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『は』としか言わない騎士と私 3



 ***


 アルベール・リヒターは、辺境伯領で、その優秀さと並んで寡黙な騎士として有名だ。

 騎士団では、最低限の会話をきちんとこなし、令嬢たちに話しかけられれば、最低限の返答をするらしい。


 もちろん、騎士としての挨拶だって、完璧だと噂で聞いたことがある。


『王立騎士団、アルベール・リヒター、この剣に誓いミラベル様をお守りいたします』

『まあ…………』


 もちろん、先ほどの会話は、私の妄想だ。

 私は、彼がまともに会話をしているのを、聞いたことがない。嫌われている。


「アルベール、少し街に視察に行くわ」

「……は」


 そう伝えると、本当に表情筋が心配になってしまうくらい無表情にアルベールが返事をした。

 確かに、多くを語る護衛騎士は嫌われるかもしれない。

 だから、辺境伯令嬢とその護衛騎士として最低限の会話は、これで成り立っていると言えよう。


 ――――え? 本当に?


 馬車に乗り込もうとすれば、当たり前のように私に手が添えられ、羽のように体重が軽くなったのかな? と思うくらい軽やかに馬車に乗り込むことが出来た。

 絶妙の力加減だ。やはり、マスター級の騎士は違う。

 護衛としての腕だけでなく、完璧すぎるエスコート。アルベールは、騎士の中の騎士なのだろう。


 今日は、苦しいコルセットもつけず、街によくいる女の子のようなファッションに身を包んでいる。

 流行を取り入れている、最近は海のような青い色が流行っているらしい。

 私も、袖に控えめに飾られたリボンに、青色を取り入れた。


「あ…………。きれいな髪留め!」


 街中で私が目を止めたのは、露店に並ぶ髪留めだった。

 もちろん、辺境伯令嬢が身に着けるような代物ではないことは理解している。

 でも、そのうちの一つは、アルベールの瞳の色をしたガラスのビジューがついていて、とても心惹かれる。


「お嬢ちゃん。彼氏とデートかい?」

「えっ、あの」


(そんな風に見えるのかな?!)


「…………は?」


(…………ですよね~)


 たしかに、街を歩いていても違和感のないように、最近街で流行っているワンピースに身を包んだ私は、庶民に見えることだろう。

 だから、そんな氷点下の瞳を、露店のご主人に向けてはいけません。アルベール……。


「…………」

「アルベール?」


 固まってしまったご主人を一瞥し、言葉を発することもないまま、私の袖口に飾られたリボンを目にしたアルベールが手にしたのは、たった今見つめていた青いビジューが付いた髪留めだった。

 その髪留めをつまんで、しげしげと袖口のリボンと見比べた後に、値札に書かれた値段にいくぶんか色を付けて、料金を支払ったアルベール。


 誰かにプレゼントするのだろうか? なんて、ぼんやり眺めていたら、なぜかその直後、私の髪の毛には、その髪飾りが飾られていた。


「えっ、どうして私が欲しい髪飾りがわかったの?」

「っ、…………」


 アルベールから、返答はなかった。

 けれど、なぜか私の瞳を真っすぐに見つめる、髪留めのビジューと同じ色をした瞳は、いつもよりも温かさをたたえているように私には思えた。


 なぜだろう。今日は、アルベールが異常にかわいく見えるのは。

 みなさーん! 私の騎士が、かわいすぎますよ!


「アルベール。うれしい! 素敵な髪留め、ありがとうございます」


 その瞬間、なぜかアルベールは大きく目を見開いた。

 その瞳を縁どる淡い金色のまつ毛が、思ったよりも長いことに私が気がついた瞬間、その瞳はいつも以上に氷点下になったような気がした。


「あの、アルベール?」

「…………は?」


 あ、やっぱり嫌われているらしい。

 冷たい瞳に、射すくめられてしまったかのように、私の心臓は時を止めたのだった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです(^ω^)

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いつも作品をご覧いただきありがとうございます。 たぶん、この作品が好きな方は、こちらもお好きだと思います。 ぜひ、↓のリンクから一読いただけると、うれしいです。 『飼い犬(?)を愛でたところ、塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。』
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