51 騎士の名誉の為に
「それで、転移とは、どうやってするのですか?」
シャランジェールが尋ねる。
「はい、転移先をイメージして、転移の力を使います」
「それだけ?」
「はい。それだけです。シャランジェール様」
「転移させる人間は、選べるのですか?」
「はい。ですが、この範囲の人という大雑把な感じの方が、負担が少ないのです」
「ふむ。……」
シャランジェールは。少し考えていた。
「では、大神殿の外に移動しなければなりませんね」
「あ!」
そうか、このまま転移すれば、リーゲさんも一緒に連れて行ってしまうということね。
「そう、ですね」
「……」
「あの? 何か?」
「いえ。その、外には、あなたを守っていた騎士達が、死んでおりましてね」
「……」
そういえば、そうだった。
私は、浮かれていた。
「外に、移動します。あまり、時間も無いのでしょうし」
「そうですな」
そして、礼拝堂の守護団の皆にも声を掛け、礼拝堂の外に出る様に言った。
「……」
言葉が、出なかった。
そこには、先ほどまで私を守っていて下さった守護団の騎士様達が、全員亡くなられていた。
「彼らは、強かった。礼拝堂の者達のように対処していたら、我等がやられていた」
立ち尽くす私に声を掛けるシャランジェール。
「詫びるつもりはない。ただ、言えることは、……」
私は、シャランジェールの言葉を待った。
「ただ、言えることは。彼らが、礼拝堂内にいたら、その勢いであなたの命も奪っていたかもしれません。そういう、相手でしたよ。あなたを守っていた守護団の騎士達は」
目の前が、涙で滲んで見えづらい。
「私を守る為に、……」
「悲しんでは、この騎士達に失礼ですよ。騎士としての本分を果したのです。彼らは」
私は、持っていた杖を、強く握りしめた。
「あの。この方達も、連れて行きます」
「え? この騎士達も?」
「はい。そうです」
「しかし、もう死んでいます。それに、人数が多い」
「嫌です。置いていけません」
「う――ん」
シャランジェールは悩んでいる様だった。
「わかりました。皆に、遺体を一か所に移すように申し伝えてください。私が言っては反感を買うだけでしょうから」
「はい。そうですね」
「では、少し、小細工をしていきます」
すると、シャランジェールは、亡くなられた騎士の方々の血を集め始めた。
「な、何をしているの?」
びっくりした。
「ああ、リーゲンダの為です。このまま我らが逃げれば、奴に嫌疑が掛かります。討たれて気絶した状態ならば、言い訳が立つというもの。その為です」
そ、それにしても。
礼拝堂内に居た守護団の皆さんも、目を丸くしている。
というか、嫌悪の目でシャランジェールのしていることを見ていた。
私は、もう一度礼拝堂内に入って中の様子を見た。
これが、最後になるかもしれないから。
倒れているリーゲさんには、沢山の血が掛けられていた。
あれで生きていれば、奇跡と誰も思う事でしょう。
私は、祭壇前で一礼をして、退室する。
「皆さん。準備は宜しいでしょうか?」
「はい。プレア様」
「シャランジェール様。あなたも大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「では、参ります」
いつもの様に転移の力を使う。
風、光、渦。
混ざり合い、広がっていく。
私の為に、最後まで戦ってくれた守護団の方達も、それは包み込んでいく。
「転移します」
私は杖を下に、「トン!」と付いた。
「わ、凄い。星空を飛んでいるみたい」
女性騎士の人が言う。
そして、おんぼろ街の広場に転移した。
しかし、転移が終わると、私は頭がフワッとなってしまった。
「あ、プレア様!」
気が付いた時には、シャランジェール様が私を抱きとめていた。
「大丈夫ですか? やはり、騎士達の分までと言うのは無理をしたのでは?」
「いいえ。これは無理をしてもやらなければ。私の責任ですので」
「そうですか」
シャランジェールは、少し険しい表情になった。
「また、来たのか?」
どこかで聞いた下品な声。
「はい。また、来てしまいました」
最初に訪れた時、私を切ろうと襲ってきた、このおんぼろ街のボスさんだ。
「今度は、大人数だな」
「はい。色々お願いがありまして」
「後の国の皇帝と事を構えるのは出来ないぜ。あいつは、この街の人間にとっても無関係じゃない」
「そのお願いではありませんよ」
「じゃ、何だ?」
「旅の準備をお手伝い頂きたくて」
「はぁ。で、その男が、詳しい段取りを知っていると」
「はい。この方は、シャランジェールと言う方です。私を殺しに来た刺客だった方です」
「あ、そう」
「……。それだけですか?」
「もう、驚かねぇよ。それに、後ろの騎士さんの遺体。埋葬してくれってことだろう?」
「察しが早くて助かる。もろもろの手配をお願いしたい」
シャランジェールが言う。
「ふ――ん。わかった。おい!」
ボスは仲間に声を掛け、亡くなった守護団の騎士達の遺体を運び始めた。
「土葬になるけど、構わないよな? プレア」
「はい」
荼毘にしている時間はない。
「プレア様」
どこかで聞いた、懐かしい優しい声。
「あ、ライラさん」
わたしは、泣きそうになってしまった。
「まあ、まあ。色々と大変でしたですね」
ライラさんは、私をギュッと抱きとめて下さった。




