表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

『は』しか言わない騎士と私 4



「本日もご苦労様でした」

「は……」


 アルベールと私は、アルベールからの『は』の返答一文字だけで意思疎通を図ってきた。

 今日も変わることのない、そんな一日だった。

 昨日も今日も、たぶん明日もそうに違いない。


「あの、アルベール」

「は……?」

「…………なんでもない」

「え?」


 ん? 一瞬、『は』以外の音が聞こえた気がしたわ。まあ、どちらにしても、一文字だから、誤差範囲だろうけれど。


 しかし、それが翌日起こるアルベールの異変の前触れだったことを、私はまだ知らない。


「おやすみなさい」

「は」


 軽く会釈をするアルベールを残して、扉を閉める。


 ……出会った時は、こんなじゃなかった。


 私たちのファーストコンタクト、私は覚えているけれど、アルベールはきっと、覚えていないんだろうな。


『あの、もう少し飲みますか?』


 そう、はじまりは、そんな会話だった。


 ***


 アルベールは、道端に倒れていた。

 行き倒れにしては、妙に身なりのいい青年。

 そして、おそらく剣を扱うのだろう、鍛えられた体躯。

 そして、淡い金髪が陽光にキラキラと輝いていて、私は素直に綺麗だな、と思った。


 その時、アルベールの視線が、真っ直ぐ私に向けられた。


「っ……!」


 その青い瞳は、鋭かったけれど、あまりに綺麗で見惚れてしまった。

 なぜか、アルベールも私から視線を外すことなく、しばらくの間、私たち二人は見つめ合っていた。


「あ、あの」

「……このご恩は、いつかお返しします」


 なぜか、赤い顔をしたアルベールが、私から目を逸らした。

 おそらく、暑い日光に当てられてしまったに違いない。

 もう大丈夫だと、言って聞かないアルベールに、私は、持っていた水筒を押し付けて、日陰に座らせ、立ち去った。


 それだけのことだ。


 次に会った時、アルベールは、表情を変えることもなく、「リヒター子爵家三男、アルベールと申します。以後お見知り置きを」と、初対面の挨拶をしてきたから、確実に私の顔など見てもいなかったのだろう。


 メキメキと頭角を表したアルベール。

 執事のセイグルも認めていたから、腕はかなり立つようだ。


「アルベール、よろしくお願いします」

「は、身命を賭してお仕えいたします」


 それが、再会初日の会話だった。

 そして翌日……。


 早朝の薔薇の世話のため庭に出ると、アルベールが剣を振って自主訓練していた。


「精が出るのね。えらいわ」

「はっ? え……。恐れ入ります」


 それが、2日目の会話だ。

 至って普通の騎士と令嬢の距離感と言えるのではないだろうか? そうだよね?


 そして3日目。


「おはよう、リヒター卿」

「……アルベールと」

「うん? そうね、年もそれほど違わないし。アルベール、今日もがんばってね?」

「っ……?!」


 なぜか、アルベールが胸を押さえた気がした。

 去っていく私の後ろで、「俺は一体何を言った……?」というつぶやきが聞こえた。


 そしてその日の夕方、彼は変わってしまった。


「おつかれ様。活躍は、耳にしているわ。セイグルに認められるなんて、アルベールは、すごいのね」

「は…………」

「……? えっと、おやすみなさい」

「は」


 そのまま、恭しくお辞儀をしてきたアルベール。

 あの時からだ、彼が私の前では『は』か『は?』しか発さなくなったのは。


「えっと……。そこまで気に触ることしたかしら?」


 首を傾げながら、ベッドの掛け布団をめくって、その中に入り込む。


「上から目線で褒めたのがいけなかった?」


 その日は、なかなか寝付くことができなくて、寝返りばかり打っているうちに、朝が来てしまった。

 



物語時間明日のアルベールをお楽しみに(〃ω〃)


下の☆を押しての評価やブクマいただけると創作意欲につながります。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
いつも作品をご覧いただきありがとうございます。 たぶん、この作品が好きな方は、こちらもお好きだと思います。 ぜひ、↓のリンクから一読いただけると、うれしいです。 『飼い犬(?)を愛でたところ、塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。』
― 新着の感想 ―
[良い点] 水筒を差し出すミラベルとアルベール様をスクショ♪ 普通に会話していた二人がレアですね(^◇^;) 「え?」が誤差範囲のところで、吹き出しそうになりました^_^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