6 おんぼろ街へ、再び
今日も退屈な授業。
神官としての教学。
大事なのだけれども。
アクス様やクロス様とお話した後なので、流石に控えることにした。
私も、ちゃんと空気読めるのだ。
でも、……。
「モイラ。……。そろそろだわね?」
「はい? 何がですか?」
キョトンとするモイラ。
「わかんないの? また、あのおんぼろ街に行くわよ!」
「ええ?」
モイラは、思いっきり嫌な顔をした。
「何その顔? 酷いじゃない?」
「だって、クロス様には行くなと言われたじゃないですかぁ!」
と訴えるモイラ。
「いいえ。アクス様は行くなとはおっしゃられなかったわ。これは、OKという事だわ」
「ええ?」
「それに、期待してるとも、制約を求めないとも、進むべき道に導かれるって言われたわ。これで十分よね?」
「は、はいぃ」
気のない返事。
「じゃ、今度の休みに行くわよ。前回は授業サボって行ったから、怒られただけよ。今回は大丈夫。心配ないわ」
「はあ」
私が行くと言い出したら聞かないことを知っているせいか、半ば諦めたような顔をして返事をした。
「じゃ、今度は、直ぐにでもおんぼろ街から、街の外に転移出来るように練習する。付き合って!」
「え? 今からですか? これから、おんぼろ街へ?」
「何を言っているの? 今行くわけないでしょ? 練習だって言ってるじゃない?」
いくら私でも、夜遅くに行くわけないでしょう。
わかってないわね、モイラも。
夜、皆が寝静まるのを待って、モイラと私は宿舎から抜け出した。
おんぼろ街を想定して、王都の近くの区画を利用して練習、練習。
しかし、段々モイラの元気がなくなって行く。
見ると、モイラは立ちながら寝ていた。
「……。あら、流石に、無理をさせ過ぎたわね。仕方がないわね」
寝てるモイラの手を引きずって少し移動し、宿舎に「転移の力」で戻った。
「モイラ、戻ったわよ。ほら、着替えて」
「……」
反応してるけど、動きが鈍いモイラ。
完全に駄目だわ、これは。
私は、仕方なくモイラの服を着替えさせ、ベッドに寝かせた。
「さて、今度はあの黒い騎士様と話をしなければ。きっと、私に必要な何かを知っている騎士様だわ」
そして、私もウトウトと眠くなり、眠ってしまった。
次のお休みの時まで、あの時の様に焦って失敗しないように何度か練習をしていった。
そして、いよいよ明日が休みと迫り、今日の最後の授業が終わった。
授業が終わり、準備の為にモイラを先に戻らせ、教室を出ようとした。
「プレア。お待ちなさい」
クロス様が、急に声を掛けて下さった。
「プレア。最近は真面目に教学を受けているようですね。良い事です。」
とクロス様。
「はい。ありがとうございます」
お辞儀をし、ドキドキしながら返事をする私。
そして、バレているのかと思って、こっそりとお顔を拝見した。
「では、良い週末を」
「はい。クロス様も、良い週末をお過ごしくださいませ」
その後、何事もなく、クロス様は教室を退出されて行った。
「ば、バレたかと思った」
ちょっと心臓に悪いわね。
クロス様、疳の虫でも騒いだのかしら。
さて、部屋に戻るとモイラは準備を整えてゆっくりしていた。
「モイラ、準備できたのね」
「あ、プレア様。先ほど終わったばかりです。時間が空いたので、少しゆっくりしておりました」
「ありがとう、モイラ。さあ、明日に備えて今日は早めに寝ましょう」
「あの、本当に行くのですか?」
「何よ、今更。ここまで準備したのよ」
「ですが……」
「あの黒い騎士様に聞きたいことがるの。アクス様を泣かせる人なのよ? 何故なのか知りたくないの? 神官としての私達に無関係ではないでしょ?」
「うう。そうですね」
「普通の人に、あそこの黒い騎士様の所へ尋ねに行くこと出来ないでしょ?」
「確かに、仰る通りです」
「じゃ、明日頑張りましょね」
「……。はい」
モイラも納得してくれて嬉しい。
明日、絶対聞いてやる。
何故こんな所にいるのかを。
あの街の人達の事と、どんな関わりがあるのかを。
その綺麗な赤い髪、赤い瞳。それは、あなたに何の影響を与えて来たのかを。
あなたは、誰なのかを。
そして翌日。
「モイラ、準備は良いわね」
「はい。プレア様」
少し緊張気味のモイラ。
それはそうよね。
あんなことがあったから。
でも、今回は、おんぼろ街の手前に転移するから少しは安心できるわよ。
「では、転移を始めます」
私は杖を両手で握りしめ、体の中心に固定した。
そして、目をつむり、杖をゆっくり上に持ち上げる。
場所をイメージし、一緒に連れていくモイラもイメージする。
そして、そこに移動したいと言う気持ちに集中をする。
そうすると、……。
私とモイラの周りに光の渦が出来る。
授業で教わっている魔法陣とは、明らかにちがう。
光の渦。
金と銀と白と黄色、それらの光が入れ替わり、時に互いに混ざり合い、渦を巻く。
そこから力強く、しかし、優しい風が部屋に広がっていく。
そして、私とモイラは、その光の渦に包まれて行く。
その渦が徐々に薄くなると、おんぼろ街の目の前に到着した。
「また、来てしまった」
ポツリと呟くモイラ。
普段なら、モイラの呟きに突っ込むところだけれども、今はそんな気になれなかった。
また、あの暴漢達に、モイラを危険な目に会わせるわけにはいかない。
来る前は、モイラが緊張してみたいたけど、到着したら私が緊張し始めた。
私は、てくてくとおんぼろ街に入って行く。
「あ、プレア様」
少し慌てて、モイラも付いて来る。
早く、黒い騎士様に会って用事をすませたい為だ。
「また、ここに来たのか? 懲りない奴だ」
私の心配をよそに、あっさりと黒い騎士様と再会した。
(この方、いつも街の周りを見張っているのかな?)
私は怪訝な顔で、黒い騎士様を見ていたに違いない。
眉間にシワが寄っている気がする。
「何だ? その顔」
最初に出会った時は、物凄い剣幕で怒っていたけれど、今回は少し穏やか。
騎士様も大人になったのね、きっと。
「あの騎士様。お尋ねしたいことがありまして、再び参りました」
私は、黒い騎士様に質問を始めた。




