第七話、ゲッカビジン
戦闘艇の採用試験なら、クルック君が正解。
「ファラクを後ろに乗せて飛べ~」
メルル―テが、命令を出した。
”イザナミ”のパイロット選考が始まった。
ファラクは、”イザナミ”の船巫女である。
当然、副操縦席に乗ることになる。
だが彼女はまだまだ、飛行には慣れていなかった。
”シラフル”湖のほとりに、二機の”ゲッカビジン”が並んで浮かんでいる。
一機は、イオリ、もう一機は、クルックが使う。
「俺が先だ~、とっとと乗れー」
クルックがコックピットに向かう。
「ちょっと~、大丈夫なの~」
飛行服を着たファラクが、不安気について行った。
「俺の後ろに乗れるのを光栄に思えっ」
「はああ?」
ファラクが後席に乗り込む。
ドオオオオン
クルックは、急発進、急加速、急上昇、激しい空中戦闘機動(ACM)までした。
「これでどうだっ」
俺の腕をみろー
「あいつはアフォなのか?」
イナバがメルル―テに振り返った。
”イザナミ”という機体名までファラクが決めた。
砂漠に古くから伝わる女神の名前らしい。
「選ぶのは、ファラクなのにね~」
メルル―テが小首をかしげた。
「”ゲッカビジン”のフライ・バイ・ワイヤーは繊細なんだぞおお」
「乙女の柔肌を触るように、慎重に、丁寧に操縦しろおお」
イオリだ。
そこは、ファラクの心配をしようよ~(しろよお)
メルル―テとイナバは、心の中で盛大に突っ込んだ。
降りてきたファラクはそのままトイレに駆け込んだ。
機内で吐くという、乙女の尊厳は何とか守ったようだ。
「大丈夫~」
メルル―テがファラクを気づかった。
顔色が青い。
「な、何とか大丈夫」
「無理しちゃだめよ~」
「……いけるのか?」
イオリが声をかける。
「い、逝きます」
「……そうか……」
イオリは、手を出してファラクが乗り込むのを手伝った。
「まあっ」
飛行艇を介すると、限りなく紳士になるイオリである。
操縦はクルックと対照的だった。
緩やかな発進に、穏やかな加速、優しい上昇。
ロイヤルサル~ンという感じだ。
「あら~、イオリも隅に置けないわね~」
メルル―テが空を見上げている。
「う~ん、クルックもイオリも飛行艇に乗ったら、性格が変わりすぎないか?」
特に、イオリ
「はっ、女々しい操縦だなっ」
クルックが、ふんぞり返っていた。
”シラフル湖”は最近、観光地化している。
イオリは、シラフル湖の岸辺をくるりと回った。
領都”シルン”の上空や、北東の湿原地帯。
湖面ギリギリを飛んで、水面に白い線を描いたりした。
「すごい、すごい」
「きれいね~~」
ファラクは、吐いたことを忘れて、はしゃいでいる。
大きく円を描いた緩やかなループ(宙返り)。
「わああああああ」
「どうだ、飛行艇は最高だろうっ」
イオリがファラクに振り返る。
「うんっっ」
イオリは満足気に笑った。
彼は、ファラクの飛行艇のひどい記憶を塗りかえた。
彼なりの意地を見せたのだ。
当然、この試験はイオリの圧勝だった。
「な、なぜだっっ」
クルックが愕然としている。
「あ~、少し反省した方がいいんじゃないかな?」
イナバが言いにくそうにしていた。
◆
ファラクは、クルックの粗い操縦のせいとはいえ、吐いてしまったことを反省していた。
飛行艇のパイロットの訓練をすることにした。
朝の六時だ。
「おはようっ。 イオリっ」
「…ああ…」
朝の走り込みだ。
イオリは、毎日走っている。
格納庫のこもっていても、訓練の時だけは出て来ていた。
「行こうっ」
二人で走り始める。
色々なことを話しながら走った。
ファラクが一方的に話している場合が多かったが。
走り終わった後、朝食を一緒に取った。
「……早朝デートか……」
周りから暖かい目で見られていることを、二人は気づいていない。




