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第六話 マジックのマジック

 本屋ビルに帰って考えて朝を迎えた。

 窓からビルの間の水平線を見る。

 あの向こうで海上都市ムラサメはこちらへ進行しているのだなと思った。


 なんとかせねばなるまい。

 人類と人魚の未来の為に。


 本屋ビルの蔵書をひっくり返し、神田に行って専門書をひっくり返した。

 核魚雷の本なぞは発見出来なかったが、魚雷の大体の構造は理解できた。


 最近の魚雷はセンサーで海中を探りながら動く。

 であるなら、そのセンサーを狂わせれば良い。

 そこでマジックだ。

 魚雷の目であるセンサーにマジックで落書きをする。

 センサーが狂って核魚雷はムラサメに直撃しない。

 魚雷は外れるがムラサメ側は人魚が核武装しているのを知る。

 そのあとは人魚とムラサメで交渉を重ねればいい。

 完璧だ!

 河童の裏工作による平和が訪れるのだ!


 俺は三省堂ビルに潜り込み新品のゼブラのマジックを一本調達した。


 神田まで来たのでついでに東京ドームへ偵察に行った。

 物陰からドームをのぞくと、大きな鯨の様な物体がゆっくりとバックで東京ドームへ入り込む所だった。

 原子力潜水艦だ!

 目つきの鋭い人魚の歩哨が三又の槍をかざして辺りを見回っていた。

 原子力潜水艦に核魚雷を装填し、ムラサメに打ち込むつもりか。

 考えてみれば当たり前の事だった。

 核魚雷だけをドームから打ち込もうとしても、航続距離が足らないだろう。

 何とかして、ドームに忍び込み、原潜に装填する前の核魚雷のセンサーに悪戯書きをしなければ。

 人魚姫が核攻撃は二日後と言っていた。

 装填されるのは攻撃当日だろう。

 では、明日の夜忍び込んで悪戯書きをしよう。

 俺はそう決めて、銀座に帰って寝た。


 朝、波の音に雨音が混じって俺は目を覚ました。

 悪天候は好都合だ。

 空を見ると雲が飛ぶように走っていた。

 SFを読みながら(あじ)を囓り、夜を待つ。


「おーい、河童ー」


 下を見ると結だった。


「姫さんから差し入れー」


 そう言うと、いつものように尻尾ではたいて俺の居る場所へ包みを投げ入れた。


「なんだこれ」


 開いてみると、紅白のまんじゅうが入っていた。


「開戦まんじゅうだそうだ」


 アホかい。


「結ー。魚雷はまだあるのかい?」

「んー。軍事機密だから黙ってろだとさ。でもあるよ」


 結に軍事機密を守らせるのは至難の業だな。


「今どこにあるんだ?」

「? ドームの裏手のビルだよ。なんでそんなこと聞くんだ?」

「いや、何となく」

「核魚雷は姫様が大切にしてるから、悪戯すると八つ裂きにされんぞ」


 ああ、そうだろうな。

 だが、俺はあえて核魚雷に悪戯書きをしにいかねばならないのだ。

 世界の平和の為に!


 夜。

 あいにく雨は上がって空は晴れわたった。

 十七夜の月の明かりの中、真っ暗な水中を水道橋に向かって泳ぐ。

 水の中は暗いが、透明度が高いので何とか見える。

 夜行性の魚を追い散らしながら、夜光虫の群の中、俺は進む。


 防水リュックの中にはマジック。

 世界を救うため、俺は力強く泳ぐ。

 水流が体の脇を通り過ぎていく。

 体に力が満ちあふれる。

 世界の平和は俺と俺の持つマジックに掛かっている。

 俺は正しい。誰よりも正義で、世界一立派な河童だ。

 全能感が体を支配し、腕を上げ水をかき足をばたつかせて水深五メートルの水中をジェットのように飛ぶ。

 核魚雷のセンサーに人知れず落書きをし、そして帰って寝る。

 明日の攻撃で色々なもんちゃくが起こるだろうが、俺はしらん。

 俺は誰にも知られずに善行を施し、知らん顔をして、読みかけのSFを読むのだ。

 格好いい、俺。

 いかすぜ、俺。


 東京ドームに近づいた。

 浮上して辺りを見まわす。

 ライトアップされているが、歩哨は居ないようだ。

 寝てしまったのか?


 水中に潜り、慎重にゆっくりと泳ぐ。

 歩道橋にそって潜水し、裏手のビルに廻る。

 裏手のビルはぽっかりとシャッターを開けていた。


 中は空で、灯りが煌々とついていて、結がせっせとモップがけをしていた。


「あれー、なんだお前、こんな時間に?」

「……核魚雷は?」

「え、ああ、なんだか月が綺麗だからちょうど良いって、発射しに行っちゃったよ」


 なんだとーっ!!


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[一言] 軽いノリで核を持ち出さないで…
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