93話 旅の準備
俺が村を去ることを告白してからというもの、これまでの生活を続けながらも、旅に向けて様々な準備を行うことにした。
まず始めにしたことは、ルーニーが町に帰る際の同伴の許可を得ることである。これはルーニーから快諾してもらえた。
本人が言うには、ギルド職員に口添えするくらいならパピルナ草を譲ってもらった礼にすらならないそうだ。「万が一断られたときは、まあ私に任せたまえ……」と自信ありげに口元を歪めていたけど、きっと薬で買収するか、しつこくつきまとうつもりなんだろうなあ……。
先日の護衛の報酬であるスタミナポーションのレシピも、この日紙に書いてもらった。まあ俺は文字が読めないので、後からクリシアに読んでもらったんだけどね。
材料はそれほど希少なものではないようなので、いつか作ってみたいと思う。
ちなみにこの件が発端となり、旅に出るまでの間クリシアが俺に文字を教えてくれることになった。
二人とも空いている時間は夜なので、毎夜客室の机で隣り合わせになりながら文字を教えてもらうことになる。クリシア先生は妙に体を寄せてきたので、体が青少年の俺としてはあまり集中ができなかったりもしたが、それでも簡単な読み書き程度ならできるようになった。
まだお子様レベルとはいえ、短い期間にしてはよくやったと思う。もちろんクリシア先生の教え方が良かったんだろうが、転移の際に体をいじられた結果、話すだけなら言語が理解できるということも、読み書きを覚えることに一役買ったのかもしれない。
その間、魔物狩りを続けながらも診療所にも通い、サジマの爺さんや診療所の常連さんに別れを告げたりしていた。
すると俺が村を去るという情報が伝わったのだろう、今まで会ったことがなかった村長がわざわざ診療所に訪れたのだ。
村長は俺の治療や腕っぷしをこの村のために生かさないかと説得に来たようで、ウチの孫を嫁にしてもいいとまで言ってきた。もちろん断ったけど。
ちなみに後でサジマ爺さんに聞いたところ、村長の孫で今フリーなのは出戻りの四十歳のレディだけとのことだった。変に興味を持ったらきっと無理やりにでも縁談を組まれていたぞいとのことなので、ハッキリ断って本当に良かったと思う。
そんな村長との会話は施術をしながら行ったのだが、村長は有用なスキルを持っていた。【気配感知】である。
名前のまま、周囲の気配を感知することができるスキルだそうで、俺はすぐにスキルをゲット。するとその直後にスキルコンボも発生し、俺は【空間感知】を覚えた。
消費スキルポイントは100☆と結構お高い。ヤクモが言うにはその分性能もいいそうで、これがあれば周辺の感知をこれまで以上の精度で行えるようになるらしい。
さっそく試してみたところ、これまでは聴覚感知で頼っていたぼんやりとした辺りの索敵や感知が、やたら鮮明に感じることができるようになっていた。まるで頭の中に索敵レーダーが生えたような気分だ。
スキルコンボで覚えるものは壁抜けやイーグルショットのように、かなり常識から外れたようなスキルばかりだが、これもその類らしい。旅に出る前に良いものを覚えることができたと思う。
そんな日々を過ごしながら二週間ほどが過ぎた。俺の現在の状態はこのような感じだ。
習得スキル一覧
《身体技能》
【弓術】【イーグルショット】【棒術】
《精神技能》
【ヒール+1】【キュア】
《特殊技能》
【縄抜け】【夜目】【壁抜け+1】【粘り腰】【指圧】【遠目】【聴覚感知】【解体】【料理】【薬師】【危険感知】【気配感知】【空間感知】
所持金は19万5270Gで、スキルポイントは671☆。
魔物狩り初日で散財した分をリカバーしてさらに上乗せをすることができたが、ホーンラビットの買い取りは一匹あたり半額の1500Gになったところで買い取り中止になってしまった。
余ったホーンラビットは山のようにストレージには眠っている。冒険者ギルドで買い取りができるそうなので、これを当面の生活費にする予定だ。
そうして着々と旅の準備を始め、二週間ほど経ったある日。ついに冒険者ギルドから職員がやってきたのだった。




