27 プレアは、何処にいますか?
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
扉を激しく叩く音!
「あ、あのプレア様! モイラ様! 至急おいで下さいませ! クロス様が! クロス様が!」
「何事ですか?」
流石のモイラも怒り気味でドアを開けた。
せっかく眠った金髪の髪と赤瞳の赤ちゃんが、ビックリして泣きだしてしまった。
「あっ。も、申し訳ありません。ですが、クロス様が……」
呼びに来た神官の方は、慌てている。
「落ち着いて話してください。今、赤ちゃんが眠った所だったの。そんなに大きな声を出されては、泣き止まないわ。クロス様が、どうなされたのですか?」
私は、その神官を落ち着かせた。
「申し訳ありません。ク、クロス様が。お倒れになりました。至急お呼びするようにと言われ、やってまいりました」
「……」
私とモイラは、言葉を失った。
そして、至急来てくださいと言われたのにも関わらず、次の動作が出来なかった。
「あ、あの?」
涙目になってしまっている神官の方。
「プレア様。モイラ様。直ぐに行ってお上げください。この子は、私が寝かせておきますから」
ライラさんが、私達に言った。
「あ、はい。そうですね。ありがとうございます。ライラさん」
「プレア様、参りましょう」
私とモイラは、取るものも取り合えず、呼びに来た神官さんと一緒にクロス様の御部屋に向かった。
そ、そんな。
クロス様が。
クロス様が倒れるなんて。
アクス様を失ってのこれからを、クロス様と考えていこうと思っていたのに。
何故?
何故?
もしかして、クロス様は、早まったことを?
硬い表情になってしまったクロス様を、私は少し避けていた。
それは、今となっては後悔しかない。
私は、クロス様に全てを押し付けてしまっていたのではないかと悔やんだ。
「おお、プレア! 来たか! 待っていたぞ。さあ、こっちに」
誰かが案内してくれる。
「はい。クロス様は、何故? もしかして、誰かに?」
「いや、そうではない。王家の布告の後、具合が悪そうであったので従者を何人か付けて部屋までお連れした。そうして、横になって頂こうとしたところに、バタッとお倒れになって」
「で、では、早まってしまわれたとか?」
「何を言うプレア。クロス様が、そのような選択をされる方ではない。お前も知っているだろうに」
「で、ですが……」
「落ち着け。クロス様に失礼じゃないか?」
「は、はい」
良かった。
安心した。
しかし。
「あの、御医者様は?」
モイラが尋ねた。
お医者様は、クロス様が休んでおられるベッドの近くにいらっしゃった。
そのお医者様は、首をゆっくりと横に振られた。
「そ、そんな……」
目に涙を一杯にするモイラ。
(そ、そんな。そんな)
(クロス様、私を。私達を置いて逝かないでください)
私は、その場に崩れる様に座り込んでしまった。
「プレア。大丈夫? さ、こっちに座りなさい」
私は、壁の側にある椅子に座らせていただいた。
「これから、これから立て直していかなければならないと言う時に……」
幹部の神官の方が、呟かれた。
そうだ、そうだ。
その通りだ、クロス様を支えて、これから巻き返していかなくては。
分不相応な事を覚悟しながらも、クロス様は「大神官代理」を代行として頑張って頂いていた。
それは、聖導会の為だけではない。
この「前の国」の為。
この「世界」の為。
アクス様は、「大神官」ではなく、その「代理」だ。
それでも、アクス様の存在は、多くの人々の支えになっていた。
それを、何度も、何度も、何度も、何度も説明したのに。
王家の方々は、わかって下されなかった。
クロス様は、ただの過労で倒れたのではない。
そうじゃない。
他殺でもなく、自殺でもなければ。
そうでないのならば。
アクス様が、亡くなられたことが、クロス様に大きく影響したと思った。
「とりあえず、クロス様の代わりに立てなければ、誰にするか?」
そう、神官の幹部の方々が話されていた。
だが、それが最善な手だとは、この場に居る誰も思う者はいなかったはずである。
クロス様でも耐えられなかった役目なのである。
神官の誰かが立てば、良いというわけではないのである。
そうしている時、クロス様がパッと目を開かれた。
「おお!」
お元気になられたと思った何人かの人は、喜びの声を上げられていた。
しかし、……。
「プレア。プレアは、何処にいますか?」
と、クロス様仰った。
「はい。ここに居ります」
私は、椅子から立ち上がり、クロス様の呼びかけに元気に返事をした。




