17 辞令、神官プレア
「パンッ!」
大神官執務室に、大きな音が鳴り響く。
「プレア! あれほど、言っていたのに。また、あなたは!」
私は、クロスローズ・マグネティカ大神官代理代行に、頬っぺたを引っ叩かれていた。
「……」
私は、頬を押さえる余裕もなく、その場に立っていた。
「皆さん。アクス様と面会が叶い、話をしてきました。今後、全ての権限は、私に任せてくださるとの事です」
クロス様が言われた。
そして。
「プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム。あなたを正式な神官にせよと申し伝えられました」
「はい」
返事をする私。
「それと、モイラ」
「は、はい」
モイラが返事をする。
「モイラ・フルロス。あなたを聖導会従者神官に任じるとの事です」
「はい」
「プレア。神官としての経験を経て、時が来たら『大神官』に就任するように。良いですね」
「はい」
「プ、プレアが、大神官に? ……。」
後ろで、集まっていた神官の方々が、騒めいていた。
「皆さん。これは、アクス様が決められたことです。そして、皆さんも、プレアが、普通の生徒として来てはいないことぐらいは知っておりますね?」
「候補生の一人の生徒として学びに来ていたことは、存じておりますが……」
幹部の方のお一人が答えられた。
「皆には、黙っておりましたが、プレアは『転移の力』を使う事が出来ます」
「ええ?」
また、皆さんが騒めいた。
「大神官だけが使えると言う、力のひとつをですか?」
「そうです」
お答えになるクロス様。
「プレア? 本当なの?」
神官のどなたかが尋ねられた。
「はい。使えます」
私は、振り向かず返事をした。
「皆さん。プレアの力は、今後も我々で守って行きます。そして、これよりプレアの神官としての仕事の指導をお願いします。同時に大神官としての教育を本格的に始めます。その準備を整え、早速始めてください。あまり、猶予はありませんよ」
「はい!」
集まられていた神官の方々は、皆返事をされた。
「プレア。モイラ。こちらに、おいでなさい。辞令を渡します」
クロス様が、傍に来るように言われた。
「はい」
私とモイラは、ゆっくりと傍に歩み寄る。
クロス様は、優しく引っ叩いた私の頬に手を添えられた。
「今後は、神官としての務めをしっかりと果しなさい。本当に、あなたにかかっているのですよ」
「はい。クロス様」
私がそう言うと、クロス様は、私を神官に任ずる辞令書を手渡してくださった。
私に続き、モイラも受け取る。
「では、これで解散します。学校の事は、先生方お願いいたします。私は、聖導会の事で手一杯になると思います。よろしくお願いいたしますね」
「はい。お任せください」
幹部の神官の皆様や、学校の先生をされている神官の皆様が、クロス様と気持ちを一緒にされていた。
「プレア様。部屋に、戻りましょう?」
モイラが、優しく声を掛けてくれる。
「ええ。そうね。少し、休みたい」
まだ、幹部の方々や、先生方が打合せをされている中、私とモイラは大神官執務室の部屋を出た。
翌朝、私とモイラの就任式は、大神殿で執り行われた。
「プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム。前に」
「はい」
進行係の神官の合図で、私は祭壇の前に歩み出た。
「あのお転婆だった、プレアが……」
参列している神官の方が目に涙を浮かべて、呟かれていた。
(ちょっと、『あのお転婆』だけは、余計じゃない?)
と思ったものの、顔には出さなかった。
「プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム。あなたを聖導会神官に任じます」
「はい。承ります」
澄ました顔で、私は祭壇前に立つ。
「プレア。頑張るのですよ」
優しいお顔に戻ったクロス様から、私は祭事の際の杖を受け取った。
「はい。精進いたします」
杖を受け取ると、私は指定の位置に移動した。
「モイラ・フルロス。前に」
「はい」
続いてモイラも。
「モイラ・フルロス。あなたを聖導会従者神官に任じます。」
「はい。がんばります」
その時、思わず私はクスッと笑ってしまった。
だって、「がんばります」って言うんだもの。
クロス様を見たら、少し怖い顔で睨まれてしまった。
また、やってしまった。
「んっ、んん。モイラ。気苦労が多いかと思いますが、あなたが頼りですよ。お願いいたしますね」
咳払いをして気持ちを切り替えられたクロス様は、モイラに向き直し、お言葉を述べられた。
「はい」
そして、神官の私と同じように、祭事用の杖を授けられた。
「クス、クス、クス」
周りの先輩方が、クロス様の御言葉で笑い出した。
「む――」
私、少し不機嫌になる。
せっかく雰囲気良く、神官の就任式に挑んだのに。
それはともかく、モイラは頼りになるから、そこはクロス様も分かっていらっしゃる。
この就任式を持って、私とモイラは、正式な聖導会神官と、聖導会従者神官と認められたのだ。