46 守護団の戦い
私と守護団は、前の国の山奥に向かって移動を始めた。
聖導会派の貴族の方々が、避難先にと用意してくれていたところだ。
第三者を介して用意してもらっているので、万が一聖導会の貴族の方が詰問されても、直ぐにはバレないように配慮されているという。
「プレア様。着きました。こちらに」
「ありがとうございます」
守護団の騎士の方に手を引かれ、馬車を降りた。
「プレア様。しばらくは、こちらにて様子を見たいと思います。状況が変わらないか悪化すれば、他の場所に移動をするつもりです。荷物は、使う物だけ下ろして乗せたままにいたします」
「はい。お任せします」
私に、戦闘や雲隠れの才能はない。
だから、任せるしかない。
転移の力を使って移動も考えた。
しかし、それを使うと、手の内を見せてしまう事になると思って、敢えて馬車での移動にした。
それに、守護団のみんなにも、転移の力を見せてはいない。
隠れ場所に落ち着いて、ひと時が過ぎた。
「プレア様。王国側の情報が入ってきております」
「なんでしょう?」
「皇帝側の方も、プレア様が居なくなったことを確認したようです。それと、プレア様は病で倒れられ、治す為の祈祷を行う必要があるとの理由で、大神殿の周りを立ち入り禁止にしたそうです」
「そうですか。私が病に。どんな病なんでしょうね?」
「それと、暗殺者らしき人達が、王宮に集められていたとのこと。その後、一斉に各地へ散って行ったそうです」
「他の神官達への影響は?」
「はい。正確に確認は出来ておりませんが、追手を出したり、国内に引き戻す等はしていないようです」
それを聞いて、ホッとした。
そして、いよいよ、始まるらしい。
「プレア様。別の場所へ移動の準備を始めましょう」
「……。はい」
私は、少し間をおいて返事をした。
いったい、いつまで、何処まで逃げ切れるのだろう。
こうした戦いの素人の私に、ただのお転婆で、アチコチ散策してただけの見習い神官だった私に。
「あの、隠れ場所のリストの様なものはありますか?」
「あ、はい。こちらに。お見せするだけで、お渡しは出来ませんが」
「ありがとうございます」
隠れ場所には、自分が転移で行った場所も含まれていた。
景色が綺麗だからと、モイラと行った場所もあった。
「出発するぞ!」
私達は、次の隠れ場所への移動を開始した。
移動の際も、聖導会派の貴族の皆様が、皇帝側との折衝を続けてくれていた。
人外の恐怖で影から支配されている皇帝側は、大神官による正当な王位継承を求めて来ているので、話は平行線だったと聞いた。
聖導会派の貴族の中にも、認めてしまえば良いではないかと言う者も現れて、意見が統一出来ていない。
下手をすれば、私が突き出されることも、考えておかねばならないだろう。
ただ、不思議なことを聞いた。
後の国の皇帝と謁見した者が、誰もいないと言う。
私は、黒い騎士様、後の国の皇帝であるデュコ・アウローラ・ステルラ様の身を案じた。
人外と取引をして、無事でいられるものだろうか?
取り込まれて、人格が崩壊していないだろうか?
