表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お転婆だった見習い神官プレア。終焉(しゅうえん)の大神官として呼ばれるけど、私は最後まで抵抗するわ  作者: 日向 たかのり
第七章 対立の大神官・・・終わる、前の国。敵対する、後の国の皇帝
53/70

52 おんぼろ街との別れ

「ご無事で、何よりでした」

「ライラさん。私は、私は、……」

「それ以上、何を申されなくても大丈夫です」

「私は、……」

「あの子を少しの間だけ、お世話させて頂きましたが。あの子はきっと大丈夫ですわ。プレア様」

「……。大丈夫なのは、知っているのですが」

「誰と、誰の御子かは存じません。ですがあの子は、プレア様の背負っておられる事を守れる御子になると、私は感じています。こんな街で生まれた女の勘ですけれども」

「おい。こんな街はないだろ?」

 おんぼろ街のボスが、笑いながら話に釘を刺した。

「私も、あの子の事を、代々秘密に伝えますわ。もしもの希望に備えて」

「いつ、連れ戻せるかわからないのです。それでも」

「それでも。です」

 どうして、こんなに自信をもって答えられるのだろう。

 乳母をお願いしたから、私やモイラよりも長くは接していただろうけど。

 私を安心させようとする為だろうか、それとも、母としての自信からなのだろうか?


「ライラさん、ありがとう。ございます。肩の荷が下りました」

「そうですか? よかったです」

「ええ」

「プレア様。ご両親には、会いに行かないのですか?」

「……。いいえ、会いに行けません。きっと、(ぞく)が待ち構えているでしょうから。私を大神官にしようとした時に、覚悟は出来ていると思います。私、薄情ですかね?」

「いいえ。プレア様の選択がきっと良い方に動きます。ライラは、そう信じております」


「プレア。あまり長い出来ないのだがな」

 シャランジェールが言う。

 シャランジェール達は、少し離れた場所で待っていた。


「はい。あの騎士様達の埋葬場所は?」

 私は、おんぼろ街のボスに尋ねた。

「ああ、あっちだ。連れていこう」

「はい。では、守護団の皆さんも」

 私は、最後に残った守護団の皆さんに声を掛けた。


 おんぼろ街の少し離れた場所。

 この街へ来る時に見かけた、怪しい場所。


 そうか、埋葬場所でもあったのか?

 しかし、あの時は少し不気味だったのに、今はとても整理されている。


「ここは、街で死んだ奴や、この街の周りで行き倒れになった奴らを捨てる場所だった。綺麗になっているだろう? あの黒い騎士が、ここを綺麗にしておけと金を置いていってな。まさか、この為とは思えんが」

「そう。ですね」

 私は、そうと返事をした。

 でも、もしかしたら、デュコ様は、この時から覚悟していたのかもしれない。

 

「ここだ」

 複数の遺体が、穴の中に安置されていた。

「後は、埋めるだけだ。お前さん達が別れを言いたいだろうと思って待たせていた」

「ありがとうございます」

 私は、弔うために祈りを始めた。


 深い夕焼けが、心に染みた。

 

「プレア様の御祈りは、いつも穏やかで、ポカポカとした感じになりますね」

 ライラさんが言う。

「そうですか。良かったです」

「これで騎士様達も、使命が果たせたと安心して下さることでしょう」

「あの。この場所の事をご遺族に伝える事もお願いしたいのですが」

「ええ。様子を見て必ず伝えますわ」

「では、これを預けます。私が祈ったという証拠になるはずです」

 私は、自分の腕輪のひとつをライラさんに手渡した。

 

