悔しそうに言う。


「そうね。問題は何だったと思う?」

 と課題を投げる。


「爵位の順にお帰りいただけるよう、高位の方から入り口に近い場所へと、馬車を順番に誘導しておりました。

 ところが、三番目のペンブルック嬢がフットマンをつかまえて、長々とおしゃべりを始めてしまったのです。

 フットマンも話を切り上げるように努力したのですが、全く応じていただけず。

 悪いことに、後続の馬車の進路を塞ぐ形になってしまい、他のご令嬢の馬車が動けなくなるという事態になりました」


 今回は若いご令嬢をリラックスさせようと、物腰の柔らかなフットマンを馬車の誘導に配置したのが裏目に出たのね。


「ペンブルック家の夫人は耳が早いことで知られていますけれど、状況を気にせずおしゃべりが止まらない方なのよ。どうやら、お嬢さんもその性質を受け付いていらっしゃるのね」

 状況をわきまえられるなら、ヴィクトリアの学友候補にしてもよいかと思っていたけれど・・・。


「ヴィッキーはペンブルック嬢とお友達になりたいと思った?」

「いいえ、まったく」

 この子もわたくしと同様、はっきりしているわね。


「では、派閥も違うことですし、今後は特別な事情がない限りお声がけはやめましょう。

 もし、我が家主催で呼ばざるを得ない場合は、彼女をうまく誘導できる方も一緒にお呼びするといいわ」



 人物評価の次は、こちらの手際の問題を話し合いましょう。


「では、馬車の配置はどうしたら良かったと思う? ギディも考えてご覧なさい」


「えー、そうだなぁ・・・ペンブルック家は別の場所に停めてもらうのはどうでしょう?」

「それも解決策の一つね。注意点としては、こちらが隔離したいと考えていることに気づかれないようにすること」


「一台だけぽつんと離れた場所にはしない、ということで合っていますか?」

「そうよ。円滑な関係を築きたいから交流するのに、不愉快な思いをさせて、不和になる種を作ってはいけないわ」


 ヴィクトリアはこの会話をノートに書き込んでいる。

 そうそう、そうやって経験を次に活かしていくのよ。


「その他に、気付いたことはない?」


「・・・馬車と馬車の間の距離を狭くしました。もっとゆとりがあれば、三台目が出なくても四台目の馬車が出られたと思います」

 やっぱりヴィクトリアは気がついていたのね。


「どうして、今回は距離を狭くしたの?」

「それだと、最後のシスルダウン家の馬車がかなり遠くになってしまい、ご令嬢をたくさん歩かせることになると思ったからです」

「それも、すばらしい心遣いね」


 二人の子どもの顔としっかり向き合う。


「これは、お勉強の試験のように『正解』があるものではないの。

 配慮を優先するか、トラブル防止を優先するか―――それは、その場を采配する人の考え次第です。

 お帰りの歳に馬車の流れが滞っていても、まったく気にしない主催者もいらっしゃいますしね」


 だからこそ、これはあくまでわたくしの個人的な考えだと断ったうえで、こう続けることにした。

「お客様には、最後まで『気持ちのいいお茶会だった』と思っていただきたいの。

 ですから、わたくしは門を出る瞬間まで配慮することが大切だと考えているのよ」

 そして、そっと付け加える。

「次にお茶会に招かれたときは、そのお宅がどんなおもてなしをなさるのか、さりげなく観察してみるといいわ」

 ・・・その家の資産状況によって、使用人が足りずにそこまでできない場合もあるけれど、子どもに言うことではないかな。


「露骨な品定めは無粋ですけれど、家を守るうえで他家の様子を知っておくことは、大切なことですからね」



 ■有能な執事の中毒性■


 次は、人の使い方話をしましょう。

「今回、ヴィッキーは馬車の配置まで自分で考えましたね」

「はい」と、素直な返事が返ってくる。


「そういうやり方も一つです。でも、誰かに指示を出してやってもらうという方法もあるのよ」

 ヴィクトリアが「あ!」と声を上げた。

 ―――そうそう、張り切っていると、つい『全部自分でやらなきゃ』と思い込んでしまうのよね。



「例えば、『順番に帰らないご令嬢がいる』ことや、『順番が最後のご令嬢の馬車をあまりにも遠くに停めないように』という点だけでも伝えておけば、今回の問題点は解消できるわね」


