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お転婆だった見習い神官プレア。終焉(しゅうえん)の大神官として呼ばれるけど、私は最後まで抵抗するわ  作者: 日向 たかのり
第七章 対立の大神官・・・終わる、前の国。敵対する、後の国の皇帝
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43 その人外の正体

 光の柱を跳ねのけて逃げようと、もがき、あがき、苦しむ灰色の人外。

 しかし、光の柱は、逃すまいと人外を、()()()と押さえつける。

 

「キッ、キキキキキキ――キ! ギ――!」


 人外は、恨めしそうに、こちらを(にら)む。

 しかし、私が、祈りをやめることはない!

 

「ギ――! ぎぃ――! ぐぅ――!」

 その叫び声は、次第に女性の声に変っていく。


「ぐぁ――! や、やめ、て――! やめ、ろ――! ぐぅぅぅ――!」


「お、女の人の声? プレア様、あの人外、女の子なのですか?」

 と、モイラ。

「え? モイラ、何だって? 人外が女? どういうことだ?」

「いや、人外が女の人じゃなくて、プレア様の前にいる灰色の人外の事でしょう? モイラ、状況を説明してくれないか?」


 各地の神官の皆さんは、声だけなので、こちらの様子まではわからない。

 灰色の人外への浄化を始めた時から、国境全域にいた人外達は、攻撃することをやめて、「ギ――、ギ――!」と泣きわめいているだけになっていた。


「あ、すいません。プレア様が浄化を始めた灰色の人外さんから、女の声が聞こえたのです」

 モイラが、こちらの様子を伝えた。


「私の近くにいる方は良く見ておきなさい。これが、あの『人外』の正体です」

 私は、さらに杖を強く握りしめる。


 骸骨(がいこつ)のような姿を、光の柱が容赦なく引きはがし、分厚い殻の中に閉じこもっていた者を引きずり出す。

 かつて人だった怪物の。


「あ、やっぱり、女の人です。見たことの無い服を着ています。姫様のような。そんな感じがします。体を丸くし、うずくまっています」

 体を丸くし、人外の中に埋まっていた女性が、ぼんやりと見えてくる。


「モイラ、ありがとう。私から、この者の過去について、見えてきたことを皆様に伝えます」

 その分厚い人外の外皮は、積み重ねてきた罪のひとつひとつなのだ。

 それを、無理やり引き剥がし、人であった時の心の姿を、世にさらそうとしている。

 

「それは、数万年も前の過去の話。その灰色の人外は、とある国の姫だったようです。その頃、その国の祭事を司る若い司祭に、その異国の姫は恋焦がれていました」

 元人外だった女性は、血涙を流しながら、過去をさらされることに苦しんでいる。

 しかし、わたしはさらに続ける。


「その姫様は、その司祭様と結婚しようとしていました。しかし、その司祭は神に仕えるものとして、それを断っていたのです。しかし、異国の姫様は、強引に叶えようと考えました」


「業を煮やした異国の姫は、我が意のままにしようと司祭を捉えました。そして、司祭をやめて自分の愛を受け入れて結婚するように迫りました。しかし、それは拒否されました。異国の姫のの願いを拒み続けた司祭は、そのまま獄中で亡くなりました」

「それは、哀れな。誰も、止める人がいなかったのか?」

 異国の姫の過去世の話を聞いた神官が、思わず溜め息(ためいき)を漏らした。

 

「思いのかなわなかった異国の姫は、嘆き悲しみました。ここまでは、いつの時代にもある、良くある愚かな話です」

 私は、話を続けた。

「悲しむ異国に姫は、あろうことか国を領民全てを生贄にし、司祭を生き返らせようと考えました。その国でも禁忌とされた、死者再生の儀式を行おうと考えたのです。そして、実行してしまいました」

