2 力の兆し(きざし)
私達を襲ってきた暴漢を、黒い騎士さんが切り殺そうとしていた。
「やめて」
その黒い騎士さんが躊躇なく切ろうとしていた。
「やめて」
私達を襲って来ようとしてきた人達だけど、私はそれが耐えられなかった。
「「「「「「やめてっ――!」」」」」」
杖を握りしめ、大きな声で叫んでいた。
「んっ? うぐっ! グェッ!」
その暴漢は、呻き声を上げながら白目を向いて気絶した。
そして、そのまま「バタン!」と顔から倒れちゃった。
「ぐっ! ぬぅ――!」
黒い騎士さんも、身を固くする。
私とモイラ以外、皆の動きが止まった。
「えっ? 何? ……。どういう、事?」
何が起きたのか、わからなかった。
落ち着いて余裕が出てきたので、周りを見回した。
マズいわね、取り囲まれている。
今、全員が襲って来られては困る。
けれども、周りの暴漢達は飛び掛かって来たアイツほどではないけど、頭を抱えたり膝をついりして、痛みか何かに耐えている様だった。
「あ? モイラは?」
周りの様子を見て、モイラの事が心配になった。
モイラは、私のマントをギュッと掴み、目を閉じて小さくなっていた。
「大丈夫? モイラ、大丈夫?」
「は、はい、プレア様。大丈夫です。あ、あれ? 周りの人達が、みんな……」
膝をつきそうになって踏ん張っていた黒い騎士さんが、ようやく意識を取り戻していた。
すると、カッ!と目を見開いて、私を睨み付ける。
「何をした?」
「え? 何って?」
「お前、さっき何をしたんだ!」
黒い騎士さんは、また尋ねて来た。
「わ、わらない」
本当にわからないから、そう答えるしかない。
「そんな訳はあるまい。周りの人間を見ろ! お前が『やめろ』と叫んだあと、こうなった!」
そう言って、黒い騎士さんは、ゆっくりと私に近づいて来る。
「あ、あの、騎士様。助けて頂きありがとうございます。私達は、直ぐに立ち去ります。ご迷惑をおかけしました」
モイラが私の代わりに、黒い騎士に礼を言ってくれた。
「そんなことは、どうでも良い。おい! お前、何をしたか言え!」
黒い騎士さんは、私に剣先を向けて近づいて来た。
「あ、あ、あの、あの、騎士様。ど、どうか、落ち着いてくださいませ」
モイラが、黒い騎士さんを宥める。
(もしかして、この騎士様。私が、お礼を直ぐに言わないから怒っているのかしら?)
私は、少しムッとした。
(べ、別に、助けてくれとは言ってないし)
(ものを尋ねる時に、鼻先に剣を突き付けて聞く騎士様の方が失礼だわ)
私は、黒い騎士さんを睨み返した。
そして、突き付けられてた剣の先っぽを指でつまんだ。
「プ、プレア様? あわわわ」
慌てるモイラの声が聞こえる。
「だから、知らないって言ってるじゃないですか」
つまんだ剣先を、ぐいっと押し返しながら返事を返した。
黒い騎士さんは、私が剣をつまんでが押し返すものだから変な顔をしながら剣を引き戻し、仕方なく鞘にしまった。
私が、わけのわからない術で暴漢達だけでなく、黒い騎士さんまで痛い目に合わせた事を怒っているみたいね。
「だいたい、何で拝み屋が、何でこんな所に来ているのだ? 王都の奥に引っ込んで大人しくしていろ」
「お、拝み屋?」
私は、その言葉にムッとした。
「そうでなけば、だだの占い師だ。立ち去れ! もう二度と来るな!」
「なっ!」
(拝み屋と言ったり、ただの占い師って言ったり、なんて失礼な)
「モイラ! 帰りますよ」
私は、プイッと横を向いて言った。
「あ、はい」
とモイラ。
私はクルリと来た方向に向きを変え、スタスタと歩き出した。
倒れて動けなくなっている暴漢達は、自分達に何が起きたのかわかっていなく、目を丸くして戸惑っている。
「おい、待て!」
黒い騎士さんが、また私達に声を掛けて来た。
「何ですか? まだ、何か用ですか?」
私は、また何かしてくるのかと、ちょっと警戒した。
黒い騎士さんは、私を睨みながら黙ってスタスタと歩き、私達の前を歩きだした。
「着いてこい」
と、黒い騎士さん。
(あ、街の外まで、案内してくれるのね)
私は、ホッと胸を撫で下ろした。
バッサリと切られるんじゃないかと心配したわ。
来る時も、街の周りに人達が私達をジロジロと見ていたのを思い出した。
(来る時はちょっと、怖かったな。けど、お陰で、ここがどういう所なのか知ることが出来た)
そう、何事も建設的に考えなくちゃいけない。
このおんぼろ街の事を、黒い騎士さんに聞いてみたくなった。
貴方こそ、何故こんな所にいたの?
この街の人達の事を知っている風だけど、それはなぜなの?
その綺麗な赤い髪、赤い瞳。あなたは、それが嫌いなの?
それで、苦労して来たから、捻くれた性格になったの?
そして、立派な鎧のあなたは、どこかの貴族様なの?
とても一介の騎士さんとは思えない立ち振る舞い。
そして、きっと強い。
けれども、この黒い騎士さんの言いっぷりに、カッとなって強く言い返してしまった私は、今更「ねぇ、ねぇ、騎士様。教えて下さいな」と尋ねるのも悔しいのです。
しかたがないので、黒い騎士さんと私。そして、モイラの三人は、黙ったままおんぼろ街の外まで歩い行く。
「もう、二度と来るな。お花畑のお転婆娘め!」
(お、お転婆?)
ムッカ――!
いちいち癪に障る言い方する人ね。
私は礼も言わず、プイッと横を向いたまま、スタスタと元来た林の方に歩いて行った。
「騎士様、御免なさい。御免なさい。ありがとうございました」
と、私の代わりにモイラが頭をペコペコと下げていた。
おんぼろ街から離れた所で、私はモイラに言った。
「助けてくれるのはありがたいけど、剣で脅しながら質問するの酷くない?」
モイラは困った顔で答える。
「で、ですけど。助けて頂いたのですから、お礼はちゃんと言わないと」
むむむ。
モイラの言う事には一理あるか。
「そ、そうね。今度来た時は、ちゃんと礼を言わなきゃ」
「え? こ、今度?」
モイラは、目を丸くしビックリした顔をしている。
何を驚いているんだろう?
「さぁ、帰りますよ」
私は、聖導会の屋敷の近くに来たところで、「転移の力」を使い、二人の部屋に戻った。
いくら私でも、こっそり抜け出しているのに、門から堂々と帰ってくるわけにもいかない。
それに、部屋に帰る途中でクロス様達に見つかっても面倒だし。
「か、帰って来た――」
モイラが、涙目になってソファーにぐったりとする。
私も、杖を所定の場所に立てかけた後、ゆっくりする為ベッドに座ろうとした。
その時、ドアのポストの所に手紙が入っているのに気が付いた。
「あれ、何?」
モイラに聞いた。
「あ、誰かからの手紙ですね。えっと、プレア様と……。あれ? 私の名前も書いてありますよ。え?」
驚くモイラ。
何を今更驚いているの?
あなたも共犯者なのよ。
その手紙の内容は、きっとアクス様からの呼び出しに違いない。
授業はサボったけど、屋敷は抜け出してない。
という事にしようと、私はモイラを言いくるめた。
口裏をあわせるようにし、この危機を乗り越えようと誓い合った。




