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銀河連邦大戦史 双頭の竜の旗の下に  作者: 風まかせ三十郎


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第51話 要塞

 マーキュリー要塞から二百万キロ離れた宇宙空間で、第七艦隊は陣形を突撃隊形に再編した。最前列に並べられた数万個の岩塊群には、既に補助推進装置(ブースター)が着装されていた。作業を終えた工作艦が後退すると、入れ替わるように第五四戦隊が四列の横隊を敷いて進み出た。既に敵駐留艦隊は囮の輸送船団に引っかかり、現在、要塞に帰還するまで丸二日を要する地点にいた。


「どうやら敵は全艦を以て出撃したようです」


 ヴォルフがデータスクリーンをチェックして振り向いた。

 要塞前面に一隻の敵艦の姿も確認できないので、ウォーケンもその考えに同意した。


「だが三千隻とはいえ、敵に機動戦力が加われば厄介なことになる。その前に敵要塞を陥落させねば」


 途中、ペルセウスが第七艦隊旗艦シリウスと擦れ違ったとき、ウォーケンはシリウスの艦橋に登舷礼で見送るフォスターの姿を見い出した。彼だけではない。すべての将兵が敬意を込めて、竜戦隊を登舷礼で見送っていた。


「提督、突撃隊形完了しました」


 ヴォルフが硬い表情で攻撃準備が整ったことを告げた。ウォーケンはマイクを握り締めると、貴下の全将兵に向かって話しかけた。


「諸君、我々はようやくここまで辿り着いた。見たまえ、今、我々の目の前にマーキュリー要塞がある」


 艦橋にいる者すべての目がビデオスクリーンに映るマーキュリー要塞へ注がれた。

 

「あのマーキュリー要塞さえ落とせば、同盟の降伏は時間の問題となるはずだ。それは同時に奴隷制度崩壊をも意味するのだ。わたしは諸君に容赦なく過酷な任務を課してきた。諸君はよくそれに耐えてくれた。今まで共に戦ってきたことを誇りに思う。感謝する」


 ウォーケンは艦橋内の目に映るすべての者に無言の謝意を伝えると、


「我らの旗を掲げよ。双頭の竜の旗を!」


 ペルセウスのマストに第五四戦隊の旌旗が翻った。攻撃開始の合図だ。


「補助推進装置点火!」


 ウォーケンの双眼がカッと見開かれた。岩塊に着装した補助推進装置が一斉に火を噴いた。マーキュリー要塞に向かって無数の光が尾を引いて伸びてゆく。破壊兵器は流星のような美しさを身にまとい、一瞬の光芒の後に多くの人命を奪ってゆく。

 この時代、義手、義足、人工内蔵など多くの器官が本物同様の働きをした。肉体が散華しない限り死はあり得ない。ウォーケンは幼少の頃、父親に伴われて両手、両足、それに左目が義眼の退役軍人に会ったことがある。ウォーケンはテーブルの上に並べられた勲章を目を輝かせて見つめていた。男は義手を外して傷口を誇示すると名誉の負傷と自慢した。三十年前に起きた”ドルトムントの内乱”で肉体はぼろ雑巾のように吹き飛ばされたという。


「この歳になると傷口がひどく痛むんだ。お陰で夜も眠れんよ。こんなことなら、いっそのこと、あのとき死んじまえばよかったよ」


 そして父親に聴こえないよう、こう囁いた。


「勲章など何の足しにもならんよ。いいかい、坊や、軍人にだけはなるなよ」


 母親に伴われて傷病兵を病院へ見舞に行ったときも、核ミサイルの放射能を浴びて白血病と闘いながら生活している人から似たような話を聞いた。彼は死ぬことよりも生きることがより苦しい人々を数多く目に焼き付けてきた。

 ロードバックは非戦論など机上にも乗らぬ空論だと嘲笑した。だがそんな彼も恒久平和の実現に敢えて異を唱えることはなかった。彼だけではない。連邦も同盟も、人類もグローク人も、誰もが心の底では願っているのだ。人類の未来から永遠に戦争を消し去ることを。戦争、この憎むべきもの。自らの手で終止符を打つのだ。そして永遠に封印するのだ。


 岩塊を射出してから十分が経過した。間もなく岩塊群は要塞砲の射程距離に達するはずだ。


「よし、全艦、前進を開始せよ」


 高く差し上げられた腕がサッと振り下ろされた。第五四戦隊の全艦艇が一斉にエンジンを始動させた。ペルセウスは一列目の中央で先頭を切って進撃してゆく。戦端が開かれた。ビデオスクリーンは岩塊を撃ち砕く要塞砲の閃光で眩いばかりに染まっていた。その透き間を縫って岩塊が一つ二つと要塞を直撃するたびに、兵士たちの間から歓声が上がった。要塞の周辺は徐々に破砕された岩片で埋もれていった。破砕されたと言っても、岩片は数十トンから数百トンの質量を有している。陰に隠れていれば要塞主砲の一撃や二撃は防いでくれるはずだ。そうして砲撃の合間に岩から岩へと移動しながら要塞へ接近するのだ。

 ペルセウスの周囲にも無数の岩片が漂う。同時に一条のビーム弾が至近弾となって艦を掠めた。艦隊も要塞砲の射程内に突入したのだ。ウォーケンは即座に命令を下した。


「各艦、散開して岩塊の陰に入れ」


 岩塊が完全に破砕される前に要塞に取りつかねばならない。だが接近するに従い、中短距離砲も加わって砲撃は激しさを増してゆく。こちらも岩塊から岩塊へ移るわずかな間に砲撃を加えるのだが、それでは正確な照準など望むべくもない。敵の強力な火力は一向に衰えることなく、確実に岩塊の障壁を撃ち崩してゆく。次第に味方艦が戦列から落伍してゆく。

 ソコロフが乗艦する戦艦バートナムは無謀にも五千キロ先にある岩塊への移動を試みた。敵はこれを見逃すことなく集中砲火を浴びせかけた。バートナムも全砲門を開いて応戦したが、数百門の要塞砲の前には赤子の手に等しかった。バートナムは全艦炎に包まれながら砲台に激突して敵と刺し違えた。


「このまま突っ込めえ!」


 勇猛果敢なソコロフの叫びが聞こえてくるような壮絶な最期だった。

 

「ソコロフは無事か!」


 ウォーケンの願いも虚しく、戦艦バートナムからの脱出者が皆無であることが確認された。司令部幕僚戦死の報は、艦隊司令部を重苦しい空気で押し包んだ。だがバートナムが敵の攻撃を一手に引き付けていた間に、多くの艦艇が無傷で数万キロの前進を果たすことができた。ソコロフの狙いもそこにあったのだろう。彼は勇猛果敢な将官として知られていたが、ただ闇雲に突撃を繰り返すだけの無能な指揮官ではない。自分の命を投げ出すことで、停滞した味方に進撃を促したのだ。だが貴下の艦隊に爆沈必死の囮艦を下命できない以上、それはただ一度きりの無謀な作戦とも言えた。

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