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目覚め


コケコッコー!


……。


コケコッコー!

コケコッコー!


……おいおい、マジかよ……。

こんな住宅街に、どうして鶏の鳴き声が……?

それもこんな朝っぱらから……。

何処かの養鶏場から逃げ出しでもしたのか?

どうでもいいけど朝から勘弁してくれよ……


…………。



ガタンッ――


そうした物音が階下から微かに聞こえたものの、俺の意識はまだまどろんでいた。

まだ眠いのだ。もっと寝てたい。だから――


ドタドタドタと階段を駆け上がる足音。

音は近づいてくるが、俺の意識は再び遠のきそうだった。

そう、また夢の中へと――


バタンッ! といった騒音と共に部屋のドアが勢いよく開け放たれ、俺は顔を布団に隠す。


「ちょっと駄目だよ~もう起きなきゃだよ~」


ゆさゆさと体を揺さぶられる。

次に布団を剥がされ、嫌々ながら目を開ける。


「……ん? ああ、かのこか……おやすみ」


「って、ケイちゃん!! また寝ようとしちゃダメだって!!」


「俺はまだ眠いんだ。頼むから寝かして――」


「もー! ほんとに遅刻するよ!!」


「べつに遅刻してもいいし……だから寝る……」


「もう、ほんとに知らないよ?」


「……うん。いいよ」


「はぁ、じゃあ私さきに行くよ?」


「……ああ」


「学校にはちゃんと来てよ。だって今日は――」


「……んっ?」


「……さき、行ってるからね」


それだけ言うと、かのこは俺の部屋から出て行ってしまった。

俺の意識は再び遠のいていき、すぐに夢の中へと導かれていった。




……………………

……………………

……どれぐらい眠っただろうか?

とにかく、よく寝た気がする。

そろそろ起きようと目を開けると――


……あれ?


目の前には……木。それに草むら。

は? 何これ? は? どういうことだ?

頭はまだぼんやりとしていて、これも夢か? とつい思う。

ただ起き上がろうと右手を下に着けたとき「痛っ」と思わず声が出た。

手のひらの下にはちょっと鋭利な小石。血こそ出てないが鋭い痛みがあった。

この痛み……本当に夢なのか?

試しに頬でもつねってみようかと試す前には、背中が痛いことに気付いて上半身を起こす。それからベッドを確認しようと視線を落とすもそこには大地のみ。


「これ……どう見ても外だよな?」


起き上がって回りの様子を確認すると確信した。

どうやら俺は森の中に居るらしい。それも地べたで寝ていたようだ。


「……夢だな。これは」


そう確信するのも無理はない。だって、森だぞ!? なんで土の上で寝てる!?

こんな状況、夢以外に考えられない。

だから目を覚まそうと体を動かしてみたが……無理だった。

目は覚めない。

……ん~、どうしよう……。

流石に遅刻は確定だろうけど、あまり遅くなるのもなぁ。

悠長に夢の中で過ごして、起きたら昼前。

そんな状況は勘弁してほしい。

昼登校はいくらなんでも遅くなりすぎだし、それでクラスのやつにからかわれるのも面倒だ。

いい加減、起きないと――


「ねえ、ちょっと」


背後から声をかけられ、ハッとして振り返る。

そこには黒の、ドレスっぽい服を着た赤髪の少女が立っていた。少女、といっても同い年ぐらいに見える彼女のドレスは丈が短く、脚線美が否が応でも目に付いた。


「妙なことを聞くみたいだけど――」


少女は俺から目を逸らしながら言葉を続ける。


「あなたの睡眠物はどこにあるの?」


今度は俺の目をじっと覗き込むように見つめて聞いてくるが、何のことか分からない。


「はっ? すいみんぶつ……?」


この子は何を言っているんだ?

わけが分からず答えられずにいると、少女の表情は和らいでいく。しかしそれを”笑顔”と呼ぶには、あまりに禍々しかった。


「ふざけるのはいいですから、で、どこにあるんですか?」


「……ごめん、何を言っているのかよくわからない」


「本気で言ってます?」


「本気だけど」


「……えぇ」


少女は眉をひそめ、困惑した様子を見せる。

次に腕を組むと、見定めるように俺のことをじぃーっと見つめてくる。

その視線は足元からゆっくり上がっていき、頭のところまできて目が合うと数秒間見つめ合う。

思わず俺の方から視線を下に逸らすと、距離を詰めてくるのが目に入る。

手前にまで接近してくるので顔を上げれば、間近で対面。

身長は俺より少し低い。強制的にも顔をまじまじと見る状況になり……美人だ。整った顔立ちは「ハーフ?」と自然に思ってしまったほど。そんなことを考えていたとき、


「あなた、正気なの!?」


少女は蔑むように目を細め、怒鳴りつけるように言ってくる。

俺はわけが分からない。

思わず一歩退き、答えられずにいると少女は苛立ちを掲示するみたいに右手を額に当てて人差し指を何度もタップする。


「じゃあ睡眠物もなしに眠ってたってこと!?」


少女は怒りの篭った声で聞いてくる。

どうやら俺は大変怒られているらしいが、全くわけが分からないので理不尽だ。

そう、まさに理不尽だった。まあ夢というのはそういうものなのかもしれないが。

もうそろそろ起きてもいいんじゃないかと思うも、一向に目は覚めそうにない。

この夢の中の世界と現実の世界の時間経過が一緒じゃないことを願いつつ、仕方がないのでこの場をどうしようかとも考えた。

……。


「なあ、さっき言ってた”すいみんぶつ”って何のこと?」


嫌々ながらまだこの世界に付き合う必要があるみたいだし、それなら少しは夢を楽しんでも罰は当たらないだろう。

……多分。

だから、さっきこの子が言っていた謎の単語について聞いてみることにした。

それのせいで怒られたみたいだし。


「……!!」


少女は唖然としたようにポカンと口を開ける。

そのあと再び腕組みをすると下に目を逸らしてブツブツ呟き、何やら考え事をしているようだった。

今度は腕組みした右手の人差し指が、何度も二の腕をタップするのが目についた。


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