 シャランジェール様の姿を探した。

 いくら仕事とはいえ、気まずくなっているのではないかと思ったからだ。

 彼は、手を合わせることなく、ジッと私達の様子を見ていたようだ。

 その目は、自分のやって来たことを、しっかりと見定めている。

 そんな感じがした。


「戻りましょう。シャランジェール様」

 私は、皆に続いて、おんぼろ街に向かい歩き出した。

「私に、何も言わないのか? プレアは?」

「何か、言って欲しいのですか? 例えば、()()()()とか?」

 少し、意地悪な質問をした。

「クックック。 随分な事をいう」

「安心して下さい。それは、私も同じ事です」

「どうしてだ?」

「私は、あなたのプロポーズを受け入れました。人によっては、(いさぎよ)く死を選ぶべきだ言う方もいらっしゃるでしょう。ですが、私には、それが出来ない。きっと、ずるい女だと見られる事もあるでしょう」

「後悔しているのか?」

「後悔などしていません。私は、あなたに掛けたのです。次の希望を繋ぐために。他の女性なら、違う道を考えたかもしれません。しかし、私は、前の国に数百年ぶりに任命された最後の大神官です。簡単に、諦めるわけにはいきません」

「そうか」

 

 おんぼろ街に着いた頃には、暗くなっていた。


「おい、シャランジェールとやら、用意して置けと言う荷物は、これで良いか?」

「ああ、ボス。十分(じゅうぶん)だ。これは費用だ」

 シャランジェール様は、懐からお金をだした。

「いらねぇ。これから、必要になるんだろう」

「そうか? それは助かるが」

「プレアも、この街に縁のあった奴だ。それに必要だろ? これから色々と。それは餞別だ。な、プレア」

 急に話題を振られた。

 その顔は、何故かニヤニヤと笑顔になっていた。

「え? ええ。沢山あった方が良いのは確かですが、本当に良いのですか? それに、何故ニヤニヤしていらっしゃるのですか?」

「いいよ。さっさと行け! 帝国の連中が来たら、この街の人間は逆らえん。前の国の時とは、勝手がちがう。様子が変だしな」

 おんぼろ街のボスさんも、何気(なにげ)に感がするどいのかしら。

 

「はい。御言葉に甘えさせていただきます。では、シャランジェール様。それは、仕舞(しま)って下さい」

「そうか。わかった」

 シャランジェール様は、元の袋に入れ(ふところ)に戻した。

 

「ではプレア、次の転移の場所だが」

「あ、はい。で、地図とかで場所を教えて頂けるのでしょうか? 大体のイメージとなりますが」

「それでは、開けた場所にしか移動できないだろう。まあ、どういう原理か良くわかっていないが。一つ考えがある」

「なんでしょう?」

「プレアは、礼拝堂内で声を掛けてきたな」

「はい。結界の中に包み込んでしまうと、口に出さなくても思いが通じるので」

「それで、私の示す場所のイメージを伝えられるかもしれん」

「え? そうなのですか?」

「やってみて損はないだろう。試せるか?」

「はい。では」

「ふむ」


 私は、シャランジェール様と私の周りに結界を展開した。


「ほう、目に見える様にも出来るのか?」

「まあ、いろいろと」

「なるほど。では、イメージを伝える。ここは、私が隠れ場所として、普段から探して用意していた場所だ。この場所は、リーゲも知らん」

「あ、はい。とても、静かな御屋敷ですね」

「今日は、そこで休もう。一日、二日(ふつか)は過ごせるだろう」

「はい、わかりました。凄く素敵な御屋敷ですね」

 私は、結界を解いて、皆に声を掛けた。

「守護団の皆様! ご用意をお願いします」


「はい。プレア様。皆集まっております」

「はい。では、転移を始めます」

「はい」

「プレア様、お元気で!」

 ライラさんが、手を振ってくれている。

「プレア。もう二度と来るな。お前が来ると面倒ばかりだ。最初は、黒い騎士の奴に()たれるし」

 と、ボスさん。


「では、皆さん。行ってまいります」

 私は、別れの挨拶を、「さようなら」ではなく、「行ってまいります」と言った。

 

 光と風の渦が広がり、転移が始まる。

「お気を付けて! プレア様!」

 

 ライラさんの声に見送られて、私達は、おんぼろ街を後にした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をエイッと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!

執筆の励みになります。ぜひよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