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銀河連邦大戦史 双頭の竜の旗の下に  作者: 風まかせ三十郎


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第13話 課業

 その日のうちにグローク人兵士たちは総員軍服と銃を身に付けることができた。

 軍服を着て互いに見せ合い自慢する者、エネルギー弾を抜いた小銃で銃撃ごっこを楽しむ者、銃剣を振りかざしてチャンバラごっこに興じる者、まるで子供のようにはしゃぐ彼らを見て、ヴォルフが顔を顰めた。


「まるでファッションショーか戦争ごっこですな。これは……」


 大目に見てやろうとウォーケンは思った。

 彼らの誰もがこの日が来るのを待ち侘びていたのだから。これで彼らの中にも兵士という意識がしっかりと根付くはずだ。


 ■■■


 その夜、天幕での会話が弾んだのは言うまでもない。


「銃なんて持ったのは生まれて初めてだ」


 よほど嬉しかったのか、グレイはその夜、眠りについた後も銃を手放そうとはしなかった。

 彼らに支給された銃はウインチェスターM76自動小銃。その性能は五百メートルの距離で厚さニ十センチの鉄板を貫く。


 グレイが銃を見つめて呟いた。


「これ、どうやって撃つんだろ?」


 ダフマンが答えた。


「弾倉を装着したら、ここの安全装置を外して槓桿を後ろへ引く。後は狙いを定めてトリガーを引けばいいのさ」

「なるほど、銃の扱いって意外と簡単だな」

「僕の使っていた銃は狩猟用のライフルだから、この自動小銃より操作が簡単なんだ。でも基本動作に大した違いはないはずだから。詳しい使用法は教官が教えてくれるよ」


 スレイヤーが口を挟んだ。


「ほう、狩りとはまた優雅な生活だな。さすがは金持ちのお坊ちゃんだ。辺境でそんな暮らしをしてるやつと言ゃあ、大農園主くらいなもんさ」


 ダフマンはムッとして口を閉ざした。

 グレイが気まずい沈黙を破って口を開いた。


「でも俺たち軍艦乗りだろ? どうして陸軍の真似をしなきゃいけねえんだ」


 トムソンが寝床に横になったまま答えた。


「銃の一丁も扱えんで兵士といえるか? 要は分隊行進と同じ基本動作の一つなんだ」

「なるほど」


 グレイが銃を構えて照準を定めた。そしてトリガーを引くと”バン”と叫んだ。


「射撃訓練か、なんかワクワクするな」


 だがそんな高揚感も翌日になって早くも萎んでしまった。と言うのも、まず彼らが教官から教わったのは銃の分解と組み立て、つまり手入れに関することだった。

 

 生徒を前に教官が叫んだ。


「いいか、目をつぶってでも分解と組み立てができるようにしろ。銃の構造に精通するのだ!」


 グレイは思わず嘆息をついた。期待と裏腹の講義内容に落胆したのだ。


「これじゃ座学と少しも変らねえ。いつになったら実弾撃たせてくれるんだ?」

「いずれ嫌でも撃たなきゃならない時が来る。それまで我慢しな」


 トムソンは奴隷特有のささくれだった手で黙々と小銃の手入れに勤しんでいた。だがその手つきは農園で煙草の葉を摘んでいたときよりも、よほど熱が入っていた。


 グレイがスプリングを摘まみ上げて考え込んだ。


「ええと、これ、どこの部品だっけ?」

「こら、おまえ、手を休めるな!」


 教官の怒号が飛んだ。


 操艦訓練は軍艦に積載された連絡艇を使って行われた。

 この時代、星間旅行を経験しない者は皆無に等しかったが、それは飽くまで旅客としてであり、宇宙船の航法に関しては全員が素人だった。

 教官が副操縦席から操縦桿を握る生徒に指示を出す。他の生徒は後部シートに座って、その様子を見学しながら自分の順番を緊張して待つ。


「戦闘で艦が沈んだ場合、第一に必要なのがこの連絡艇である。一分一秒脱出が遅れたために助かる命も助からない場合がある。また敵に通信が妨害された場合、味方同士の連絡を取る有効な手段となる。いずれにせよこの作業は常に迅速を要求されるのだ。皆は十分心して教官の指示に従うように……」


 クロウは後部シートでぼんやりと教官の指示を思い出していた。

 操縦法はしっかりと頭の中に叩き込んである。手先の器用さにも自信がある。


 なんとかやれるさ。


 彼の目には操縦席で悪戦苦闘する戦友の姿が滑稽にすら映った。だが自分が操縦席に座ったとたん、そんな余裕は跡形もなく消し飛んだ。


「こら! なにをやっとる! 面舵とは右に曲がることだ! まだ覚えられんのか!」


 クロウは教官の怒声を浴びつつ必死で操縦桿を握り締めた。自分の意思通りに動くはずの機械がこんなにも儘ならないものだとは……。こんなことなら農園で荷馬車でも引いてる方がまだマシだ。他人が操縦しているときは恐怖心など感じなかったが、いざ自分が操縦してみると、そのスピード感に軽い眩暈を感じるほどだ。彼は面舵(おもかじ)は右、取舵(とりかじ)は左と心に念じつつ、早く自分の番が終わるのを祈り続けた。

 その点、スレイヤーの反射神経は抜群だった。ついこの間までグレイと同様、右と左の区別もつかなかった男が、教官ですら、これが初心者かと舌を巻くほどの高度な操縦技術を披露してみせたのだ。彼は連絡艇訓練を終えると、余裕の笑みを浮かべてクロウに話しかけた。


「これなら荒馬を(なだ)める方がずっと大変だぜ」


 ■■■


 数日後、ウォーケンは作戦本部に次のような報告書を送っている。

 

「グローク人の軍事教練は予想以上の進捗をみせています。特に実戦訓練に入ってからは優秀な成績を上げる者が多く、彼らの体力が人類を上回ることを身を以て証明しています。彼らはどんな命令にも黙々と従い、決して弱音を吐きません。これも虐げられてきたゆえに養われた精神力の強さでしょうか。当初は教育期間を七か月頂きましたが、人類の新兵と同じく五か月で課業を終えることをお約束します。作戦本部長や艦政本部長もそのおつもりで第五四戦隊の編成を考慮していただきたく……」

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