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56 つかの間の平凡な日々

 その後も、何度か追手と入れ違うように危険を回避しつつ、私達は逃げ続けていた。


 時々、ドキッとする事もあった。

「あの野郎(やろう)。少しは手加減してくれても良いのに」

 シャランジェールは、リーゲが絡んでいる時は、いつも冷や冷やするとこぼしていた。

 普通ならば、彼からは逃げ切れない。

 しかし、転移の力を使って移動する私達を、流石に追いきれないようであった。


 まるで、サーカス団みたい。


 そうして逃避行をしているうちに、私は体調を崩していた。


「どうした。最近は、時々具合がわるくなるな」

「うん。ちょっと、疲れているだけかもしれない。大丈夫です」

「そうか? 本当か?」

「ええ。ありがとう」


 そのやり取りを、守護団の年配の人が見ていた。

 彼は、女性騎士を呼び、何やら耳打ちをしていた。

 彼女は、ハッとした顔をしたかと思うと、目をキラッとさせて私の方を見た。


「ん?」

 彼女と、視線が合った。

 すると、バツが悪そうに苦笑いをし、手を振って別の所に行ってしまった。


(何かしら? ニッコリを笑っていたし。何だろう?)


 振り向いたら、シャランジェールと老騎士が、ヒソヒソと話をしながら退室して行った。


(ん?)


 すると、ドカドカと音を立てながら女子騎士が、荷物を持ってやってきた。

「プレア様。さあ、その衣装はきついので、これに着替えてくださいませ」

 何やら、フワッとした着物を持ってきた。


「え? これですか?」

「ええ。しばらくは、この地に(とど)まるようです。そして、状況が変われば、もっと安全な所に」

「そう、ですか?」

 私達は、危険を回避する為に、いつも移動していた。

 それが、何故急に?


「あ、あの?」

 尋ねようとした時、また気持ち悪くなった。

「うっ」

「だ、大丈夫ですか? プレア様。さ、直ぐに着替えて横に」

「は、はい」

 

 着替えを澄ますと、誰かがノックしてきた。

「はい。どなたですか?」

 女剣士は、優しく返事をしながらも、剣に手を充てて構えている。

「私です。プレア様に話があります。よろしいですか?」

「どうぞ」

 私は返事をした。


「失礼します。おお、着替えさせたのか。それは良かった」

「どうしたのです? わたしは、何か悪い病気にもなっているのですか?」

 それを聞いた老剣士は、女剣士に目をやった。

 女剣士は、首を振っていた。

「まだ、話していないのか。出来ればシャランジェール殿からの方が良いと思ったが、安静にしてもらわないといけないからな」

「はい?」

 何かの病気だろうか?

 そんなにずっと寝ていなければならない程、具合は悪くないのに。


「プレア様は、この辺の知識は、あまり無いのですかな?」

「え? この辺て、この周辺ですか? ここは、初めて来た場所ですので、何もわかりません」

「いやいや、違います。場所の意味では。えっと。……。お目出度です。お子さんが、出来たのですよ」


「……」

「プレア様?」

「……」

「あの、プレア様?」


「え? え?」

 

「いま、シャランジェール殿には、医者の手配をお願いしました。我々では、足がついてしまうので」

「御医者様ですか?」

「はい。一度、体調を見てもらった方が良いかと思いまして。それに、今後の事もありますし」

「はぁ」


 自分の顔が、熱くなっていく。

 わたしは、 思わず顔を両手で(おお)(かく)した。

「ふんぐ」

 

「まあ、まあ、お顔を赤くして。プレア様ったら」

 女騎士さんが、私を揶揄(からか)う。

 

「私が、私が、人の親に?」

「そうですね」

「でも、私は、……」

「大神官でも、女です。そして、今は、大神官ではありません。シャランジェール殿の奥様ですよ。プレア様は」

「そ、そうですが」

「御子様、お嫌いなのですか?」

「ち、ちがいます。そんな事は」

「なら、くれぐれも、お体を大事に。これからは、転移での移動も控える感じになります。お体に障るといけないので」

「でも、それでは」

「そうなっても大丈夫なように、シャランジェール殿が、頑張って手配されているのですよ。大丈夫です」


「はあ」


 私は、任せるしかなかった。

 

「プレア! 大丈夫か? 医者を連れてきたぞ!」

 シャランジェールが、ハァハァと息を切らして入ってきた。

 それにしても、早いお帰り。


「ノックもしないで!」

 女騎士さんが怒った。


「いや、すまん。ほら、医者だ!」

 シャランジェールは、御医者様の首根っこを掴んで、ひょいと私達の前に放り出した。

 

「んぐ!」

 思わず悲鳴を上げるお医者様。


「あなた、御医者に何てことをするのですか?」

 シャランジェールは、人ひとり片手で持ち上げられるぐらいの力持ちだった。

 

「あいたたた。医者を呼んでくれ」

 御医者が、御医者を呼べと言った。


「まあ。御医者が、御医者を」

 私は、思わず笑ってしまった。

 あんな、冷静じゃないシャランジェールを見るのは、初めて。


「あいたたた。えっと。ふむ、顔色は良さそうだな」

 お尻を撫でながらも、私の顔を見て診断されていた。


「なんだ? あんた妊娠したのか?」

 急に、真面目な顔で尋ねて来るお医者様。

「ええ。なんだか、そうみたいです」

「何だかって、なんだ。お前、母親になるのだろう?」

「えっと、すいません。そこの知識が薄くて」

「知識の問題じゃないだろ? ほら、見せて見ろ」

「はい」

 

 すると、女騎士さんが、大きな声をだした。

「ちょっと待ってください。殿方は、一旦御退出を!」

「あ、すまなかった。さ、シャランジェール殿も」

「私もか?」

 シャランジェールは、少し不満そう。

「シャランジェール。終わったら、また呼びます」

 私は、シャランジェールに言った。

「そ、そうか。では、外で待っている」


 バツの悪そうな顔で、老騎士さんと出て行くシャランジェール。

 

 私は、その姿を見た時、シャランジェールも一人の男性で、人の子だったのだなぁと思った。

 そして、これから人の親に。


 私と出会わなければ、 こんな姿を誰も見ることは無かったろう。

 私は、そんな事に、少し幸せを感じていた。

 

 

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