7 黒い騎士様の正体
「まずは、先日は助けて頂きありがとうございました」
と、私は丁寧に頭を下げた。
「ほう、下げる頭を持っていたのか?」
ムッカ!
でも、顔を上げる時は、頑張って笑顔を作った。
だって、今日は、色々聞きたいのだから。
「いえ。それで、お尋ねしたいことですが……」
と、直ぐに質問をしようとした。
「待て。何故私が答えなければならない? さっさと帰れ」
出鼻をくじかれてしまった。
「……。そうは参りません。黒い騎士様。大神官代理様と代行様に、騎士様の事をお話しました。どのような方かとお尋ねしても、答えて下さらなかった。私どもの大神官代理様と代行様とはお知り合いなのでしょうか?」
「答える必要はない」
私は、アクス様が涙を浮かべておられた事を思い出していた。
この方は、私とも何か無関係ではないはずだ。
「どうしてですか?」
「しつこいな。また、この街の暴漢どもに、酷い目に会わされたいのか? 今度は止めないぞ」
あの時、騎士様が助けてくれた。
「あの時は、ありがとうございました。でも、あの時、どうして助けて頂けたのですか?」
「何?」
騎士様は、怪訝な顔をする。
「この街の人達の事と、どんな関わりがあるのでしょうか?」
「お前には関係のない事だ」
「その綺麗な赤い髪、赤い瞳。お母上は、どちらの国の方なのでしょうか?」
「……」
騎士様に容姿の事を尋ねたら、黙ってしまった。
「あ、あのプレア様。そんなに質問ばかり浴びせては……」
モイラが、私に注意してくれた。
私を落ち着かせようとしてくれたのだろう。
「?」
黒い騎士様は、寂し気な表情をしていた。
「あ、あの。申し訳ございません。まだ2回しか会っていないのに、色々尋ねてしまって」
少し、後悔した。
きっと、容姿の事については、私の想像以上の辛い目に会ってきたのだろう。
だけど、もし私達に関係のある方ならば、無縁ではないはずだから力になりたいと思っている。
この暴漢もいるような街に、立派な騎士様が、何故いるのか?
世間知らずの私でも、きっと良くない事が起きていると想像出来た。
それの答え合わせが、アクス様の涙やクロス様が答えて下さらなかった事だし。
「とにかく、もう帰れ。これ以上関われば、お前達にも良くないことが起きるぞ」
騎士様は言われた。
「アクスとやらに迷惑を掛けたくないのならば」
「?」
私は、その言葉に引っ掛かった。
「あ、アクス様とは、どのようなご関係なのですか? 騎士様の事をアクス様が気にかけているのは何故ですか?」
「知らん」
「あ、あの……」
黒い騎士様の目には、涙が浮かんでいるように見えた。
「アクスとやらに迷惑をかけたくなければ、ここには二度と来るな」
黒い騎士様は、帰る方向へ剣で指し示し、静かに言った。
「……」
私は、「はい」と、答えたくなかった。
しかし、これ以上尋ねても答えてくれないだろう。
そもそも、尋ねるにしても、こんな街の街角で話すことではないだろう。
今更、なのだけれども。
「失礼します」
私は、そう言って、引き返すことにした。
街の入り口に近い所だったので、モイラと二人で街の外まで歩いて行く。
途中で、おんぼろ街の住人と思われる人達から、キツイ視線を向けられていることに気が付いた。
モイラは、私の服の端をギュッと握って付いて来る。
街の外に出てしばらく歩いた後、直ぐに「転移の力」を使い、このおんぼろ街から王都に戻った。
行く時は部屋から直接向かったが、帰る時は同じようにしなかった。
少し王都で気を紛らわせてから、部屋には帰る事にした。
モイラには、美味しいものを沢山御馳走してあげた。