『ちゃんとやっておいて』と丸投げするのではなく、『この点に配慮してやって』と具体的に指示を出せば、使用人が手足となって働いてくれる。


「自分の思い描いていたものと違う形になったら、使用人を責めるのではなく、『どのような指示なら伝わったか』を反省するの。

 それを繰り返すうちに、指示を出すのが上達するわ」



 それからもう一つ、落とし穴の話をしましょう。


「もちろん、信頼できる執事がいるなら、細かいことまで一々言わなくてもすむ場合もあります。

 けれどもし、その執事に任せきりで、『何に気を配っていたのか』を誰も把握していなかった場合・・・執事が辞めた瞬間に、家が回らなくなってしまうわ」


 それはもう、その家が『当主の家』ではなく、『執事の家』になっている・・・そう考えると恐ろしい。


「執事が優秀なことに甘えすぎること、それはリスクになり得るのよ。

 執事が代替わりする際に、そんな細やかな気配りや采配のコツを、きちんと引き継ぐ時間があるとは限らないでしょう?」

 当主は、執事や家令と対等に近い協力体勢を築くのが理想だと、わたくしは個人的に考えている。


「それに、家のことを完全に掌握している執事だったら、もし不正を働いても簡単には辞めさせられなくなってしまう。

 だって、その人がいなくなったら、家が立ちゆかなくなってしまうから。

 ―――困るのは、当主なのよ。ね、未来の当主様」

 ふふ、ギディオンが青ざめてしまったわね。



 お茶会の反省会からちょっと脱線したわ。軌道修正しましょう。


「人の能力には幅があります。

 ですから、細かく指示を出した方がいいのか、大まかな方針だけを伝えて裁量に任せた方がいいのか・・・それは、あなたたちが見極めて判断なさい」

 微笑みながら、冗談めかして言い添える。

「凡庸な使用人にするのも、気の利く使用人に育てるのも、結局は当主の力量にかかっているのよ。

 ・・・まあ、うちではこのわたくし、女主人が采配を振るっていますけれど」

 子どもたちは納得の顔をした。旦那様は国境を守る方に力を注がれていますからね。



 ■貴族の人間関係■


「わたくしはね、気持ちよく配慮ができる家の方と、お近づきになりたいと考えています。

 けれど、配慮を『細かすぎる』と感じて距離を取る人もいる、それもまた自由なのよ」

 紅茶を一口飲んでから続ける。



「たとえば、馬車の出し入れに手間取って、高位の方をお待たせしてしまったら―――

 我が家は、最初からお待たせしないように対策を考えていますね、今」

 実際には、そこまで対策を取らない家が多い気がするけれど。


「もし、あなたのご友人が同じような状況で失敗して、誰かを怒らせてしまったとしましょう。

 その友人が『何が悪かったのか』と悩んでいるなら、原因となりそうな点を教えてあげなさい。

 そして、次は同じことが起きないよう、優しくアドバイスしてあげるのです」

 ヴィクトリアがうなずく。


「でもね、『運が悪かった』と嘆いているだけの人なら―――そのときは、ただ『大変だったわね』と慰めてあげればいいの。

 アドバイスをしても、きっと聞き流されてしまうから」

 わずかに声をやわらげて、優しく語りかける。



「更に言うなら、その人が『次はどう対処すればいいか』を考えられる人だったなら―――

 別の機会に、私たちが見落としている着眼点を教えてもらえることもあるのよ」

 競い合うわけではなく、「共に歩く仲間になれる」という感じかしら。


