12 前の国の王の崩御
おんぼろ街から帰って来て数日後、私達は大神殿の礼拝堂に集められた。
「プレア様、何があったんでしょうね?」
モイラが尋ねて来る。
「うーん。何だろうね」
正直にわからない。
だけど、今までの黒い騎士様と御母上の話、アクス様から聞いた話。
それらから考えると、悪い予感がしていた。
「皆さん、静粛に。これからアクス・マグネティカ聖導会大神官代理様が、お話になります」
いつもクロス様と呼んでいる聖導会大神官代理補佐クロスローズ・サルヴェイション様が、皆に注目するように声をお掛けになった。
「皆さん。いつも御聖務と教学、ご苦労様です。突然集められて驚かれたかと思いますが、今回悲しいお知らせをしなければなりません」
「……」
皆、ざわついた。
「お静かに!」
クロス様が、きつい声で注意する。
「国王様が、昨夜、崩御されました」
アクス様が言われた。
皆、驚いて声も出ない。
私は、目の前が真っ暗になるような気がしていた。
これは、最悪の事だ。
「次期国王様については、これから発表があるでしょう。今はまだ、喪に服している状態です。私達としては、しきたりどおり、お祈りを崩御された国王様の為に行う準備を始めてください。準備次第、王家の方々を招いてお祈りを行います。詳細はクロスローズ補佐に任せます」
アクス様が、祭事のメインの司祭様をされるのだろう。
それにしても、第六王子の黒い騎士様と母上様の件は、大丈夫になったのだろうか?
いや、多分、そうなってはいない。
私は、アクス様の硬い表情を見て、勝手に邪推した。
退室される時、アクス様と目が合った。
その目は、悲しみに満ちていた。
王様が御崩御された事への悲しみだけではなく、この国の。
この国、前の国の未来が、悪い方向へ大きく変わっていくのを、悲しんでおられるように見えた。
「あのアクス様が、私に助けを求めるような眼をされるなんて」
「え? プレア様、アクス様が、どうされたのですか?」
モイラが心配そうに尋ねて来た。
いけない、ひとり言を呟いていたのね。
「モイラ、何でもないわ。ええ、何でもない」
あけ放たれた大神殿の窓から、夕日が入り込んでいた。
もう直ぐ、夜が来る。
暗い暗い、夜が。
今日の夜は、ちゃんと明日を迎えられるのだろうか?
「モイラ。明日は、晴れるわよね?」
「はい、プレア様。綺麗な夕日ですから、明日はきっと晴れると思います」
この綺麗な夕日が、ずっと続けば良いのに。
アクス様、クロス様の話が終わったので、私達は大神殿を離れ帰路に就いた。
大神殿は、誰もいなくなった。
人ひとりいない大神殿の礼拝堂を見て、私は何とも言えない気持ちになっていた。