23 アクス様の元へ
残っていた片付けも終わり、大神殿の礼拝堂を出て控室に戻った。
「あの、プレア殿」
またしても、皇太子様。
少し、しつこいかなぁ?
「皇太子様、何でございましょう?」
「プレア殿。僅かでも、我が皇国が役に立つ時あれば、いつでもお声掛け下さい。これが、私の代で終わらなければ、我が子我が子孫代々にも伝え、あなた様方を支えさせます。どうか、お忘れなきように」
皇太子様は、紳士的な感じで仰って下さった。
「まぁ。うれしい」
思わず言葉が出てしまった。
なんと頼もしい事でしょう。
私は、嬉しくなってしまった。
リンド皇国の方とは、これまで交流したことは無かったけれど、誠実な方が多いのだろうか?
(あ、クロス様の御様子は?)
自分の顔がニヤケ顔を、クロス様に見られていないか心配になった。
しかし、自分の予想とは異なり、クロス様の表情は硬いままだった。
「お申し出ありがとうございます。その時は、頼りにさせて頂きます」
気を取り直し、姿勢を正して、お礼を述べた。
顔を上げたら、リンド皇国皇帝様と恰幅の良い方が、警備隊長さんが、微笑んでおられた。
ちょっと、恥ずかしいな。
で、ガルド様は……、仏頂面だった。
私が先に控室を出て、皆を呼びに行った。
そして、リンド皇国皇帝御一行様は、帰路に着かれた。
リンド皇国の皇太子様の御言葉が、私の心に深く染み込んでいく。
アクス様に、会おうと思う。
クロス様は、御答えになって下さらない。
きっと代行という立場では、分を超えてる判断となると思われているのだろうか?
「モイラ! ちょっといい?」
戻ると、モイラに声を掛けた。
「はい。プレア様。お勤めは無事終わらたようで何よりです。何でございましょう?」
「えっと、あの。ちょっと」
「何ですか? プレア様」
「う――んとね。その……」
「アクス様の所に行きたいのですね。わかっております。準備は出来ております」
「本当に? でも、……。もし、国の近衛兵が詰めていれば、万事休すだわ」
「この時会いに行くと言うのは、それなりの覚悟が必要と承知しております。私も、アクス様にお会いしたいのです。是非、ご一緒に連れて行って頂きたいです。それから、あの時の前室は誰もおりませんでしたよ。きっと大丈夫です」
と、モイラは快諾してくれた。
「でも、その前に」
「プレア様、何でございましょう?」
「モイラ。それは、置いていきなさい」
私は、モイラが手にしているフライパンやら棍棒を手放す様に言った。
「え? でも?」
「置いていきなさい」
「あ、はい」
モイラは、渋々手放した。
「ん。じゃ、行くわよ、モイラ!」
「はい! プレア様!」
そして、私とモイラは、王宮に謹慎されているアクス様にお会いする為へ転移を開始した。
以前に御訪問した時の広間の前室をイメージする。
(おねがい。おねがい。誰もいませんように)
祈るような気持ちで、前室に転移した。
「よかった。誰もいませんでしたね」
小さな声で、モイラが言った。
「直ぐに入りましょう」
物音をさせていると、外から人が入ってくるかもしれない。
私達は、ドアをゆ――くりと開けて、中に入った。
「ふぁぁ。綺麗なお部屋」
流石は、幽閉されていてもアクス様の部屋である。
きっと、謀反の疑いあると言いがかりを付け幽閉ていようとも、邪険な対応はされないようである。
まあ、御家柄が良いのもあるけれども。
様子を伺い、アクス様の所在を探す私とモイラ。
しかし、この部屋には、人の気配があまりない。
「アクス様、どこにいらっしゃるんでしょうか?」
見れば奥にもう一部屋あるようだ。
とにかく、アクス様以外の人がいると困るので、そ――と歩く。
「あれ? 小さなベッドがありますね? 何でしょうか?」
モイラが気が付いた。
「ん? 何?」
モイラの声が小さいので、私は聞き直した。
「あれです!」
モイラは、小さなベッドを指さした。
「?」
私とモイラは、ゆっくりとベッドに近づく。
そして、そ――と中を覗き込んだ。
「あ、赤ちゃんだ!」
思わず大きな声が出てしまった。
私の声に驚いた赤ちゃんは、ちょっとだけ目を開いた。
その目は、赤い瞳。
そして、髪は綺麗な金色の髪がちょろと生えていた。
「だ、駄目ですよプレア様! 大きな声で!」
私の声で誰かが、隣の部屋から入って来た。
(し、しまった!)
