3話 若返り
ぺたぺたと自分の顔を触る。泉に映ったヤングマンもぺたぺたと顔を触っている。うん、俺だね。高校生くらいの俺の顔だ。
まあお腹が減っこんだり、斜面を降りても全然膝にこないし、まるで若返ったようだななんて思ってはいたけれど、本当に若返ってるんかい。
俺を拉致した変質者は、俺を全裸にして全身アンチエイジング手術をして、それから山奥に放置したってか? 頭がおかしいにもほどがあるだろう。そこにヤツはどういう悦びを見い出すんだよ。
……実はそれとは別に、後もうひとつくらい考えられる理由もあることはあるが……。
あー、もうワケがわからん! 考えたところで答えは出ないし、深く考えるのはやめよう。はい、やめた!
俺は大きく息を吐きながら、泉のほとりにどっしりと腰を下ろした。芝生が生尻をチクチク刺激する。ちょっと気持ちいい。
それにしても……喉の乾きは収まったが、さすがにかなり疲れた。
裸足で歩き続けたせいで足の裏がもうズタボロだし、水を飲みすぎて腹の中はタプタプだ。このまましばらく休憩しようか。
俺はそのまま芝生にごろりと背中を預け、森にぽっかりと開いた空を眺めた。雲ひとつ無いきれいな青空だ。
まだ昼くらいだろうか。こんな状況じゃなければ、景色を楽しむこともできるんだけどなあ……。
はあ……。横になると余計に疲れを感じるな。もうしばらくは動きたくない。絶対に動きたくないでござる。
せめてスマホでもあれば、ここにいながら助けが呼べるんだけどな。森の中の泉なんて、上空からの捜索ヘリコプターからすればすごく目立つ目印になるだろう。森の中だけにスマホの電波は届いてるかどうかは微妙なもんだけどな。
空を眺めながらこれまでの行動を思い返す。そういやスマホでフリマアプリを見ていた時に、急に意識が遠のいたんだったっけ。あれって一体――
――ピッ
「えっ!?」
そんな電子音と共に、仰向けの俺の前に現れたのは、半透明のモニターだった。
パソコンのディスプレイをそのまま切り取ったような物が宙に浮いている。
その画面には『フリーマーケット ツクモガミ』と表示されていた。そんな名前のフリマサイトはテレビやネットで見たことも聞いたことはない。
というか、なんだこれ!? VR? VRゴーグルなんて付けてないけど!? 俺はエイジングケアだけに飽き足らず、VR機能を眼球にでも埋め込まれたのか?
自分の顔やら頭やらを触ってみるが、手術跡なんてまるでわからない。そして目の前にはフリマサイトの映像が表示されているままだ。
これってどうしたらいいんだろう。……いや、やることなんてひとつだけだ。とりあえず触ってみるしかない。
俺はごくりと唾を飲み込み、中央に表示されているENTERボタンに指でそっと触れてみた。触った感覚はまるで感じないが、フッと画面が切り替わる。
「こいつ……動くぞ!」
なんだか声に出して言いたくなった。こんな状況だが、案外俺にはまだ余裕があるのかもしれない。