「なんと、過去に同じことをしていたのですか?」

 さすがのモイラも驚く。


「念願が叶い、死んだ司祭は蘇らせる事が出来ました。しかし、蘇った司祭は、前と同じではなく傀儡(ぐぐつ)の様な状態でした。この惨事(さんじ)に恐怖した近隣諸国は、この異国の姫を討伐しようと、軍を送り込んできたのです。兵どころ人もいない国ですから、反撃などできません。異国の姫は捕らえられ、処刑が決定されました」

「これを不服とした異国の姫は、自らに人外となる呪術を掛け、彼らを打ち払おうとしたのです」

「姫が、人外となる呪術を行い始めた時、傀儡(ぐぐつ)の様だった司祭が、姫の呪術を阻止したのです。呪術は中途半端な状態で失敗し、そのまま姫は(やみ)に引きずり込まれて、最深部(しんえんぶ)に落ちて行きました」

「哀れな姫に涙を流していた傀儡(ぐぐつ)の司祭は、やがて体が崩れて土に返っていきました」


「以上が、この灰色の人外の過去世の姿です」

 私は、一通(ひととお)り話し終えた。


 元灰色の人外だった、その女性は、座り込んだまま私の話を黙って聞いていた。

 光の柱は、さらに浄化を進めている。

 しかし、最初の時に比べたら、光は優しい柱になっていた。

 

「これが、あなたの過去してきたことですね。これからあなたは、最初からやり直すのです。全てを忘れて、最初からです。しかし、あなたが愛した司祭様の事も忘れることになります。それは諦めてください。覚悟が出来たら、頷いてください」

 私は、その異国の姫に最後の審判を伝えた。


 異国の姫は涙を流しながら、ゆっくりと頷いた。


「まぁ」

 それを見たモイラ達も、涙を流していた。

 

 私は、杖を胸元に引き戻し、ゆっくりと下へ下ろし床に立てた。


 すると、浄化がさらに進み、異国の姫様は赤ん坊の姿になった。

 光の柱が、静かに引き上げられていくと同時に、その赤ん坊も天に昇って消えていった。

 

「……」

 ディコ様も、モイラも、神官達も言葉がなかった。


 他の人外達は、さっきから固まったまま動かない。

 だが、直ぐに、カチカチカチと歯音を立て、一匹づつ闇の奥に消えていく。

 無数の人外達は、あっという間に消えていった。

 

「ディコ様、私は言いましたよね。簡単に(かた)が付くと。この国の領民を生贄にして、母上様とアクス様を蘇らせようとすることは、諦めてください」

 後の国の皇帝デュコ様も、人外達が作った闇の中に消えて去っていった。

 その目は、私をずっと見据えていた。


「お、終わった。のですか?」

「や、やった――!」

 皆、ホッとして、感嘆の声を上げていた。


「皆様、ご苦労様でした。そちらの片づけが終わり次第、皆様戻って頂きます。よく、頑張りましたね。ありがとう」

 私は、感謝の言葉を述べた。

 私一人ででも、結界は貼れただろう。

 しかし、私の心の中は、彼らの存在で守られていた。

 一人で戦っていないと言うことが、何よりも心強かった。

 

 そして、残務整理が終わり、転移の力で次々と大神殿に神官達を連れ戻した。

 

「これで、この国の危機は終わったのでしょうか?」

 と尋ねられる。


「いいえ、これからが本番です。人外達は、まだ諦めていません」

「プレア様」

 悲しい顔をする私を、モイラが心配してくれた。


「あのような形で、引導を渡すこともあるのですね?」

 モイラの近くにいた神官が。私に尋ねた。


瘡蓋(かさぶた)を無理やり剥がす様なやり方なのです。本当は、やりたくなかったのです」

「確かに、無理やり心の中を、丸裸にされるようなことでしょうからね」

 

「この件で、人外達は、ますます大神官の私の存在を許さないことになるでしょうね」

 

 これは、まだ、前哨戦であること。

 私だけでは、解決することが出来ない戦いが、始まっていくのです。

 

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