「そうやって、気持ちよくやりとりができる人との繋がりを、大切に強く育てていきなさい。

 全てのトラブルを未然に防ぐことはできないから、何かあったときに助け合える関係を築いておくこと。それは、きっとあなたたちの支えになるわ」

 ギディオンが身を乗り出してきた。

 多分、あなたが好きな「親友」とか「心友」とか「ずっ友」とか、よ。


 ※ハルバーウィン家では、ヴィクトリアが前世を思い出した直後に口にした言葉が、そのまま家庭内だけで通じる暗号のように、楽しく使われています。



 ふう、一気に話しすぎたわ。

 お皿からチョコレートを摘まんで口に入れる。ふわりといいフレーバーが鼻に抜けた。

 これ、マティアン国のパティシエの味ね。


「昨日、あまり感心しない態度のご令嬢がいたわね、フェリシティ・モントローズ嬢」


 ヴィクトリアが手短に昨日の出来事をギディオンに説明する。


「発言そのものは、一度くらい見逃していいと思います。

 習いたての知識を披露したくなったのかもしれないし、過去に自分が指摘されて傷ついた経験があって、つい口にしてしまうこともあるでしょう」

 紅茶を一口飲み、そっとソーサーに戻す。


「けれど、人を見下して喜ぶような性格であれば、話は別です。

 そういう方は、いずれどこかで致命的な失敗をなさるでしょうから」


 ギディオンは思い当たることがあったのか、「なるほど」とつぶやいた。


「それから―――」と、アガサはわずかに声の調子を整えた。

「謝れない人は、だめ。

 前提として、『望まない展開』になったから、謝らないといけない雰囲気になっているのよね。

 つまり、すでにその人にとって、不利な流れができています。

 謝ることで、その流れを変えるチャンスを作る・・・というのは分かるかしら?」

 つまり、何が言いたいかと言うと・・・


「謝れないということは、不利な状況を変えるだけの能力がないとも言えます。

 そういう方は、流れが好転するのをただ運に任せるしかないの」

 うふふ、二人とも理解してくれたみたいね。


「・・・ミルクを先に入れたメイジー・シスルダウン嬢は、ヴィッキーに謝りに来たのでしょう?」


「はい、帰り際に。

 それで今度、ティー・ディセントを見せてもらえないかとお話しすることができました」

「ほら、こういうことよ」

 わたくしはギディオンに向かって、微笑んだ。


「お茶会の席でバカにされた男爵家のご令嬢が、我が侯爵家と前向きな繋がりを持った。

 たったひとつの『謝る』という行動が、その子に次の機会をもたらしたの」

 ふと視線をチーズクッキーに移しながら、わたくしは続けた。



「一方で、モントローズ嬢のどこがいけないのか―――

 マティアン流の紅茶の話題が出たとき、彼女は自分の知識をひけらかしただけで終わってしまった」

 十三歳はまだ子ども・・・だが、高位貴族の場合は、徐々に大目に見てもらえないことが増えてくる。

 だから、今、我が子にこんな話をしているのだ。


「『それぞれに素敵な文化があるのですね』と彼女があの場でそう締めくくっていれば、ちょっとした誤解だったと笑って済んだはずです。

 ところが、それを言えなかったばかりに、場の空気は彼女に味方しないまま」

 わたくしはヴィクトリアを褒めるように、目を細めてにこりと笑った。


「彼女が言わないから、ヴィッキーがそれを口にして、場を和らげたのでしょう?

