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お転婆だった見習い神官プレア。終焉(しゅうえん)の大神官として呼ばれるけど、私は最後まで抵抗するわ  作者: 日向 たかのり
第七章 対立の大神官・・・終わる、前の国。敵対する、後の国の皇帝
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42 対決

 巨大なドクロの怪物。

 人間の頭蓋骨と背骨、肋骨のようなものがそこから幾十本も生えていて、手足の様に動かしている。

 その目は、深い暗闇で何も見えない。

 そして、中は空洞。


 そう、これが人外だ。


「驚いたものだな。国丸ごと結界で囲めるのか? これでは、人外達の(にえ)に出来ないではないか?」

 人外を幾百体も引き連れて、後の国の皇帝と自称するデュコ・アウローラ・ステルラが、この化け物達と共に現れた。

 かつて私が、黒い騎士様と名付けた、あのお方。


「大神官や神官が、ただの拝み屋や占い師ではないことがわかっていただけましたか?」

 私は、少し無理をしながら笑みを浮かべ、答えた。

 そして、私は杖をまっすぐに立てながら、私の近くに引き寄せた。

「とうとう、このような手段を取られたのですね。……。とても、残念な事です」

 私は、ため息をつきながら、後の国の皇帝デュコへの視線をそらさずに言った。


「残念も何も、最初からこうするつもりだった。我が母上とアクスの為ならば迷うことはない」

 険しい表情をしながら、後の国の皇帝デュコは言う。


「全土を人外達が取り囲んでいる。そなたの結界がいつまで持つかな。こいつらは何も食べずに何日も攻め続けられる」

 後の国の皇帝デュコは、続ける。


「プレア様。あのデュコの言う通りならば、私達は不利です」

 各地の神官達が心配している。

 確かに、そうね。

 だけれども、私、そんなに長く付き合うつもりは最初からないわ。


「最悪の選択を選んだようですが、ここで引き上げて頂けませんか? まだ、間に合います」

 私は、後の国の皇帝デュコに言った。

「これ以上、人外を沢山連れてこようとも、あなた方を通す気はありません」

 そして、杖の持ち手の先を皇帝に向けた。

 

「ここで引けと言うのか? 聞けぬ願いだな。 時間稼ぎのつもりなら、これは意味がないぞ」

 

 時間稼ぎをしているつもりはないんだけれども、やはりデュコ様は受け入れて下さらない。

 後の国の皇帝デュコは、右手をゆっくりと上げた。

 すると、人外達がけたたましい奇声を、あちこちで上げ始め、ざわめいた。


「プ、プレア様!」

 心配する神官達。


 後の国の皇帝デュコは、振り上げた右手をサッと振り下ろした。


「ギギッ――!」

 人外達が、奇声を上げ、鋭い牙や爪を伸ばし、結界にもう突進してきた。

 私には、ものすごい数の人外が、嚙み砕こうと飛び掛かって来た。

 その数は、千や万の数ではない。


「ガッガッガッガッガッガッ! ッガッガッガッガッガッ!」

 無数の牙や鋭い爪を突き立て、結界を噛み破ろうとうしてくる。

 私の張った結界は鉄で出来た盾の様に、この牙をはじき返した。

 人外達の鋭い牙も鋭い爪も見事に防いでいてくれている。


 それでも、人外達は諦めない。


「うっ、うわぁ!」

「ひ、怯むな! プレア様を、信じろ!」

 壮絶な攻撃に、少し怯む神官達。


 私は、激しい攻撃様子をを受けている間、デュコ様の周りを見ていた。

 後の国の皇帝デュコ様の横に、気になる人外がいた。


 少し、灰色で、他の人外達とは毛色が違う。


(あれは? なに? 同じ人外なのに? 色が違う?)

 それは、他の人外と同じように結界を食い破る攻撃には加わっていない。


(プレア様、お気づきになられておりますでしょうか? もしかして、あれは、この群れの「親分さん」なのではないでしょうか?)

