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22 皇太子様の御提案

「以上で御座います」

 クロス様から、神託の全てがリンド皇国皇帝に伝えられた。


 神託の中に、私の事が入っていると思っていなかった。

 けれども、不思議に感じる者はない。

 アクス様などから、ずっと似たような事は言われ続けていたから。


 しかし、この神託によって、いよいよ逃げられなくなってしまったという事。


 う――ん、困りました。


 しかし、リンド皇国が関わって来るのは予想外。

 この時期に来られたのは、それを感ずる何かがあって、参られたかな?


 神託の儀が終わったので、私はせっせと後片付けを始める。

 そして、それが終わったころ、皇太子様が私達の前に歩み出られた。


「お二人に、お話があります。とても大事で、重大な話です。この祭壇の前でお話したい」

 そのように、皇太子様が言われた。

「何でございましょう?」

 クロス様が答える。


「今回、こうして神託を受けに参りましたのは、私共も人間の浅知恵では御座いますが、何かしらの危機を感じたからで御座います」

 続けて、皇太子様は言われる。


「我々の予想通り、厳しい神託となりました。やはり、聖導会に何か良くない事が迫っているのですね? この『前の国』と、この世界にも」

 クロス様と私に向かって、皇太子様は尋ねられた。


 私は答えられない。

 ただの神官で、今回特別に補助導師として儀式を執り行っただけなのだから。


 私も、クロス様の御返事を待った。


「……」

 クロス様は、黙ったままお答えにならない。

 私は、困った。


 皇太子様等は、クロス様か私が答えるものと思って待っておられるようだ。

 

 どうして、クロス様は御答えにならないの?

 困りましたわ。

 リンド皇国の皇帝様からは、静かな目が私に向けられていた。

 その目は、どんな回答でも受け止めて下さるように、私は感じた。

 

 「あ、あの。私で良ければ、お答えします。よろしいでしょうか?」

 すると、皇太子様は目を輝かせてこう言った。


「是非に!」

 そんな、子犬のような可愛い目をされても。

 こちらが恥ずかしくなるわ。



「う、うん。え――と。仰る通り聖導会と『前の国』の関係は悪化しております。それは、前王の崩御から決定的となりました」

 私は、言い過ぎていないか心配になり、クロス様をチラリと見た。

 しかし、クロス様は表情を崩さず、黙っておられた。


(え――、もうメンドクサイな。もう、言っちゃえ!)


「本来なら、この神託の儀は、クロスローズ・サルヴェイション大神官代理代行ではなく、アクス・マグネティカ大神官代理が執り行うものです。ですが現在、アクス大神官代理は”軟禁状態”にあります。リンド皇国の皆様には大変失礼なこととは思いましたが、代理代行のクロスと私プレアが行わせて頂きました」


 ああ、言っちゃった。


 リンド皇国皇帝様は、その時初めて曇った表情をされた。


「そうですか。事態は深刻なのですね」

 皇太子様は、静かに答えられた。


 そうか、ある程度は知っていて、こちらに来られたのかも?

 

「はい。何度説明しても、理解を得られませんでした。このままでは『前の国』どころではなく、世界にとっても危機となると言うのに」

 私は、さらに付け加える。


「何故、今まで黙っておられたのですか? 隣国で親しい我が国に、一言(ひとこと)相談して下さっても……」

 皇太子様は言われる。

「ありがとうございます。ですが、私共(わたくしども)は、御存じの通り特殊でして。そう言うわけにもいかないのです」

 で、合ってたかな?

 確か、詰込みのお勉強時に、習った所だ。

 

「わかりますが……」

 皇太子様の心配して下さる気持ちが伝わって来た。

「申し訳ありません。本来なら、こうしたことも、お話することは無いのです」

 と私は付け加えた。


 リンド皇国皇帝様は、目をつむり、ジッと何かを考えられている様子。

 チラリと、カルド様を見ると、……。

 やっぱり、仏頂面でした。

 見なければ良かった。


「クロス様、プレア様。アクス様と共に、我が国に亡命して下さいませんか?」


(え? ぼ、亡命?)

 私は驚いた。


「あ、あの、今なんと?」

 私は、聞き間違いかもと尋ね直した。

「クロス様、プレア様。アクス様も含めて聖導会全員を亡命させたいと申しました」


 私は、思わずクロス様を見た。

 しかし、クロス様は表情を一切変えられていなかった。

 クロス様は、これも私に答えろと言われているのだろうか?


「う――ん。う――ん」

 私は悩んだ。


「?」

 皇太子様と、恰幅の良い隊長様が不思議そうな顔をされている。

 カルド様は、……、もういいや。


「やっぱり駄目です」

 私は答えた。

「え? ですが」

 食い下がって来られる皇太子様。


 私は一歩(いっぽ)下がり、スカートの少し摘まみ上げた。

 そして、失礼の無いよう、お辞儀をしながら次のように申し上げた。


「お気持ちはとてもありがたいと思います。アクス様に聞かせしたら、きっと喜ぶことでしょう。ですが、何度でも申し上げます。私共(わたくしども)が、その選択をすることはございません。この命が、この国で尽きようともです」

 

「う――む」

 皇太子様の呻くような、絞り出すような、無念そうな声が聞こえた。


「わかりました。この話は、無かったことにいたしましょう」

 リンド皇国皇帝様が、ようやく口を開かれた。

「良いな」

 皇帝様は、皇太子様に言われた。

 

「はい。わかりました父上。ですがプレア殿、……」

 と、皇太子様。


 ん? まだ、何か言うの?


「もう良い!」

 皇帝様は、静かに皇太子様の言葉を遮られた。


「プレア殿。我が国は我が国で、危機に備えてまいります。ですが、それが意味をなさなくなってしまうことのないよにお願いいたします。……。本当に、よろしくお願いいたしますよ」

 と、皇帝様。


(何で、私を名指しなの?)

 クロス様が、私の事を次の大神官と言われたせいでしょうけど。

 

「はい。その様にならないよう、全力で取り組みます」

 と、私は返事をした。



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