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第三話 人魚姫のイルカ馬車

 音楽が遠くから聞こえてきて、俺は本の中の宇宙戦争から引き戻された。

 中学校の吹奏楽部みたいな、下手くそで、ちょっと投げやりで、騒々しい行進曲がどんどん近づいてきた。

 窓を開けて下を見ると、人魚の楽隊が行進していた。

 楽隊の後ろにはイルカに引かれた山車みたいな物が海面を移動していた。

 人魚姫のイルカ馬車だ。


 馬でも車でもないのだが、人魚どもはあれを「イルカ馬車」と言って譲らない。

 正確には「イルカ牽引ボート」だろう、水に浮かんでいるのだし。

 山車の脇には飾りの車輪がついていて水を引っかき回していた。


 アールデコ調の彫刻で飾られた窓が開いて人魚姫が顔を出した。


「河童さーん」


 げ、見つかった。


「一緒にのっていきませんこと?」


 優しそうで綺麗で上品だけど、実は人魚姫は心が狭い。

 ここで俺が断ると烈火の如く怒った人魚の大群、約二百匹に追いかけられる羽目になりそうだ。


「いいんですか?」


 一応聞いてみた。

 人魚姫はドアを開いて手招きしていた。

 おやつにされませんようにと祈りながら俺はイルカ馬車の近くへ飛び込んだ。


 イルカ馬車の中は凄く揺れる。

 縦波を越すたびに人魚姫の頭が揺れて王冠の飾りがちゃらちゃらと鳴った。


「いいんですか、俺なんかをこんなすばらしいものに乗せて」


 滅多に使わない河童のおべんちゃらだ。


「大切なご近所さまですし、それにいつも結ちゃんがお世話になってますから」


 結の世話なんかしてねえよ。

 俺はイルカ馬車の中ですごく居心地が悪い。

 人魚姫は俺の方を向いてふんわりと笑っていた。


「たまには秋葉原にも遊びにきてくださいましな」


 俺にとって秋葉原は水没前のニューヨーク、ブロンクス並に行っちゃならない場所だ。


「え、ええ、そのうち」

「河童さんも前世紀は人間に酷い目にあわされたのでありましょう?」

「まあ、それは河童ですから」

「私たち人魚もそれはそれは酷い目にあいましてね。世界が水没してざまあみろでございますのよ」


 人魚姫たちは水没前から人魚だったから大変だったと聞く。

 サーカスで見せ物になってたとか。

 だから人魚姫は人間を激しく恨んでいる。

 もう、やばいぐらい憎んでいるのだ。


 俺も人間はあまり好きでは無かったが、それでも高校時代「お前は河童だが良い奴だ」と友だちになってくれた奴もいて、人魚さんたちとは大分違う。

 ちなみに友だちたちは、水没後、みんな死んだ。

 俺が見取って野辺送りをした。


「だから、私どもは報復をするのですわ」

「報復?」


 何するつもりだ、この姉ちゃん?

 人魚姫は俺の質問を無視して、くすくすと笑った。

 楽しそうにくすくす笑った。


 イルカ馬車は波をかき分けて後楽園に近づいて行く。

 後楽園ドームはピカピカに磨き上げられ、電飾を四方八方に掛けられ、アニメの魔法要塞みたいな雰囲気になっていた。

 人魚がもの凄く沢山うろうろしていて、俺はぞっとした。

 ドームの中へイルカ馬車は入り込んでいく。


「なーに河童の分際で姫様と一緒の馬車に乗ってんだ、お前っ!」


 結が、人魚姫と降りてきた俺を見て、そう毒づいた。


「結ちゃん、私が誘いましたのよ」


 それを聞いて結はぷうと脹れた。

 俺は結が一足で襲いかかれないように距離を取った。


「喰わないっていったでしょっ!」

「信用ならん」


 俺たちの掛け合いをみて、人魚姫はクスクス笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 河童も過酷な体験を淡々と述べるなあ まるでレディースかスラムの住人な人魚たち、感情表現も肉体言語多めなコミュニティ? 人魚なんて漁業害獣、海洋国家たる日本ではさぞひどい扱いだったに違いな…
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