 その一言であなたの株が上がり、彼女の印象は変わらず・・・下がったままでお茶会が終わった」

 ヴィクトリアは小さくうなずいた。

 会話ひとつで、関係は築かれることもあれば、壊れることもあるのだ。



「・・・もう、これだけでギディの嫁候補から外す理由には充分でしょう」

 わたくしは、はっきりとした口調で言い切った。


「もし、その家に婚姻を結ぶだけの利益があるとしたら、他の姉妹を選びなさい。

 どうしてもその子に恋をして結婚したいというのなら・・・その欠点は、あなたが責任を持って矯正してちょうだい」

 ちらりと視線を向け、言い添えた。

「姑として指導するなんて、まっぴらですからね」


 ヴィクトリアは笑い、ギディオンはすごい勢いで首を横に振った。

「ええ? 嫌ですよ、そんな子!」


 わたくしは満足してうなずき、少し優しい声で語りかける。

「だからこそ、情報を得て、見る目を養いなさいと言っているのよ。

 誰と手を結ぶかで、あなたの人生も家の未来も変わるのだから」


 静かに小雨が芝生を濡らし始めた。やはり降ってきたわね。


「二番目のテーブルに、控えめながら会話を上手に回していた子爵家のご令嬢がいたわね。

 自分ばかり話すのではなく、質問をして相手の話を引き出していたのが印象的だったわ」


「そうなの! 

 ある話題で盛り上がったら、それに参加できなくて紅茶をがぶ飲みし始めたご令嬢がいたの。

 気にはなったのだけれど、話の流れを変えられなくて困っていたら、その子にさりげなく話しかけてくれて。とても助かったわ」

 ヴィクトリアはその子爵令嬢が気に入ったようだ。


「質問ができるということは、それだけ幅広い知識があるということね。相手が話しやすそうな分野を察知する能力も必要だし。

 ああいう子は、聞き役に回ることで、これからもっと知識を増やしていくでしょうね」

 派閥を超えてよい人材を見つけるために、ヴィクトリアが「子ども」であることを最大限に利用した。

 それが今回のお茶会だ。


「子爵家とはいえ、大事な集まりに呼んでも安心できるご令嬢かもしれないわ。

 もし気が合うようなら、友人になってもいいでしょう」

 ヴィクトリアの顔を見るに、かなり好印象だったようだ。


 女性は婚姻で爵位が変わることもあるから、友人なら、あまり爵位にこだわる必要はない。



「もし彼女がこのまま素敵な女性に成長したら、伯爵家より下の令息に相談されたとき、婚姻相手として推薦することもできるわよ、ギディ」

 婚姻相手の情報って、友達に恩を売るいい材料になるのよ。

 特に、我々のように情報網を張り巡らせていない下位貴族にとっては。


 ただし、仲立ちまでしてしまうと、相性が悪かった場合にトラブルに巻き込まれる可能性があるから、情報提供までね。

 ・・・まあ、ここまで言うと計算高すぎるとイヤがられてしまうかしら。今日のところは、言わずにおきましょう。



「僕がその子を選ぶことはできないの? 性格も良さそうだし、会ってみたいな」

 あら、ギディオンが興味を持ってしまったわ。



「伯爵家以上の家と養子縁組してからなら、一応、婚姻は可能です。

 でも、彼女が我々のように『理屈』、『利益』で動く上位貴族の世界に馴染めるかは分からない。

 今、わたくしたちがしている会話は、上位貴族の世界で生きていくためには必要なもの。

 けれど、下位貴族がここまで冷徹に考えているとは限らないでしょう?

