35 決断
「私の思い違いでしたら謝罪いたします。ですが、仮にそうであったなら、そのような非道な事はおやめください。そうしてまで蘇って嬉しいと思う人が、世の中に居ると思えません。ましてや、アクス様は、お怒りになりますでしょう。どうか、諦めてください。そして、もう一度お伝えしますが、そのようなお考えをするのであるならば、私はデュコ様を皇帝や王として承認することはありません。例え、この身がどのようにされようともです」
私は、何とか諦めさせなければと思った。
しかし、デュコ様の目は、その意思を変えようとされる様にはならなかった。
「時は、既に動いている」
デュコ様は、一言だけ答えられた。
もう、既に取引を済ませてしまったと思うほかない。
しかし、どうやって接触したのだろう。
アクス様は、こうなる可能性があったから、必要以上に関わり、この方を助けようとされたのだろうか?
そして、……。
この計画は、既に引き返せない所になっていると見た方が良いのかもしれない。
「では、私を殺し、その後好きなだけ皇帝なり、王なりと名乗ればよろしいのでは?」
何とか、諦めて頂くことは出来なのだろうか?
しかし、これでもデュコ様は、その意思を変える様子がない。
しばしの沈黙の時間が流れた。
モイラは、懐にある短剣を握り締め、心配そうに私達を見ている。
「やはり、大神官が承認した皇帝か王の立場で行う事が、契約成就の条件なのですね?」
ここまでの拘り様、そうとしか思えない。
「だから、私がどんなに頑迷に抵抗しても、私を切るわけにはいかない。そうなのでしょう? そして、ゆっくりと説得なりする時間もないのですね?」
「ならば。……。ならば、ここにいる神官達を一人つつ切る。お前が『はい』と言うまで」
「おやめ下さい。例え、他の誰かを犠牲にしようとも、私が認めることはありません。聖導会に集う神官達は、皆その覚悟でおります」
「私が皇帝になるのを認めず、私の願いを妨げるのなら、お前も私の敵だ!」
デュコ様は、そう言って剣を鞘に納めた。
そして、委任状の書類を取り戻して、大神官室を去ろうとされた。
「デュコ様! デュコ様に取って、アクス様は、どのような存在なのですか? 私の知っているアクス様は、そのような形で蘇らせて貰って喜ぶような方ではありません。それは、デュコ様も御存じのはずかと思っておりました!」
立ち去ろうとされるデュコ様に私は叫んだ。
デュコ様は、一瞬立ち止まられた。
しかし、そのまま振り向きもせずに大神官室を出て行かれた。
ああ、黒い騎士様は、全ての業を背負っていくつもりなんだ。
仮に、あの時、おんぼろ街で私の言った母上様と一緒に逃げたとしも、騎士様のに代わりに、誰かが生贄になるような人が出て来る。
黒い騎士様も分かっていたんだ。
私が終焉の大神官の定めから、逃れようとしなかったように。
騎士様も、この国の、この世界の闇を背負わされる覚悟をしていたんだ。
本当は、死者復活なんて、どうでもよいんだわ。
例え躯であっても、愛した人と一緒に居たい気持ちだけが、この人を支えていたんだ。
アクス様、クロス様。
私では、この方を救えませんでした。
プレアは、どうすれば、どうすれば良かったのでしょう?
どこで、私は選択を誤ったのでしょうか?
出て行かれた後、隣の部屋に押し込められていた神官達が戻って来てくれた。
「プレア様、モイラ。良かったご無事で。良かった」
「皆様達も、怪我が無いようで良かったです」
互いに無事を確認し安堵した。
「プレア様。デュコ様は、何を要求されたのですか?」
当然の疑問でしょう。
しかし、私は答えられなかった。
私が承認した皇帝という立場から、この国の人々を生贄にして、自分の母とアクス様を蘇らせようとしているだなんて。
気でも触れていると思う事だろう。
「その事については、話せません」
そう答えるしかなかった。
「畏まりました。プレア大神官。改めて申し上げます。私達は、どのような結論をお出しになっても、大神官のお考えを支持する覚悟です。決して、私達の命を庇う為に、御意思を曲げることの無いように」
皆は、そう言って私に選択を任してくれた。
「ありがとうございます」
ホッとした。
何も解決していないけれども。
そう思ったら、崩れ落ちる様に椅子に腰を下ろしていた。
杖をうっかりと手放してしまいそうだった。
「プレア様。少し、横になって御休み下さい」
モイラが言う。
「そうね。少し休もうかしら」
「皆様、雑事はお願いいたします。私の判断が必要なものは、持ってきてください」
私は、そう指示を出し、自分の部屋へ戻ることにした。
モイラと一緒に戻る途中、私は考えた。
(どこで選択を間違えたの?)
自問自答しても、結論はでず、堂々巡りを繰り返すばかりだった。
「プレア様、着きました」
私は、そのまま自分の寝室に向かい、横になった。
「モイラ。もう少し、一緒に居て欲しい。大丈夫?」
私はモイラに尋ねた。
「はい。プレア様。お傍に居ります」
モイラは、横になった私の上に、毛布を掛けてくれる。
(もしもの時の事を、考えておかなければならないわね)
「モイラ。ライラさんに断って、赤ちゃんだけ連れてきてくれませんか?」
私は、その時が起きても大丈夫な様に、備えておく必要があると考えた。
「何をなさるおつもりですか? プレア様」
モイラは、尋ねる。
しかし。
「……。畏まりました」
そう言って、モイラは隣の部屋に向かって行った。




