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16 プレア、大神官になりなさい。(アクス様編)

 私達は、アクス様に会う為、転移を始めた。

 

 金と銀と白と黄色、それらの光が入れ替わり、時に互いに混ざり合い、渦を巻く。

 それが私とモイラの周りに展開する。

 

 部屋全体に広がる優しい風、渦を巻く。

 そして、光と風が混ざり合い、私とモイラは吸い込まれるように、その中に消えていく。


 光が少しずつ弱くなり、目の前には、小さいころに一度だけ見たアクス様の御屋敷のお部屋が広がっていた。


 光と風が徐々に収まっていき、やがて収束していく。


 アクス様の御屋敷に到着した。


「プレア様。いつも思う事ですが、転移する時って、凄く綺麗な金銀黄色の光が渦を巻いて、綺麗ですね」

 今回は、自分からアクス様の所へと言った為か、モイラは珍しく感想を述べた。

 

「さ、行きますよ」

(何度もやっているのに、急に変な事言うのね?)


 私は、特に返事もせずに、モイラを()かせた。


 ドアをこっそりと開け、廊下を左右見回す。

 

「誰も、いないわね。お屋敷に詰めている使用人の人は、いないのかしら?」

「そうですね。でもプレア様。その方が、都合が良いかと思います」

「そうね。では、多分こっちだわ」

「多分? ですか?」

「ええ。そうよ。だって、小さいころに来ただけですから」

「……」

 心配そうにするモイラ。


「な、何よ。あなたは、来たことも無いじゃない? 私は、いつも行った先で考えるタイプなの? 知ってるでしょ?」

 悔しいので言い返す。

「だと、思いました。事前に調べておきました。お部屋はこっちです。そっちは出口になります。プレア様」

「むむむ」

 

 うう、何て頼もしいモイラなの?

 でも、ちょっと悔しい。

 

 モイラの後についていき、アクス様が御休みになられているであろう部屋の前に到着した。

 この間、使用人の人は、誰も見かけなかった。


「……」

 私は、少し入るのを躊躇った。

「どうされたのですか?」

 モイラが心配する。


「う、うん」

 大丈夫。

 何も無い。

 何の心配もない。

 大丈夫。


 私は、そっとドアを開けて中に入った。

 私の後に、モイラも続く。

 

 そこには、窓の外を眺めておられるアクス様がおられた。

 まるで絵画の様に見えた。

 その御姿は素敵だった。

 少し寂しそうに見えるのが、また素敵に見えた。


 アクス様は、私達が入った事には、まだ気が付かれていなかった。


「あ、あの。アクス様」

 私は、勇気を振り絞って、お声を掛けた。

 もしかしたら、叱られるかもしれない。

 そう、思ったから。


「?」

 振り向いて私達を見るアクス様は、目を丸くされていた。

 そして、少し困った顔をされながらも、優しい目を取り戻された。


「まあ、やっぱり来てしまいましたのね? 予想はしていましたが、その通りにしてくるなんて」

 少し、呆れられてしまったようだ。


「あの、どうしてもお会いしたくて。でも、言い出したのはモイラですけど」

「あ、プレア様?」

 慌てるモイラ。


「フフフ。はい、はい。どちらでも良いです。良く来ましたね。プレア、モイラ。嬉しいわ」

 母の様に、姉の様に、優しいお顔をされるアクス様。

 

 この方の前だったら、どんな悪戯っ子(いたずらっこ)も、素直に反省するに違いない。


「褒めましたが、ここに来ることが危険な事なのは、十分認識しているわね?」

 アクス様に注意される。

「はい。存じております。ですが、クロス様ともお会い出来ないと聞き、居ても立っても居られず」

「はいはい。プレア。わかりました」

 

 アクス様が知りたいであろう、聖導会の動向や、クロス様の事を、自分達が見聞きした範囲の事だけれどもお話した。

 

 少し、悲しい目をされるアクス様。


「そう、クロスが。そう」

 予想はされていたのでしょうが、実際告げられて、胸を痛められている。

 

「やはり、深刻な状態のようですね」

「はい」

 と私。


「そうです……、か」

 軽く目をつむり思案されるアクス様。


「うん。そうですね。これで、覚悟が決まりました。プレア、良く聞きなさい」

 アクス様は、私の方に姿勢を向き直された。

 

