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動物たち


そう言ってリンは歩き出すも、辺りには何も見当たらない。

荒野のような開けた場所であることだけは確かだが、目印になるようなものは何も見えない。

そもそも夜で暗いせいもある。

今、自分が荒野のような場所に居る。

そのことだって、星明かりによってぎりぎり分かる程度で、まさに一寸先は闇状態。

それでもリンは凛として歩みを止めない。

おいおい、ここって知らない場所じゃなかったのかよ?

だが立ち止まって距離を離されてしまえば、リンの姿をすぐにでも見失いかねない。


「なぁ、ちょっと待ってくれ!」


俺は駆けてリンの背中に声をかけ、彼女はすぐに立ち止まった。

それから俺のことを一瞥し、再び歩き出す。


「これからどうする気なんだ?」


俺はリンに追いつき、横に並ぶと早速質問した。


「とりあえず町……村でもいいわ。向かいましょう」


「向かいましょうって……こんな夜じゃろくに見えもしないし――」


「大丈夫よ。もう村は見つかったから」


「はっ? 何処に?」


「この先。少し歩くけどね」


「……もしかして見えるのか?」


「ええ。ちょっとした魔法の応用だけどね」


マジか。

先って言ったって、俺には暗闇しか見えないけどな。

けど、よほど夜目が効くというより魔法といわれたほうがこちらとしてもしっくりくる。

さっきの転移魔法を見せられていれば尚更だ。

ここは彼女に従って歩くしかないだろう。

……にしても今日はよく歩くな。

こんなに歩くなんていつ以来だろうか? 

あ、でも最近でもあったな。

あれは確か先週の日曜だ。

かのこの買い物に付き合わされて、それで散々歩いたんだった。

……荷物持ちとして。

もしこれが現実だったとして――

そうだったら、かのこは今頃どうしてるんだろう?

……いやいや、とっくに学校が終わって、今は寝てると考えるのが妥当だろう。

そして俺は行方不明扱いにでもなってるのかな?

まあ、それもこれも、これが現実だったらの話だけど――

俺は自分で自分の足を思い切り踏んでみた。

……痛い。でも見慣れた天井が視界に映ることはなかった。


「……はぁ」


「ん? どうかした?」


「いや、なんでも――」


なんでもない。そんな訳ないが、かといってここで不満をぶちまけたところでどうにもならないことぐらい、俺にも既に分かっていた。


「あ、なあリン、この世界って眠るためにはそのための犠牲、睡眠物が必要なんだろ?」


「……今更どうしたの?」


「いや、寝ることに代価が必要っていうなら、寝てばかりいる動物……猫とか、生きていけるのか?」


「寝てばっかりの動物……?」


リンは足を止めて首をかしげた。


「そんな動物、いないわよ」


「えっ? 居ないのか!?」


「ええ」


彼女はさも当然のことにように答える。


「で、でも動物だって普通に眠りはするだろ?」


「当然、そうね」


「じゃあそいつらはどうしてるんだよ?」


「あのねぇ、あんたの元居た世界だって、動物は食事をするでしょ?」


「え? あ、ああ。そりゃそうだ」


「前にも言ったように、この世界の睡眠は食事みたいなものとも言えるの。それで、あなたの世界の動物は食事をするときにどうするの?」


「そりゃあ……獲物を捕まえて食べるだろうな」


「だったら、この世界だってそれは同じ。そして、睡眠物も一緒ってこと」


「……獲物を捕まえて、そいつを睡眠物にして眠るってことか?」


「そういうこと。獲物を捕まえて食べるように、睡眠物を捕まえて眠るのよ」


「なるほど……って、じゃあこの状況って、結構やばいんじゃないのか!?」


「あら、どうしてそう思うの?」


「だって今は夜だろ? それにこの場所……見通しいいし、獣に襲われる可能性が高いんじゃないのか!?」


「えっ……」


リンは目を見開いて、驚いたような表情を見せる。

それから下を向くと声を上げて笑い出した。


「なっ!? 何がそんなに可笑しいんだよ!?」


「ううん、ごめんなさい。笑ったことには謝るわ。でも、べつにケイタのことを笑ったわけじゃないの」


「はあ……?」


「……そうね。ケイタのそうした思いも尤もよ。けど大丈夫。襲われることはないと思う」


「どうして!?」


「それにはいくつか理由があるけど、一番手っ取り早い理由としては――」


彼女は右を向くと、少し先の地面を指差した。

そこに何があるのか、目を凝らしてもよく見えない。

六歩、七歩。近づいて確かめるとそこには動物の死体がある。

既に白骨化していて、その傍にも同じように白骨化した動物の死体があった。


「おそらく、一緒に死んだのね」


いつの間にか隣に来ていたリンが呟く。


「あなたの世界は本当に幸せなのよ、眠るときに何もいらないっていうのが本当ならね」


「…………」


俺は何も言い返せなかった。


「眠るときにも他の生命が必要だし、もちろん、食べなきゃだって生きていけない。つまり、多く必要なのよ。この世界で生きるのには多くの犠牲がね」


俺はリンの求める答えを口に出したかったが、それをするのにはまだ情報が全然足りてなかった。

この世界に俺はまだ新参者で、この世界について全然ものを知らず、何も知らないのに等しかった。


「この世界はね、もう死にかけているのよ」


リンは淡々と、何の感情も込めず俺の隣でそう言った。

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