夢の中だったら
俺は振り返ると大きく前に出る。
「おい、お前ら! 俺が相手だ!」
既に橋の方から迫る兵士はすぐ先にまで来ていた。
こいつらに対して大見得を切ると、俺はさらに前へ出た。
「なっ!? あんた、何を言ってるのよ!?」
すぐにリンが驚いたように声をかけてくるが、俺の自信に揺ぎは無い。
「大丈夫だ。ここは俺に任せろ!」
どうせこれは俺の夢の中だ。
なら、俺の思い込み次第でいくらでも強くなれるはず。
それに夢なんだから別に死ぬわけでもない。
だったら何を恐れる必要がある?
俺はさらに一歩前に出る。
甲冑を着た兵士たちは剣を構えているが、俺のこうした行動に威圧されたのか足を止めている。
よし、ここでひとつリンに良いところでも見せるとするか!
そうと決まれば一番前にいる兵士へ突撃を――
「馬鹿っ!」
……えっ?
リンの怒号のような声が俺の耳を劈いた。
構わず俺は兵士に突撃し、相手は剣を振り上げ、それを俺は躱そうとして――
そのときから目に映る光景がスローモーションのように見えた。
「……!!! んぁああああああああっ!!!!」
兵士の振り下ろした一撃を躱すのは無理だった。
だから俺は受け止めようと右腕を構え、肘の辺りに当たった。
夢の中であろうと俺の腕は鉄のように硬くはならなかった。
肘から先が消えた。
俺の目の前から。
それは俺の足元にあった。
右手はなくなり、肘から先の感覚も一緒に消えた。
俺の右手は足元に転がった。
……痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
「ううっ、ああああああああっ!!!」
これは夢じゃないのか?
夢なんだろ? なあ!
なのに……なのに……
どうしてこんなに痛いんだよ!!!!
血は止め処なく流れ、服は真っ赤に染まり、激痛に顔がひきつりながらも目は覚めない。
……ああ! くそっ!! 夢なのにどうして……!?
「馬鹿っ!!」
リンの怒鳴るような声が再び耳についた。
そのとき、俺の頭上から何かが落ちてきた。
上?
俺は気がついたら座り込んでいた。
頭上から目の前に落ちてきたのは小さな玉で、ビー玉みたいに見えた。
玉は地面に落ちると転がることもなく光り、他人のものみたいになった俺の手の近くで消えた。
そして――
「王の命ゆえに――」
甲冑を着た兵士が一人、喋っている。
…………は?
その兵士の後ろには門が見える。
いつの間にか俺は立ち上がっていた。
右腕に違和感が……いや、それは違和感じゃない……。
俺は見るよりも先に動かしてみた。
すると動いたのだ。感覚が……右手がある!!
俺は自分の右手を見た。
そこには確かに腕があって、手があった。
俺の右手は地面になんか落ちていなかった!
……でもこれはいったい――
「最後にもう一度だけ聞くけど、そこを通す気はないのね?」
傍にはリンが立っていて、今しがた喋っていた兵士に声をかける。
兵士たちもこの状況に戸惑っているみたいで落ち着きがない。
「……そう」
返答がないことを返答と受け取ったように呟き、リンは手を伸ばすと俺の手をまた握った。
……えっ?
今度は動揺する間もなく光に包まれ、兵士の一人がハッとしたように俺たちの方に向かってくるのが見えて――
「さようなら」
リンの冷めた声を最後に、兵士たちの姿が消えた。