最初に出会った頃の姿が忘れられない。
赤い髪、赤い瞳、鋭い表情。
アクス様が心を砕き、守ろうとされた方。
「今夜は、こちらにいたしましょう」
次の隠れ家に到着した。
「プレア様。お手を」
守護団の騎士様が、いつものように手を差し出して手伝おうとしてくれた。
しかし、私は足を引っかけて躓いてしまった。
「あっ!」
「プレア様!」
馬車の上から落ちそうになった私を、騎士様が支えようとしてくださった、その時……。
「ぐっ!」
突然の騎士様の呻き声。
「あ、あの? あっ!」
私と騎士様は、一緒に馬車から雪崩落ちた。
「あ、プレア様。おい、お前どうした?」
騎士様は、私を庇うように抱えて、一緒に地面へ雪崩落ちた。
「騎士様。大丈夫で……?」
私は、庇って下さった騎士様を案じて、声を掛けようとしたが、騎士様の目は白目を向き、口から泡を吹いていた。
「!」
(し、死んでる)
言葉が出なかった。
怖かったからではない。
私の身代わりになってしまったことが、ショックだった。
「プレア様!ご無事ですか? おい! 周りを囲め。賊がいるぞ!」
鎧の隙間に棘の様なものが刺さっていた。
「これは、毒矢か何かか?」
警護の騎士様が、亡くなった騎士様の遺体に刺さっているのを確認する。
「直ぐ馬車にお戻りください。直ぐに移動します」
「はい」
私は、立ち上がった。
「あ、あの、この騎士様も、一緒に乗せて頂けませんか?」
「え? え? もう、こいつは死んでます。遺体は、このまま捨て置きます」
「駄目です。乗せてください」
「わ、わかりました。おい!」
私は、身代わりに亡くなられた騎士様と一緒に馬車へ乗り込んだ。
周りを警戒する守護団の皆様。
しばらくの静寂が続く。
守護団が出て来いと威嚇するも、姿をあらわす様子が無い。
「このままいても仕方があるまい。移動するぞ。その途中で追ってくる者を確認する他あるまい」
「そうだな。では、移動するか?」
確かに、そうかもしれない。
しかし、単に移動だけでは、隠れて後を付けられるだけだと、私にもわかる。
「待ってください。私に提案があります」
「何でしょうか、プレア様? 今は、一刻も早く移動しなければ」
騎士の方は焦っておられた。
「大神官としての力を使います。皆様を、次の隠れ場所へ転移させます。これならば、追手も振り切れます」
そうだ、転移の力を使おう。
「え? 何ですか? 大神官の力? 転移?」
「はい。転移の力を使います。任せて頂けませんでしょうか?」
初めて聞いた様子の騎士様は、戸惑っていた。
「そう言えば、プレア様は、数百年ぶりの大神官と聞いております。大神官のお力があり、それを使おうとなさっておられるのですか?」
「はい。この人数なら可能かと。祈る間の時間だけを作って頂ければ」
「……。わかりました。お任せします」
「はい。ありがとうございます。では、皆様を、馬車の近くに」
「了解いたしました。おい、皆、下ろした荷物を纏めて、馬車の近くに集まれ」
話を聞いていない守護団の方々は、何が始まるんだろうという顔をしながら集まって来た。
「あの、窓は締めてください。毒矢で、狙われるかもしれません」
本当は、外でやりたいのだけれども、この状態では仕方がない。
降りた時の周りの人達をイメージに捉え、次の隠れ場所もイメージする。
かなりの荷物と人数。
結界と違って、無事に移動させなければならない。
(あの場所にしよう)
いつもの様に、光と風が織り交ざり、守護団のみんなを包み込んでいく。
馬車の中にも、その光と風が渦巻いている。
「おお。何だこれは?」
皆、一様に驚いている。
降りる時に見た範囲の人と荷物、これが十分に囲まれた事をイメージした。
そして、杖を、馬車の床にトンと付いた。
「こ、ここは? 移動したのか?」
外の様子はわからないが、転移は無事に終わった。
「き、奇跡だ!」
「凄いぞ! 何だこれは?」
「おい、喜んでいる場合ではないぞ! 周りに賊がいないか調べろ! 駄目なら、また移動しなければならないんだぞ!」
安全確保の為の、周りの探索が始まった。
私は、亡くなられた騎士様の両手を胸の上に合わせて、冥福を祈っていた。
「プレア様。安全が確認できました。ここで、休みましょう」
「はい」
「凄いものですね。これが、大神官様の御力ですか? あれが、転移の力ですか?」
「ええ」
流石に、奇想天外な方法で移動したためか、夜になっても周りに追手の気配はしなかったらしい。
その日は、人外との戦いを始めてから、久しぶりにゆっくりと休むことが出来た。




