54 逃避行の大神官
私達は、シャランジェールが用意していたアジトで二・三日過ごすと、また移動していた。
移動は、徒歩もあった。
転移の力ばかり使うと、私に負担がかかると気遣ってくれているらしい。
後、転移するたびに金ぴかと光り輝くものだから、山中でやる麓から見られてしまうのも避けたいとの事だった。
しかし、何で、こんなに沢山隠れ家を作ってあるの?
その様な感じで、しばらく移動している途中、無数の無残な遺体に出会った。
その遺体は、私達を捜索している帝国の兵士だった。
私達一行は、周りを警戒した。
彼らを襲った何者かが、まだ潜んでいるかもしれないと思ったからだ。
しかし、シャランジェールは、特に構える様子が無い。
という事は、この周りは誰もいないと言う事かしら。
「シャランジェール。山賊にやられた感じではないですよね?」
「そうだな、プレア。人間では、ここまですることは出来ないだろうな」
そして、私は、その場の領域から、味わいたくないモノも感じていた。
「シャランジェール。きっと、人外かもしれません」
「そうなのか? ふむ。この遺体の損壊から見ると、そうだろうな」
「仲間割れ? かもしれないの?」
「どうかな。それぞれが別々に行動していて、ここで鉢合わせをしたとかではないかな?」
こうなる事をさける為に、私は立ちはだかったはずだったのに、ジワリジワリとの前の国への浸食が始まっている。
「シャリっ!」
急にシャランジェールが、剣を抜いた。
「……。囲まれたな」
「え?」
先ほどまで、安全そうな顔をしていたのに。
それに、私は、何も感じなかった。
「山賊?」
「違う。獣? いや、もっと邪悪な者」
私は、杖を自分の体に引き寄せた。
それが人外で、私が気が付かなかったとしたら失態だわ。
「全員、プレアの近くから離れるな」
シャランジェールが、皆に伝える。
一人や二人でない集団を囲むとなると、相手の数は多そうな気が。
「プレア。いつでも、転移できるようにしておけ」
「はい」
私は、あらかじめ共有し合っていた、次の転移地のイメージを整えた。
カチカチと鎧が擦れ合う音がする。
少年騎士が、緊張のあまり震えていたのだ。
「少年、落ち着け。そんなに硬くなっていては動けないぞ」
シャランジェールが、声を掛けた。
「安心しなさい。もう直ぐ転移で移動します。大丈夫よ」
私も声を掛けた。
「あの、シャランジェール」
「何だ、プレア」
「この亡くなられた兵士さんも、連れていきたい」
「ん?」
シャランジェールが怪訝な顔をする。
「……。お願いします」
イメージできる範囲なら、全員連れて行けるはず。
だったら、この山中で放置したりしたくない。
「わかった。好きにしろ。転移の場所は、隠れ家近くの開けたところに変更だ」
困ったなという顔をしたが、彼は了承してくれた。
「では、転移を始めます」
私は周りを見回して、転移対象の人達を確認した。
そして、転移を開始し、山の木々の少し開けた場所に到着した。
「一応、周りを警戒しておこう」
守護団の一人が、周りを探る。
「プレア達は、先に屋敷へ行って荷物を置いてこい。私は、埋葬の準備をする」
私達は、兵士さんの遺体は、その場に安置して、屋敷に移動した。
警戒しつつ、屋敷に入る。
そして、埋葬に使えそうな道具をいくつか持って、汚れても良い服に着替え再び元った。
彼らの埋葬を終えると、私が祈りを捧げる。
「プレア。あの感じ、人や獣の気配ではなかった」
シャランジェールが、祈りの終わった私に話しかけてきた。
「すみません。私、気が付かなかった。人外ならば、私が気が付かないといけないのに。そうでなければ、皆を守る事が出来ません。剣が、普通に通じるような相手ではないでしょうから」
「いつもプレアだけに警戒させるわけにもいかんから気にするな。今回は、私が先に察知しただけだろう。しかし、……。剣が通じないのか? 困ったな」
屋敷に戻る途中、シャランジェールは歩きながら、自分の剣を抜いて眺めていた。




