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25 悲報

 黒い騎士様の母上様が亡くなられた。

 

 それは、クロス代行の方達が、アクス様の解放を交渉している最中に来た悪い知らせだった。

 もしここで、アクス様に何かあれば。

 その意味するところが分かるのは、黒い騎士様とアクス様との御関係を知っている者だけだった。

 私とクロス様。

 そして、モイラ。

 

 私が再度、アクス様の所に訪問したのはクロス様には話していない。

 しかし、感の良いクロス様である。

 もう、察しておられるのではないだろうか?


 預かった赤ん坊には、帰ってから直ぐに乳母を探した。

 全然勝手がわからない。

 聖導会の誰かに頼むのは、この子の正体を知られてしまう。

 聖導会の神官の女性の人も、子育てなんて経験のない人が多いだろう。


 思い余って、おんぼろ街に転移で行ってあのボスの所に相談してみた。

 黒い騎士様がいらっしゃった街だったからもある。


 詳しくは話さなかったけれど、快諾してくれた。

 赤い目をしている事を話したら、察してくれたようである。


 黒い騎士様の母上様と知己のある青い髪の女性の方だった。

 その方は、何も言わず、黒い騎士様の御子様の世話をして下さると言ってくれた。

 その方をこっそりと、私は連れて来た。


「私はモイラ。モイラ・フルロスと申します。お名前は、何と言うのでしょうか?」

「はい。ライラと申します」

 その青い髪の女性は教えてくれた。

「まあ。モイラと下の二文字が似ているわね。私はプレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム。長いのでプレアと呼んでください」

「プレアさんとモイラさんですね。初めまして」

「見てわかる通り、私達二人とも経験が無くて。全部お願いすることになってしまいますが」

 まあ、布のオムツぐらいなら変えられるかもしれないけど。

「ええ。大丈夫ですよ。病で子供を亡くしたばかりで、苦しんでいたところです。これも何かのご縁かと思います。大事に世話させて頂きます」


「……」

 私とモイラは、ライラさんの圧倒的な母性愛溢れる雰囲気に、ちょっとホワホワした気持ちになってしまっていた。

「あ、あの?」

 ライラさんが、少し困った顔をされた。

「あ。ご、御免なさい。お願いします」

 私とモイラは、圧倒的母性愛の溢れるライラさんに頭を下げてお願いした。


 さて、流石に、一人(ひとり)と赤ちゃん一人(ひとり)の女性が増えたので、報告しないと食事などが困る。

 クロス様には、おんぼろ街で身寄りがなくて困っている親子を預かったと報告し、手配してもらった。


「そうですか。手配しておきます」

 とだけクロス様は、何も尋ねる事はなく答えられた。

 もう、見習いの時の様に、厳しく問い詰められることはされなかった。

 私を『次の大神官』とリンド皇国の方に告げられるくらいだから、その覚悟であるならばという事なのかもしれない。


 青い髪のライラは、きめ細やかに赤ちゃんのお世話をしてくれる。

 昼夜を問わず泣くし、お乳も飲ませてあげなくてはいけない。

 その度に、私とモイラは、一緒に赤ちゃんの泣き声で叩き起こされた。

 しかし、その姿は、私とモイラに取っては良い刺激となっていた。


 そうして、何日か過ぎた時に、本当悪い知らせが来た。


「全員、大神殿に集まりなさい。大至急です」

 

 大神殿に神官達が集められる。

 皆、不安な表情を見せていた。

 

 私とモイラは、もしやと予感をしながら、大神殿に入って行った。

 

 大神殿正面の祭壇の周りには、お城の兵隊さん達が何人か居た。

 みんな、武器を持っていた。


「何だ? あの兵たちは、武器を持って中に入ってくるなんて!」

 ある神官の方のお怒りの声が聞こえる。


「皆さん静粛に、これより政府からの布告(ふこく)があります。心して聞くように」

 クロス様は、いつものように硬い表情で言われた。


 それで静まるのを待って、王国の兵士の一人が布告の内容を読み上げ始めた。


「これから伝えることは、心して聞くように。意見することなど叶わぬこと知るが良い」


 などど、偉そうな口上から始まった。


「第六王子に我が国への謀反が明確となった。その母親。そして、その謀反人と懇意であったアクス・マグネティカも、有力な協力者と判定が下った」

 兵士は読み続ける。

「我が王国としては、これを看過できない。よって、処罰する事となった。全員共に死罪とるす。第六王子は、斬首。その母親とアクス・マグネティカには、毒杯による刑の執行が行われた。第六王子は、現在逃亡中である。捕らえ次第、刑を執行する」

 さらに、兵士は読み続ける。

「これに異を唱え王家に訴えて来るものは、同様に死罪とする」


 聖導会の皆は、あまりの事で(みんな)だまっていた。

 しばらくして、泣き崩れる方がいた。


「そ、そんな。アクス様が、そんな謀反などと」

「そうです。もともとは、王家の御兄弟の方々の仲違いが……」

 皆が、口々に抗議を始めようとした。


「プレア! あなたも何か言いなさい。いつもだったら、真っ先に何か言っているじゃない? プレア様に目をかけて頂いていたあなたも言いたいことがあるでしょう?」

 

 その時。


「控えなさい! 王家の使者の前ですよ!」

 

 それまで、硬い表情のまま黙っておられたクロス様が、口々に意見を言い始める皆を制止された。

 その厳しい言い方で、その場の騒めきは、静まり返った。


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