57 元お転婆娘の大神官。その跡継ぎはリリィ
御医者様は、私をあちこち診察された。
「ふむ。まあ、頑丈な体だな。少しすれば落ち着くだろう」
すると、御医者様は、手帳を取り出し、何やらメモをしていく。
診察を終えたので、私は服を着た。
女騎士さんは、皆を呼びに行った。
「先生。それは、何ですか?」
私は、先生のメモを書いているペンに興味が湧いた。
「ん? 何だ? ただのペンだが。持ち歩きように、鳥の羽を加工して作ったんだ」
「へぇ」
決して良いペンとは言えなかったが、外出で処置をすることが多いので、この御医者様は自分で工夫されたのだろう。
「この薬草を集めて飲ませろ。食事の前か、間が良いな。後は、ストレスになるような激しい運動は控える事だな。まあ、……」
御医者様は、周りを軽く見まわした。
「この状況では、そうも言ってられない時もありそうだが、忠告しておくぞ」
「はい。ありがとうございます」
「医者の先生。これを」
シャランジェールが、お金を渡す。
「少しは多めに入っとるんだろうな。急に連れて去りおって」
御医者様は、お怒りだった。
「え? シャランジェール。無理やり連れてきたのですか?」
「ん? 無理やりも何も、こいつは医者の仕事はしていない」
「え?」
私を含めて皆ビックリ。
「いやいや、今はしとらんだけだ。何を言うか!」
また、ご立腹なさる御医者様。
「この度は、シャランジェールが色々とお騒がせを。ですが、来ていただけてありがとうございます」
私は、御医者様にお詫びとお礼を言う。
「この元医者は、王族専属の医者だった。ある王妃を診察の後、追い出された奴だ」
シャランジェールの新情報に、また驚き。
「そんな方が、何故ここに」
「ふん。赤い髪をした王妃と御子を見ただけだ。誰も診せようとせんかったからな。そしたら、摘まみだされた。そして、前の国では医者が出来なくなった。それだけじゃ」
赤い髪の王妃。
もしかして、それは?
「あの、目は。その王妃様の目は?」
「ん? 青かったかのう? いや、赤じゃったかのう?」
「御子様の目は?」
「赤じゃったな。皆、気味悪がっていた」
「まあ。何という」
私は、感動した。
「プレア? どうした?」
シャランジェールが心配そうに覗き込んでくる。
「その御子は、ディコ様。今、後の国の皇帝と名乗っている方です」
今度は、私の話を聞いて、守護団の皆がビックリしていた。
「ん? そんな偉い奴になったのか? へぇ」
御医者様は、それがどうしたという顔をする。
「偉いどころか、前の国を打ち倒した奴ですよ」
守護団の人が言う。
「知らんがな。患者は患者じゃ」
皆からすれば、私や守護団の皆が、このような逃亡生活を続けているのは、後の国の皇帝のせいである。
しかし、医者からすれば、治した相手が、これからどんな事をするかどうかまで見て、治療するか決めることなど出来ないという事だろう。
ディコ様を見た医者に、今度は私と私達の赤ちゃんが診てもらっている。
私は、運命の様なものを感じていた。
私達は、しばらくの間、この地に滞在した。
そして、私も落ち着いて来た所で、移動を開始する。
移動は、拾ってきたと言い張る荷車に乗せられ、私は移動した。
しかし、私は不機嫌になった。
だって、荷車って。
歩いても大丈夫なのに。
荷車作戦は、山道での移動でもあったので直ぐに廃止となった。
結局移動は、私の体調を見ながら、転移の力で移動することになった。
少しずつお腹が大きくなった頃には、数年は定住しても大丈夫な所で隠れることになった。
出産までは、ここで定住することになった。
「あなた。私は、この子に過酷な運命を託すことになってしまいます」
私は、少し、後悔し始めていた。
こんな思いをしてまで、前の国の存続を守ろうとしてきた。
自分はそれを覚悟していた。
しかし、この子には、何の相談もなく託すことになってしまう。
「そうか。だが、私とお前の子だ。大丈夫だろう」
「できれば、男の子が生まれ欲しいと思います。そうすれば、元大神官の子として、普通に生きられるかもしれない」
「だが、その前にお前が死ねば、前の国が無くなってしまうだろう。そして、この世界も。私は、どちらでも良いがな。大神官の力とやらは、男では無理なのか?」
「そう。です」
「どうしてだ?」
「大神官としての力は、受動的に力を受けて止める必要があります。受け止めてから、それを流すのです。その受け止めると言うのが、比較的容易に出来るのです」
「なるほど。難しくはないがということか。なら、女の子で良いな」
「でも、女の子では、私と同じように戦いが器用ではないかも知れません」
「大丈夫だ。私が、女でも強い剣士に育ててやる。安心しろ」
ニコリと笑いながら、シャランジェールが言った。
「それでは、私以上のお転婆になってしまいます。困りますね」
「そうか。お前は、小さい頃、お転婆だったか?」
「名前。私が決めてよろしいでしょうか?」
「名前か? もう、決めているのか?」
「ええ。百合という花の名前のから取って、リリィという名前にしたいの」
「リリィか?」
「はい。ユリの花の様に、純粋で、無垢で、威厳のある子に。そして、華やかで堂々とした子に」
「もう、女の子前提か?」
「フフフ。男の子の名前も、ちゃんと考えます」
「そうか。男なら、カッコよい名前にしてやると良い」
きっと、この人の子なら、女の子でも器用に剣も使いこなすかもしれない。
ただ、大神官としての力を発揮することが、難しくなるなろう。
この子が強い子なら、この子が死ぬまでは、前の国も持つだろう。
しかし、それでは、少し延命しただけとなる。
それでは、駄目なのだ。
だが、他に道が無い。
何とか、導けないものか?
この世界の人では、誰も無理なのだろうか?
この子の判断に全てを託すしかないのかと思うと、とても辛かった。
そして、そんな話をした数か月後。
リリィは、私達の世界にやって来た。
私と同じ銀色の髪が、とても可愛らしい。
そして、瞳は茶色だ。
元気な産声を上げながら。




