13 幽閉
翌朝、いつもの様に授業を受けようと教室に向かって行った。
しかし、到着すると皆の様子が変だった。
黒板には、『講堂に集まるように』とだけ書いてあった。
事態は、私達の思っていたより早く、悪い方向に進んで行っているようである。
「プレア様。これは?」
モイラが心配そうに尋ねて来る。
「ここで色々話していても何もわからないわ。早く講堂に行ってみましょう」
私はモイラにそう言い、教室の皆にも声を掛けてから、モイラと一緒に向かった。
講堂では、既に多くの生徒や先生方が集まっていた。
見回すと、偉い先生方やアクス様の姿が見えない。
まだ、御到着されていないのだろう。
もしかしたら、アクス様も来られるかもしれない。
講堂に集めるという事は、この学校についての話なのだろうか?
王様の崩御が、この学校と関係あるのかな?
でも、王家と聖導会は、長年の間、少しづつ悪化していると聞いた。
あの王様は、おんぼろ街からお嫁さんにするくらい、放胆な方だった。
だから、今までは平温だっただけなのかもしれない。
私は、そんな風に思った。
しばらくして、クロス様と先生方が入ってこられ、クロス様は演台に御登壇された。
クロス様は、いつもの様に硬い表情なので良くわからないが、一緒に来られてた先生方までも、硬い表情をされていた。
悪い予感がする。
「皆さん。これで全員そろっていますね。では、これから重大な事をお話いたします」
クロス様が話を始められた。
「とても急ですが、当聖導会のアクス・マグネティカ聖導会大神官代理様が、しばらく聖務をお休みすることになりました」
生徒たちは、誰も声を出さず、クロス様の言葉を待つ。
「当面。聖導会の聖務は、この私『クロスローズ・サルヴェイション』が兼任で行います。これは、あくまで臨時であるとします」
ここで、やっと皆が騒めいた。
「静粛に! 静かになさい! 落ち着きなさい!」
先生のお一人が言われた。
「ここ数日、アクス様は心労により、体調を崩されておりました。大事を取って、お休みして頂いております。皆、心配ありません」
クロス様は、そう仰られた。
だが、その言葉を、そのまま信じる生徒は、誰もいないはずだった。
数日前の大神殿の話。
アクス様の表情。
言葉にしないだけで、みんなは同じ結論を出していた。
アクス様が、『幽閉』されたのだと。
黒い騎士様関連であると、私は何となくわかった。
そう思った。
だけど、モイラも含めた他の人達は、そこまでの事情はしらない。
なぜ『幽閉』までするのかと思う事だろう。
その後、授業の方は、今まで通り進めるから心配ないようにとか説明があった。
「授業、中止じゃないんだ」
ボソッと、隣の人が呟いだ。
私も、ちょっとがっかりした。
いや、そんな悠長な状況ではないのだけれども。
講堂での集会が終わった後は、普通通りに教学の授業が続いた。
「プ、プレア様。お元気ないようですが?」
モイラが心配する。
「うん。だって……」
「だって?」
「普通は、こういう時授業中止して、皆で対策立てるんじゃない?」
「え?」
モイラが驚く。
「何で驚くの?」
「私達が、考えて何が出来るのですか?」
と、モイラ。
う、そう言われると……。
で、でも。
「でも、何が出来るか、考えることぐらい出来るじゃない?」
「はぁ。そんなにお勉強お嫌いなんですね?」
モイラに、呆れられてしまった。
「部屋に帰るわよ。帰ったら作戦会議」
「ええ?」
「いいえ。やっぱり、帰る前にクロス様とお会いしてきましょう」
「ええ?」
戸惑うモイラに有無を言わせず、私は一緒にクロス様の学園長室に向かった。
コン、コン!
「誰ですか?」
私がドアをノックすると、クロス様が返事をされた。
「あの、わたくしです。プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルムと、モイラ・フルロスです」
「……。お入りなさい」
しばらく間を置いた後、クロス様は入室を許して下さった。
「失礼します」
「失礼します」
私とモイラは、挨拶をし入室した。
クロス様は、私の顔をジッと見つめられていた。
「やはり来ましたか? 来るとは思っていました」
うーん。
やはりクロス様にはお見通しだったか?
「あの、アクス様は、本当にご体調を崩されたのでしょうか?」
私の勘違いだといけないので、一応確認。
「……」
クロス様は、私達を見て、何か思案されている風だった。
あ、モイラも一緒に連れてきてしまった。
これ、マズかったかな?
しかし、今ここでモイラに帰ってというのも。
「アクス様はお元気です。ですが、あなたの想像通り、アクス様は自由に行動出来ない状況となっています」
やっぱり。
「それは?」
「ハッキリ言うと、『幽閉』です。アクス様のお自宅でですが」
幽閉?
牢屋じゃなくて?
「あの?」
「別に、手足を縛られて、捕らわれているのではありませんよ。変な想像は、おやめなさい」
(いや、そこまでは、考えていないけれど)
私、そんな事考える人間と思われているのかしら?
「ですが、今のところはという状況でしょうね」
「では、このままでは?」
「ええ。今はご自宅の御屋敷でですが、王宮に移される可能性もあります」
「それは、良くない事なのでしょうか?」
「『逃げられない様に』という為でしょうからね。良い状況ではありません」
「あの、クロス様!」
「はい。何です?」
「アクス様が、何の罪を犯されたというのでしょうか?」
クロス様は、少し困ったような顔をされた。
やっぱり、聞いて来たかと思われたのだろうか?
その後、苦笑いをされた。
「モイラもいるので、控えたいところですが。もう、そう言っていられない状況でしょう。二人とも、覚悟して聞きなさい」
急に自分の名前が出て来たので、モイラが隣でギュッと身を固くした。
「アクス様に悪い噂が立っていました。王族や王族派の貴族からは、国家への謀反の意志ありと疑われたのです。それの疑いが晴れるまで、自由を拘束すると」
私は、その話を聞いた瞬間、自分の中に怒りが満ち、椅子から立ち上がっていた。