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お転婆だった見習い神官プレア。終焉(しゅうえん)の大神官として呼ばれるけど、私は最後まで抵抗するわ  作者: 日向 たかのり
第七章 対立の大神官・・・終わる、前の国。敵対する、後の国の皇帝
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53 初めての安らぎ時

 そこは、静かな別荘の様な装いだった。


「まあ。素敵」

 最後の守護団の女騎士さんが、思わず感想を漏らした。


「少し、疲れていないか?」

 シャランジェール様が心配してくれた。

「ええ。でも、これくらいなら大丈夫です」

「伝えられたイメージだけで転移とやらをしたのだ、少し大変だったろう」

「いいえ。そのイメージを見た時に、ここに行きたいと私は思ったので、苦ではありません」

「そうか。ならよかった」


「ここで、二・三日は休む。それから、また移動するつもりだ。今夜は、私が寝ずの番をする。お前達は、各自の判断で休むと良い」

 シャランジェール様は、最後の守護団のみんなに指示を出した。

「ふん! 命令するな! 私達は、プレア様を御守りする為に傍に居る。休憩は我等が交互に取る。指図されなくとも。それより、プレア様から少し離れて欲しい。プレア様は受け入れたようだが、我らは納得していない」

「そうか。では、好きにしろ。プレア、私は窓の所で外の様子を監視する。何かあったら、直ぐ起こす。今夜の所は、服は着替えないでくれ」

「はい。ありがとうございます。シャランジェール様も無理はされませんように」

 私がそう言うと、シャランジェール様は、窓際に立って、外の見張りを始めた。


「さあ、プレア様、こちらへ。我らが交代でお守りしますので」

 最後の守護団の一人が、私を部屋のベッドで横になるようにと案内してくれた。

「ありがとうございます。あの、シャランジェール様に、あまり厳しくは」

「わかっております。ですが、用心ですので」

「そうですか」

 ちょっと困ったが、しかたがない。

 つい半日前は、剣を向け合った仲なのだ。


 私の周りは、女性と少年の守護団の方が、交代で守る事になったらしい。

 後の人達は、屋敷の外や屋敷内を巡回すると言っていた。


 「皆休んでください」とは言いにくかった。

 最初の逃避行では、落ち着く間もなく刺客が来た。


 私も、心配で心配で寝付けなかった。

 目が覚めたらシャランジェール様も、皆も、死んでしまっているのではと、心配に。

 刺客相手では、私は役に立たないけれども。


 そんな事を考えながら、横になっていた。


「……」

 ずっと、窓辺を見ているシャランジェール様。


「そう言えば、私。男の人と付き合ったこと、一度も無いんだったわ」

 何も起きていない状況でも、ずっと緊張して見張っていなければならない。

 大変だろうと思って、その横顔を見ていた。


 少し、気持ちがフワフワとして来てしまった。

「いけない。寝て、しまう」

 

「……」


「!」

 ハッとして、私は起き上がった。

 そして、周りを見たら、見張りのはずの少年騎士さんと女騎士さんは、座り込んでウトウトと眠っていた。


「あら? 見張りなのに、寝てしまったのね?」

 素直に、横になれば良かったのに。


「シャランジェール様は?」

 窓側に目をやった。

 もう、日が昇ろうとしていた。

 しかし、シャランジェール様は、最初に見た時と同じ姿勢だった。


「あれ? あれからずっと、あの姿勢なの?」

 私達がホッとして眠ってしまっても、シャランジェール様は、ずっと起きて見張っていたのだ。

 

「ああ。こ、これは?」

 朝日が彼のシルエットを作り、その影が私の寝ているベッドにも伸びていた。

 まるで、私を見守ってくれているかのように。


「ん? 起きたのか? どうした? 何か悲しい事でも思い出したか?」

 起き上がった私に、シャランジェール様が気が付いた。


「え?」

 (ほほ)に手をやると、涙流れていた。

「私、泣いていたの?」

「そのようだな。何か、あったか?」


 優しい眼差(まなざ)しは、最初に会った時の目とは、全然違っていた。

 

「いいえ。ホッとして、安心したからですわ。こんなにゆっくり休めたのは、久しぶりですから」

 涙を拭きながら答える。


「そうか。まだ、ゆっくりできるはずだ。リーゲでも、ここは見つけ出せん。まだ、寝てると良い」

「シャランジェール様。あの、申し訳ありません。私達は、寝てしまっていたようで」

 起き上がった女騎士と少年騎士が、シャランジェール様に謝っていた。

「ふ。気にするな。これは、いつもしている事だ。起きたなら、ここを変わってくれんか? 私も、少し横になる」

「あ、はい。ただいま」

 慌てて、少年騎士が窓辺に向かう。


「あ、あの、こちらに」

 私は、ベッドに横になるように手を差し出した。


「……。ひとつしかないようだが」

「ええ。狭いですが、となりにどうぞ」

 私は、空いている場所をポンポンと軽く叩いて場所を教えてあげた。

「ん――。そうか。では」

 少し考えてから、シャランジェール様は、私に背を向けて横になられた。

 

 先ほどの一瞬の間は、何だったんだろう?


「あの」

「なんだ?」

「唐突ですが、暗殺命令は、皇帝から直に頂いたのですか?」

「……。本当に、唐突だな」

 シャランジェール様は少し飽きれていた。

「皇帝とは違うな。フードを被った奴が代理で居た。手渡したのは帝国の奴らだ。リーゲンダは、別の場所にいたから知らんだろう」

「そう、ですか?」

 私は、少しホッとした。

 黒い騎士様が、デュコ様が直接手渡していたらと、私は不安でならなかったからだ。


「あの」

「なんだ?」

「……。式を挙げませんか?」

「ん? 何の式だ?」


「え? えっと、それは、その」

「?」

「け……、結婚式。です」

 その言葉を絞り出すように、私は言った。

「ん? 今、何と?」


「ですから! プロポーズが終わったら結婚式を挙げるのが決まりでは無いのですかと言っているのです!」

「プ、プレア様?」

 近くで見張りでいた女騎士さんが、ビックリしてこちらを向く。


「あ!」

 しまった。

 大きな声で。

 穴があったら入りたい。


「こんな時に、式をあげるのか?」

「は、はい」

「好きにすると良い。私は、どちらでも構わない」

 その返事に、私はガッカリした。

「式を挙げようが、挙げまいが。生涯お前を守り抜くことには変わりない」

「でも。でも、私は不安です」

「どうしてだ。一人ででも逃げる覚悟をしていたのではなかったか?」

「その覚悟をしていた時もありましたが。今は、……」

「今は、何だ?」

「結婚式には、あなたを逃しませんよという意味もあるのです」

 私の話を聞いた女騎士さんが首を傾げる。

(あ、あれ? ちがうのかしら?)

 

「フフフ。そうか。私は、捕まったのか?」

 背中越しに、シャランジェール様は笑った。


 その後、二人きりにするには危険だと最後の守護団の人達の意見が多かった。

 しかし、私は、気持ちはありがたいが、信じて受け入れたので信頼して欲しいと願った。


 何とかドアの離れたところで、女性騎士が見張るという事で話が付いた。


 翌日、二人の簡単な結婚式を行った。

 最後の守護団の皆様は、複雑ながらも私達二人を祝福して下さった。

 逃亡以来、初めての経験。


 私も、大神官を引退して相手が居た時には、こうして他の誰かと結婚式を挙げてたのだろうか?

 私の笑顔を始めて見た彼らも、ホッとした様子だった。

 

 その後私達は、もう一度違う場所に転移をした。

 

 追手に、追いつかれないようにする為に。

 

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