 モイラも気が付いたようだ。

 それにしても、お化けより質の悪い(たちのわるい)怪物達の(かしら)を「親分さん」なんて言うモイラって。


(そうね。モイラの言う通り、「親分さん」だと思うわ。さて、そろそろ、こちらからも打ち返していかないとね。私は、大丈夫でも、皆の心が持たないですからね)


(プレア様。申しあわけありません)

(申し訳ございません)

 各地で結界を維持している神官さん達からだ。

 正直、怪物を相手に対峙しているだけでも、凄いんですけど、皆様は。


「もう一度、言います。無駄ですから、ここで引いてください。この国を生贄にするのを(あきら)めてください」

「プレア。何度も、同じ事を……」

「いいえ、デュコ様に言ったのではありません! 私は、デュコ様の隣にいる灰色の人外さんに言っているのです!」

「何?」

 その言葉を聞いたデュコ様は、驚いた顔をした。

 その表情を見て、確信した。

 やはり間違いない。

 あの灰色の人外が、この全ての元凶(げんきょう)、黒幕だ!


「言葉が分からないふりをするのを、お()めなさい。あなたは人と会話が出来るのでしょう?」


 しかし、その灰色の人外は、何も答えない。

 窪んだ黒い目を向け、何も答えない。


(何なの? こいつ!)

 私は、少し腹が立ってきた。


「人をそそのかし、この世の断り(ことわり)を犯そうとするのなら、容赦しません。これは、最後通告ですよ!」

 私は、杖を構えなおした。


 その灰色の人外は、私を見てニヤリあざ笑っている。

 ディコ様は、そのやり取りを黙って見ていた。

 私が元凶を簡単に見抜いたことに、驚いているのだろうか?

 

 しかし、その間も、結界を嚙み砕き食い破ろうと、他の人外達は無数に飛び掛かって来ている。


「プレア様」

 神官達の声が聞こえてくる。


 私は、目をつむり、少しの間無心になった。

 他の皆に、葛藤を悟られないようにする為に。

 

 そして、ゆっくりと目を開けた。

 

「わかりました。これから、あなたを『浄化』します!」


 私は、灰色の人外に杖を向けた。

 それから、大神官だけに伝えられ、唱える事ができる祈りを、私は唱え始めた。


 それは、この世界の誰もが聞いたことのない言葉。

 私の、胸の中から出てくる言葉。

 それは、約束された言葉。

 

 祈り始めた私の胸からは、光が漏れ出している。

 同時に、杖からも光が出始る。

 すると、空の上から一筋の光が、私の上に降りて来た。


 私は、杖を両手に持ちなおした。

 そして、持つ両手を(うえ)()げ、その光を受ける様にする。


 光は。

 さらに太く光輝(ひかりかがや)いていく。


 その光が十分満ちてきたころ、ゆっくりと私は目を開く。

 

 私は、ディコ様の横にいる灰色の人外を、もう一度確認。

 そして、杖の先をスッっと灰色の人外に向けて振り下ろした。


 その光、人外に向かって一直線に落ちていく。


「ズンッ!」

 

 重く重低音の地鳴りが聞こえた。

 恐らく、前の国の人達には、大きな地震が起きたように感じていることだろう。

 それほど、物理的にも激しい衝撃!

 

 人外の上に届いた時、それを覆うように太くなり、光は柱の様に太く力強く輝く。

 滝の様に降り注ぐ、その光。

 灰色の人外は、たまらず地べたに這いつくばった。


「キッ、ギキキキキキ――キ!」

 悲鳴を上げる灰色の人外。


 ディコ様を含めた他の人は、眩しさで目を覆いながらも、その様子を見ている。


「ガチャ! ガチ、ガチ! ガチャ!」

 

 灰色の人外は、光の柱から逃れようとあがく。

 だが、光の柱は、人外を凄い力で押さえつけているので、身動きが取れない。

 光の柱は、灰色の人外を逃すまいと押さえつける。


 そして、光の柱は灰色の人外の硬い体の外皮(がいひ)を次々と、容赦なく引きはがす。


「な、なんと? あの化け物が、悲鳴を上げて。しかも、固そうな骨のような体が、バラバラと剝がされている」

 その光景に、驚く神官達。

 

 気が付くと、周りの人外達もその光景に戸惑っているのか、結界を食い破ることをやめていた。

 

 

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