けれど、もう遅い。
(もう、こうなったらプレア様をお連れして、リンド皇国に行こう。この国と世界の行く末は、行った後考えよう。それしかない!)
と、私は覚悟を決めて、転移の為に杖を握りしめ構えた。
「まあ、プレア。それに、モイラまで」
そこに来られたのはアクス前代理だった。
隣室から戻って来られたのは、この方だった。
「あ、アクス様。御機嫌よう」
私は、変な挨拶をしてしまう。
「御機嫌よう? ふふふ。相変わらずね。はい。御機嫌よう」
いつもの優しいアクス様の笑顔が、そこにあった。
金色の綺麗な髪をされていて、瞳は青色。
吸い込まれるような綺麗な瞳をされている。
「ふぁ――」
モイラが、その場にへたり込んでしまった。
人生が終わったと肝を冷やしたのだろう。
「まあ、まあ。さ、これに座りなさい」
アクス様が、近くにあった椅子をモイラの傍に持ってきて下さった。
「アクス様。も、申し訳ございません」
礼を言いながらモイラは腰かけた。
「プレア、いつまでそうしているの? 来たばかりなのに、もう帰ってしまうの?」
私は、転移する為に杖を手前に掲げ、固まっていた。
アクス様が、お声を掛けて下さる。
「い、いえ」
私は、ゆっくりと杖を下ろした。
はずかしい。
「まるで、悪戯がバレて逃げそこねたみたいな顔をしてますね?」
アクス様が、おからかいになった。
「い、いえ」
と私。
その答えを聞いて、アクス様はクスクスとお笑いになった。
「そろそろ来てくれる頃だと思っておりました。待っていましたよ」
アクス様は、私達が来るのを予想しておられたようだ。
「あの? どうして来ると思われたのでしょうか?」
私は尋ねた。
「ねぇ、プレア。この子、可愛い男の子でしょう?」
しかし、アクス様は問いには答えず、ベッドの中の赤ん坊を覗き込んでこう言われた。
「は、はあ」
私は、改めてベッドの中を覗き込む。
「そうですね」
と、私は答えた。
「はい。お可愛いです」
とモイラも答える。
「プレア。お願いがあるの。そこの椅子に座って」
とアクス様。
私は、近くの椅子を持ってきて、ベッドの近くに座った。
モイラも、椅子を持ってきて座った。
「ちょっと待ってね。お茶を用意してくるわ」
アクス様が言われる。
「申し訳ありません」
と私。
「いいのよ。ここは、聖導会の宿舎じゃないですからね」
アクス様は、別の小部屋に行き、お茶を持ってこられた。
一先ず三人で、お茶を飲みながら落ち着いた。
「落ち着きました?」
とアクス様。
「はい」
と私。
「プレア、モイラ。赤ちゃん。抱っこしてみる?」
「はい」
私とモイラは立ち上がった。
アクス様が抱き上げて、私にゆっくりと抱かせてくださる。
フワフワと思った以上にずっしりとした感じ。
そして、モイラにも、抱かせてあげた。
モイラは、目をキラキラさせていた。
私は、そのほのぼのとした様子を見ていた。
アクス様が幽閉状態で、ここは王宮で、アクス様は捕らえられているはずなのに。
私とモイラは、少しの間忘れることが出来た。
(あの男の子、アクス様の御子様なんだろうかなぁ?)
私は、ボンヤリと考えていた。
金髪の髪の色が、アクス様と似ているのだ。




