北極星の魔女と騎士(sideアルベール)
北極星の魔女の血を強く受け継いでいるばかりに、アルベールの魔力は、時々暴走する。
あの日もそうだった。アルベールが、初めてミラベルに出会ったあの日も。
そして今朝、体調が悪いのを自覚していたにも関わらず、護衛任務を継続しようとしたのは、たぶんこの場所を誰かに譲りたくなかったからに違いない。
だが、ミラベルの顔を見た途端、魔力のコントロールが全くできなくなった。
アルベールは、そのことを理解していた。
それに、熱に浮かされて、言ってしまった言葉は、全てアルベールの本心だった。
「……俺は何をしているんだ」
目を開けて、一番初めにアルベールの目に飛び込んできたのは、ソファーに突っ伏しているミラベルの寝顔だった。
「……彼女を守ると決めたのに」
北極星の魔女は、子孫であるリヒター子爵家に、強い魔力を与えた。
それと同時に、北極星の魔女の伴侶だった祖先と同じ髪と瞳の色をした男子が生まれると、男子の愛した女性に破滅を与えてる。
自分が恋に落ちるなんて、考えたこともなかった。
それなのに、アルベールは、ミラベルとの再会からたった三日後、執事セイグルの言葉で心に巣くった恋心に気がついてしまった。
その直後、音もなく降り立った烏が告げた、アルベールへのメッセージ。
『愛を隠すのなら、猶予をあげる。愛する彼女にだけは、気が付かれてはいけない。だから、隠しなさい。そうね、期限は私を殺すためにあなたが旅立つまで』
魔女が執着するアルベールの変化に気づかないはずもない。
その言葉を完全に信じたわけではない。それでも、アルベールは、ミラベルへの恋心を、徹底的に隠すことを決めた。
「アルベール?」
「…………は」
最低限の言葉と、冷たい視線。
せめて嫌いになってくれればいいと、そうすればこうして気持ちを隠すのも少しは辛くないと思うのに、ミラベルはいつだって笑顔を向けてくる。
「限界だ……」
ミラベルから離れることを決めたあの日、事件は起こった。魔女の力に操られた侍女が、ミラベルの命を絶とうとしたのだ。
「助けてくださって、ありがとうございます」
「…………は」
……俺があなたを救おうとするなんて、当然では、ないですか。伝えたかった言葉を、辛うじて呑み込む。
アルベールは、理解した。恋をしてしまったが最後、魔女との約束の日まで、離れることでも、ミラベルは命を失うのだと。
結局、ミラベルを救った功により、アルベールは護衛騎士に任命された。
「眠っているなら、気づかれることもない……か」
もう一度、確実にこの気持ちを隠し通すと決めて。ミラベルが眠る、ほんの僅かなひととき、アルベールは愛する人に微笑みを向けた。
それなのに、完全に冷たくできていないことに、本人自覚なし( ˘ω˘ )
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