14 収まらぬ怒り
「……。な、何で? 何で、アクス様が幽閉されなければならないんですか?」
「落ち着きなさい。プレア」
クロス様は、静かに言った。
「プレア様」
モイラが、私の裾を引っ張っていた。
「……。申し訳ございません」
私は、少し息を整え、座り直した。
「アクス様が、謀反など。王家の仲違いに苦慮されていただけなのに。言いがかりですよね?」
この場でクロス様にいくら言い寄ったところで、何もならないけれども。
私は、言わずにはいられなかった。
「そうですね。私達も、おかしいと訴えました。おまけに幽閉などと。しかし、王族側は、ずっと機会を狙ったいたようです。王の崩御が、そのきっかけだったという事です」
「……」
(ずっと、ずっと機会を伺っていた? 何か、ミスをする機会を?)
「この国と聖導会の歴史について、授業をちゃんと出ていれば、把握できているはずですよ。プレア」
「……」
(そ、それは、そうだけど。そうだけど)
だから、私は嫌いだったの。
出たくなかった。
「だ……、だから……」
「だから、何ですか? プレア」
「だから、出たくなかったんです。アクス様!」
私は、感極まって泣いてしまった。
「そうですか」
涙を通してみるクロス様が、少し困ったお顔をされていた。
気のせいか、その目には、涙が流れていたようにも思えた。
自分の涙のせいで、それを確かめる事が出来ない。
体をギュ――と、抱きしめられる感覚がした。
ああ、きっと、これはモイラだわ。
ごめんね。
こんな話を、一緒に聞かせてしまって。
ごめんね、モイラ。
アクス様は、あの第六王子様。黒い騎士様と上の御兄弟の事との拗が、こうなって行くのを感づかれていたのだと思う。
そして、必要以上に関わろうとしてしまった。
でも、アクス様は、個人的にも黒い騎士様を助けようと苦心されていた気がする。
この私でも、何とかしてあげたいと思うのだから。
慈悲深いアクス様が、放置など出来なかったのだろう。
一人の王妃をスラム街から拾っただけで、国が亡びるなんて普通はあり得ない。
しかし、この国は。
この「前の国」は、そういう状況だったのだろうか?
アクス様には期待されていると言われているけれども、授業を抜け出すぐらいの事しか出来ない私に、何を期待されているのだろうか?
「落ち着きましたか? プレア」
クロス様が、優しい声を掛け、心配して下さった。
「……。あ、はい。はい。落ち着きました。少し」
「ふふふ。少しですか? まあ、それは良かった」
(あ!)
クロス様が、笑った。
初めて見た気がする。
「さあ、落ち着いたなら、もう部屋に帰って休みなさい。授業は明日もあるのですよ」
とクロス様。
横を見ると、モイラが俯いてシクシクと泣いていた。
私は、モイラの手を、優しく掴み返した。
「モイラ。部屋に戻ろう?」
反応が無い。
しばらくの沈黙が続く。
「はい。お部屋に戻りましょう」
いつも泣きべその顔は見慣れているけれど、今日のモイラは、その涙目の顔を上げようとはしなかった。
本当に辛くて泣いている顔を、見せたくないのだろう。
「さあ、行くわよ」
私は、腕を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がる。
モイラも、一緒に立ち上がってくれた。
「クロス様。今日は、お話下さりありがとうございました」
「はい。辛い話となりましたが、あなた方が、そこまで成長しているから話すことが出来たのです。その点を、良く理解するように」
「はい」
きっと、クロス様は、前の様にお転婆な事をしない様にと、窘められたのだろう。
私も、ちょっと大人の女性になれたのかな?
まだ、ちょっと良くわからないけど。
この後しばらく後、『聖導会の神官の皆様が協議の末、クロス様を大神官代理代行に任じた』と発表があった。