「プレア。あなたは、『大神官』になりなさい」


「……。え?」


 私は、ビックリした。

 (そば)に居たモイラも、ビックリしている。


「あ、あの、私は、まだ神官ですら無いのですが……」

 アクス様は、お疲れなのだわ、きっと。


「存じています。今すぐにとはなりません。ですが、前々から話があったように改めてあなたに命じます」

 優しく威厳のある声で、アクス様は続けて言われた。


「プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム。あなたを正式な神官に命じます。そして、神官としての経験を経て、時が来たら『大神官』に就任するように」


「……。は、はい」

 もう、はいと返事をする他なかった。


「それから、モイラ・フルロス。あなたを正式に、聖導会従者神官に任じます。よろしくて?」

「はい?」

 モイラもびっくり。


 ついさっきまで、二人とも()()()の文字が、頭についていたのに。


「クロスには、こちらに来てもらうよう。王族側に要請します。そこで、正式な辞令としてクロスに伝えます」

 アクス様は言われた。

 

「え? でも、クロス様達が、何度要請しても、お逢いすることが出来ないと……」

「私は、聖導会大神官代理なのですよ。有無など言わせません」

「そう、ですか?」

「ええ。今までは、他に類が及ぶのを避ける為に控えていました。ですが、現状を聞き、今すぐにでもバトンを渡しておかないといけないと判断しました。もし断れば……」

 アクス様は、少し間を置かれた。


「断れば、次期王を承認する事はしないと伝えるつもりです」

「え?」

「プレア。ちゃんと授業を受けていれば知っている事ですよ。この世界の皇帝や王の承認は、聖導会の大神官が認めない限り、正式な就任とは世界が認めないのです。わかりましたか?」

「はい」

 優しいながらも、威厳を持ってアクス様は話された。

 

「そうなの? モイラ?」

 モイラに尋ねた。

「え、えっと。私も、プレア様と一緒に抜け出していたので、……。申し訳ございません」

 ペコリと頭を下げるモイラ。

 

 そっかぁぁ。

 そう言えば、私と一緒に逃げたしていたわね。


「二人とも、こちらに来なさい」

 アクス様が、優しく言われた。


「はい」

「はい」


 私とモイラは、アクス様の(そば)に近寄った。


「?」

 アクス様は、私達二人を、ギュッと抱きしめてる。


「ア、アクス様?」

「御免なさいね。プレア、モイラ」

 アクス様が、お(あやま)りになられた。


「な、何故、お(あやま)りになられるのですか?」

 私は尋ねた。

 

「もう少し。もう少し、持つと思ったのですがね。私では、ここまでが限界だったようです」

「……? どういう、事でしょうか?」

 アクス様は、何が限界と言われているのだろう?


「さぁ。もう戻りなさい」

 アクス様は、私の問には答えられずに、抱きしめる手を離された。


「は、はい」

 私達はお辞儀をし、部屋を出て行こうとした。


「待ちなさい。この部屋から出ては、感づかれてしまうわ。この部屋からで良いですよ」


「……。あの、本当に、宜しいのでしょうか?」

 いつもは、こっそり転移してる。

 なので、私は躊躇(ためら)ってしまった。

 

「フフフ。いつもは、こっそり使っていますしたからね? 私の見ている前と使うのは、ちょっと意地悪な感じになってしまったかしら?」

「あ、いえいえ。違います。で、では、……」


 そして、私とモイラは転移を始めた。

 いつものように、金と銀と白と黄色、それらの光が入れ替わり、時に互いに混ざり合い渦を巻き転移が始まった。


「まあ、こんな素敵な感じで転移をするのね。始めて見ました。では、元気でね? プレア! モイラ!」

 アクス様の声が、少し反響しながら聞こえて来た。

「プレア! あなたは『終焉(しゅうえん)の大神官』なのです。終わりと始まりが、あなたに託されているのです。それを覚えておいてくださいね」

 

(え? アクス様は、どさくさに紛れて、何を仰っているの?)

(『終焉(しゅうえん)の大神官』って、どういう事?)

(私は、何をさせられるの?)


 転移も最終段階に入ったので、私はアクス様に尋ねる事が出来なかった。

 

(アクス様、きっとお助けします。待っていて下さいませ)


 私は、アクス様との良い状態での再会を願って、アクス様の御部屋から転移した。


 

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