 もっと『私』の部分・・・『情』を優先して生きていると思うわ」

『情』を大切にする人たちから見れば、我々はとても冷酷に映るでしょう。


「でも、派閥争いの矢面に立ち、家門を守り、寄子が没落しそうなら手を差し伸べる。

 万が一、我が家が没落したら、どれだけの人間を道連れにするか・・・そんな立場のわたくしたちに、情にほだされる余裕なんてないわ」

 決意を込めて、子どもたちを見つめる。・・・言いたいことは伝わったみたいね。


 ふと昔のことを思い出し、肩をすくめた。

「以前、『人を上から目線でジャッジするなんて何様?』と、下位貴族のご令嬢に言われたことがあるわ。

 その子に『あなたの家は相手のことを調べずに取引するの?』と問い返したら、ぽかんとしていたの。意味すら分からなかったようね」


 彼女にとって『家』は、きっと安らげる場所なのでしょう。


 でも、大きな家門を率いる人間にとって、『家』は組織であり、職場であるのだ。

 その中でも親睦を深める時間は当然ある。

 その時間を『家族の時間』と思えるのか、『こんな希薄な関係は家族ではない』と思うのか・・・育ってきた環境が大きく影響するに違いない。



 もう一つ、未来の話をしましょうか。

「例えば、さきほど話題に出た子爵令嬢が学園に通うようになったころに、悪評が広まっていたとしたら、どうする?」

 子どもたちが顔を見合わせる。


「それが誰かの悪意によるものなのか、それとも本人が変わってしまったのか、疑問に思う『糸口』をあなたたちは持っていることになるわね」

 ふふ、いい顔になった。


「世の中には星の数ほど噂話があるけれど、それを全て調べることなんてできないわ。

 だからこそ『少しでも引っかかったもの』に絞って調べるのが現実的なのだけれど―――

 どれを調べるか、どれを調べないかを無意識に選んでいることになる。

 その際に大切なのは、自分の『感度』よ。

 感度が良ければ有効な情報に結びつくし、感度が悪ければ空振ったり、更に怪しい情報に踊らされるハメになったりする。

 つまりね、子どもの頃の交流は、噂に振り回されない自分になるための『下地作り』なのよ」

 うふふふ、良いことを言っているでしょう? 子どもたちの尊敬を得たのじゃないかしら。



「あなたたちなら、『ドアマットヒロイン』を救えるわ!」

 突然の攻撃に、ヴィクトリアが盛大にむせた。


「母上! そういうの止めてと、言っているじゃありませんか!!!」

 淑女らしからぬ絶叫だ。


「ヴィッキー、『プンスコ』怒るなよぉ」

 とギディオンもニヤニヤ笑う。


 三年前、ヴィクトリアが突然「前世」という、理解できないことを話し出した時の不安を、わたくしたちは笑いに変える。

 形を統一したマグカップなど突拍子もない知識に触れ、異世界の存在を確信したが、わたくしたちが家族であることに変わりはない。



 顔を真っ赤にしたかわいいヴィクトリアをなだめて、更に、踏み込んだ話をしておきましょうか。


「もしも、大人の前では礼儀正しくしていても、子ども同士になると急に横暴になるような男の子がいたら・・・」

 ・・・この顔は、心当たりがいそうね。

 気をつけないと、「子ども」って自分で解決しなきゃと抱え込むのよ。もっと早く言えばよかったわ。


「迷わず、妹だけでなく母にも報告なさい。

 当然、ヴィッキーの婚姻相手の候補から外します。

 そういう『裏表のある子』を『家』の中に入れたくないの。

 どんなに家柄が良くても、立場が弱い人間に粗暴になる者は、やがて家を内部から崩壊させるわ」


 ふう、今日伝えたいのは、こんなところかしら。



「兄妹だからといって、必ずしも気が合うとは限らない。無理に仲良くしろとは言わないわ。

 けれど、情報は共有をして、できるところで協力し合いましょう。

 チーム・ハルバーウィンよ!」


 ・・・以前は元気よく、「おー!」と返してくれたのだけれど、反応してくれない。

 二人とも思春期ね。



「くすっ、父上はチームではないのですか?」

 息子のくせに、生意気な口をきくようになったわ。


「一緒に作戦会議ができれば理想的ですけれど、お忙しいから、母がまとめて報告しておきます。

 ・・・たまに机の上に手紙でも置いておいたら、きっと喜ばれると思うわ。

 まあ、お返事は『手紙』というより『業務報告』のようなものになるでしょうけれど」


 そう、婚約していた頃でさえ「恋文」は返ってこなかったのだもの。

高位貴族ってこんな感じかなーと想像で書きました。知らんけど(笑)

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