『は』しか言わない騎士と私 5
アルベールと出会ってから、数日間のことを思い出す。初めは会話らしい会話があったのに……。
やっぱり、よほど嫌われてしまうようなことをしてしまったのだろう。
その理由が、思いつかない上に、返答が一文字以外は、よくしてくれているので、申し訳なさしかない。
「おはよう、アルベール?」
年中無休のアルベール。
休みをとってほしいと伝えたのに、困った顔をされてしまって、それ以上言うことができなかった。
「………………おはようございます」
「え?」
少し潤んだ瞳が、私を見つめていた。
聞き間違いだったのだろうか。
それとも、挨拶を返してもらえたら、うれしいと思い続けた私の妄想だろうか。
「あ、えっと。薔薇の花に水をあげに行くわ」
「……は」
あっ、やっぱり聞き間違いだったのね。
けれど、やはりその日のアルベールは、おかしかった。
「アルベール」
「は」
「水をあげ終わったわ」
「ええ……」
ん? やっぱり、いつもと違う。二文字。
そういえば……。
アルベールの顔が赤いことに、ようやく気がついた私は、そっと、その額に手を当てた。
前髪を避けて触れると、ギュッと目をつぶるアルベール。
予想通りアルベールの額は、熱を帯びていた。
「熱……あるわ」
「問題ありません」
大ありだ。熱があるのなら、他の騎士に護衛なんて代わってもらえばいい。
「そ、そこまでブラックな職場じゃないですよ?」
私が触れていた手を、そっと握ってどけると、「嫌です……」とアルベールがつぶやいた。
あれっ? そういえば、普通に会話している?
「えっと……。じゃあ疲れたから部屋で休みたいの!」
「…………は」
私は、アルベールの手を引いて、部屋へと戻る。
そして、アルベールを無理やりソファーに押し倒した。
「…………あれっ?」
「…………」
手首を掴んで、アルベールを押し倒している私は、とんでもないことをしでかしているのではないだろうか。
こういうところなのだろう。
アルベールに嫌われてしまうのは。
「そのまま、少し休んでいなさい」
「…………お嬢様」
アルベールは、私には名前を呼べと言ったのに、私のことは、お嬢様と呼ぶ。……いや、それすら必要に迫られて呼ぶ時だけ。
そんな私たちの距離感は、どこか歪だ。
「命令よ。休めないというなら、隣の部屋に」
「…………いてほしい、です」
高い熱、こんなになるまで、いったい何をしていたんだろう。
まあ、確かに心細くなるよね。
「夢なら、せめて側に」
「え?」
その瞬間、私の目は、アルベールの微笑みに釘付けになっていた。
外野から見れば、甘々な二人を楽しんでいただけるとうれしいです(〃ω〃)
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