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銀河連邦大戦史 双頭の竜の旗の下に  作者: 風まかせ三十郎


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第21話 給料

 主計課は給料日に限り多人数を捌くために講堂に特設される。

 ダフマンは給与袋を手にした同僚の顔が妙に暗いことに気が付いた。列の最後尾に並んだトムソンも、待ち望んでいた給料日にも拘わらず、なぜかその場の雰囲気が重苦しいことに不信感を抱いた。


「おい、何があったんだ?」


 トムソンが傍らを通り過ぎようとした兵士を捕まえて問い質した。


「給料が三ぺスタほど差し引かれたんだ」


 その兵士は肩を落として呟いた。


「なぜ、そんなことになったんだ?」

「大統領命令だそうだ。グローク人は人類ほど役に立たねえんだと」


 トムソンは列を飛び出すと主計係に詰め寄った。


「なぜだ! 俺たちだって人類の兵士並みに働けるぞ」


 人類の主計係は面倒臭そうに上目使いにトムソンを見た。


「大統領命令だ。文句あるなら大統領に言ってくれ」


 その言葉を聞いたスレイヤーが嘲笑するような目付きでダフマンを見た。


「さっきの言葉は取り消すぜ。人類は所詮、どいつもこいつも差別主義者だ」


 ダフマンの顔は心なしか蒼褪めていた。

 拳が怒りに震えている。


「奴隷制度撤廃を主張する大統領が、俺たちにこんな命令を下すなんて。これは明らかにグローク人に対する差別だ。このまま放っておいていいのか?」

「仕方ねえさ。これが人類のやり方なんだ。こんなこと農園ではしょっちゅうさ。それともおまえが大統領に直談判するか?」

「俺たちは人類の兵士と同様、いや、それ以上の厳しい訓練に耐えている。書類上でも同額の給与を保証されているはずだ。それなのに……」

「減額が嫌なら抗議する手があるぜ。サボタージュだ。働かねえのさ。まっ、その間は給料も貰えねえがな」

「そうか、その手があった!」


 ダフマンは演壇に駆け上がった。


「みんな、これを見てくれ!」


 そう叫んで手にした給与受領書をびりびりに引き裂いた。

 見守っていたグローク人は一様に目を見張った。それは給与の受け取りを拒否する姿勢に他ならない。ざわめいていた場内がシンと水を打ったように静まり返った。ダフマンは一同を見渡すと、


「大統領は俺たちに平等な社会の実現を約束したはずだ。だがその舌の根も乾かぬうちにこの仕打ちだ。赦していいのか? こんな差別行為を!」

「おい、止めるんだ」


 主計課の下士官が数名でダフマンを取り押さえた。

 だが彼は叫ぶことを止めなかった。


「みんな、思い出してくれ! 俺たちに課された大儀を! グローク人と人類が平等の下、共に手を取り合える社会の実現を!」

「そうだ、俺たちは金のために戦っているんじゃない! グローク人の名誉と尊厳のために戦ってるんだ! そのことを大統領に教えてやる!」


 トムソンが演壇の上に駆け上がって叫んだ。

 彼も手にした給与受領書を何のためらいもなく引き千切った。


「俺は大儀より金の方が大切なんだ。だから許せねえんだ! 三ぺスタなんて大統領にとっちゃ端金なんだろうが、俺たちにとっちゃ大金なんだ! それを俺たちがグローク人だからという理由だけで減給するなんて。そんな奴の命令なんて聞けるものか!」


 静まり返った講堂の中に、スレイヤーの声が響き渡った。

 彼もまた給与受領書を引き裂いて、今度の理不尽な措置に対して反抗する気構えをみせた。


「そうだ、これがグローク人に対する差別であることを、大統領に教えてやろう」

「連邦も同盟もない。我々が憎むべきは人類の差別主義者だ」


 方々から上がる賛同の声にダフマンの顔は輝いた。

 彼を押さえ付けていた上官たちは、グローク人の威勢に押されて後退った。


「サボタージュだ! グローク人の名誉と尊厳のために!」


 講堂を揺るがすような叫び声が一斉に沸き上がった。

 主計課員は互いに目配せすると慌てて講堂から逃げ出した。


「おっ、あいつら、とうとう逃げ出しやがった!」


 多くのグローク人が哄笑で彼らを見送った。そして演壇から降りたダフマンとトムソンを取り囲んだ。

 

「よう、これからどうするんだ? このままじゃ司令部が黙っちゃいねえぞ」

「まさか、このまま講堂に引き籠って、司令部と一戦交える気じゃ……」


 次々と沸き上がる不安の声を、トムソンは両手を上げて押し止めた。

 

「まあ、みんな聞いてくれ。サボタージュを決行するには全員の意思統一が必要だ。このことを他の者にも伝えて、明日の課業に出席しないように呼びかけるんだ。その前に司令部の方から話し合いの機会を設けるとは思うが……」

「もし交渉が決裂したらどうする気だ」


 スレイヤーが真剣な表情でトムソンに詰め寄った。

 

「そのときは拘束されて軍法会議にかけられるか……。まさか銃殺とまではいくまいが、どの道軍を辞めることになるだろう」

「おい、冗談じゃねえぞ。それじゃ今までの苦労が水の泡だ」

「俺は……、差別主義を容認する司令官の下で命を投げ出す気にはなれない」


 同感だとダフマンも思う。だがウォーケンが信頼に値する司令官であることは自分が誰よりも知っている。彼に直接会って事の真相を確かめたい。彼は思わず口走った。


「俺を司令部に行かせてくれ。この件についてウォーケンと話し合いたい」

「ウォーケン?」


 トムソンが問い返した。その直後、司令官とダフマンが幼馴染の親友であることを思い出した。


「減給なんて、ウォーケンが認めるはずがない!」

「だが大統領命令だ!」


 どこからともなく声が飛んだ。


「それでもだ!」


 ダフマンは自分を取り囲むグローク人の人垣を睨みつけた。


「これはきっと何かの手違いだ。直接会って真相を確かめたい!」

「おい、早まるな、ダフマン!」


 トムソンの静止を振り切ってダフマンは講堂を飛び出した。

 司令部に向かう道すがら、彼はただ一つのことだけを念じていた。

 

 ウォーケン、グローク人を裏切るような真似はしないでくれ。

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