32 「最終章 人外」について
経典には、こう書かれてあった。
『
最終章 人外
それは、かつて人であって、人であった事を忘れた存在。
その目的は、ひたすらに欲望を追求し、陥れ、争わせ、仲違いさ、孤立させる。
隙あらば理を壊そうとし、それらを自裁に操ろうとする。
人の姿を忘れ、骸骨のような姿もあれば、いくつかの猛獣が組み合わさった姿を取る者もいる。
信念無き者は、この者達の姿を見るだけでも、その意思が自由に振舞う事を封じられるだろう。
それだけの罪、それだけの恐怖、それだけの悪を積み重ね。
それを嬉々として、己が栄養として、糧として、飲み干したいだけを目的としているが故に。
それを意識を超えて感じ取り、信念無き者は怯むであろう。
耐えよ。
信じて、耐えよ。
この経典を読む資格のある汝は、かの者への裁量だけが、これを審判する。
読み解け、この意を。
この経典を読む資格のある汝には、全ての制約を解除する
』
「え? これだけ?」
私は、もっと書いてあるのかと思って読んだのに。
たったこれだけなの?
「『全ての制約を解除する』 か? 無制限に、何でも望めるという事なの?」
アクス様にも無かったこの資格。
はたして、私は与えられるに相応しい人なのだろうか?
『信念無き者は、この者達の姿を見るだけでも、その意思が自由に振舞う事を封じられるだろう』
この一文をみて、やっとわかった。
クロス様は、きっと人外と対峙していたのだわ。
そして常時、その悪の圧力と戦っておられたのだわ。
アクス様も。
流石にアクス様は、これと対峙しても、にこやかに務めを果たされていた。
王族側への交渉、アクス様から知らされたであろう御子様の事。
そして、人外からの強い干渉。
クロス様は、身をもって教えて下さった。
自然に過ごされていたアクス様では、私は気が付かなかったかもしれない。
窓の外が、明るくなってきた。
「あれ? 徹夜してしまったのね?」
新しい一日がはじまる。
大神官プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルムとしての。
「そろそろ、モイラを起こさないと。私も少し眠りたいわ」
私は、経典を閉じて立ち上がった。
「モイラ! 起きなさい! 朝ですよ!」
「ふ、ふぁぁい」
モイラは眠そうな目をしながら起き上がる。
泣いた涙の跡を、薄っすらと残しながら。




