第六十三話、コアールヴ
「窓のシャッターを下ろせ」
ローズヒップが指示を出した。
キャラバン船の前には、吹き荒れた砂漠が広がっている。
砂の動きも激しい。
“竜砂帯‘だ。
潜砂艦”アマテラス“は、艦橋深度で先行している。
「全速前進、アマテラスを見失うんじゃないよ」
ローズヒップは、方向支持器を見ながら言った。
矢印の先にアマテラスがいるはずである。
ゴオオオオウ
”竜嵐“はないものの、天候は荒れていた。
「余り揺れないね」
ファラクが窓の外を見ながら言った。
窓の外は吹き荒れる砂で真っ暗だ。
キャラバン船は、砂嵐に強いタタラバ製の大型船だ。
アマテラスの1.5倍の大きさがある。
「全然問題なさそうだなあ」
イオリが、固定された二機の飛行艇を見ながら言う。
ペイロードに余裕のある、キャラバン船に載せられているのだ。
しばらくした後、無事二隻は”竜砂帯“を越えた。
サラル砂漠に到達する。
「おお、抜けた、抜けた」
穏やかになった砂漠を見て、ローズヒップがホッとしたような声を出す。
アマテラスも隣に浮上していた。
二隻並んで、夜まで進む。
夜は、錨を下ろしてその場で停泊した。
◆
ズズズズズ
翌朝、砂漠に響く振動で二隻のクルーは目覚めた。
巨大な城塞都市が、砂煙を上げながら近づいてくる。
『こちら、砂上都市、タルフィーヤです』
『調査隊の皆さまですね』
『お迎えに上がりました』
「す、すごいね、本当に都市が動いてる」
ローズヒップが目を丸くしていた。
二隻は”タルフィーヤ“に入港し補給を受ける。
エルザード達は、太守である”マルク“に会う。
『すまないね、アールクもティオナも王都に行っているんだ』
『いえ、王都に寄りますから会えると思います』
『近々、アールクの戴冠式があると思う』
アールクが王位を継ぐのだ。
『同時にティオナと結婚式も行われると思うので、是非出席して欲しい』
『一年くらいは、滞在する予定なので出来れば、出席させて戴きます』
エルザードが答えた。
補給を終えた次の日、王都”エンドラ“にむけ、二隻は出発した。
◆
二隻は北上する。
途中で、”砂漠イルカ“の群れに遭遇した。
砂漠、特に”深砂“に適応したイルカである。
サラル砂漠の砂は、竜砂帯の砂嵐に砕かれ、パウダー状である。
砂漠イルカが、アマテラスやキャラバン船の周りを遊ぶように泳いだ。
「船足を落とそうか」
エルザードが無線でローズヒップに伝える。
「いいねっ」
「手の空いてるものは外を見なあ」
二隻は、スピードを落としイルカ達と並走した。
イルカの群れが離れていく頃、前方に巨大な門が見えてきた。
砂漠の中央を南北に分ける岩礁地帯の、通行門である。
”竜腹門“だ。
二年前は、岩礁地帯を飛び越えたが、今門は全開になっている。
『連絡は届いています』
『竜腹門へようこそ』
『どうぞ、通過してください』
関所から水晶通信が来た。
『ありがとう、通過します』
一隻ずつ通過する。
「すんなり通れたなあ」
二年前は大変だった。
王都“エンドラ”まであと少しである。
◆
「前方から双胴船が接近」
「月影です」
ティオナの水晶船だ。
『お久しぶりです』
月影の甲板からティオナとカーリーが手を振る。
『王都まで先導します』
『わかりました、お願いします』
王都も砂上都市だ。
砂の上を移動する。
しばらくついていくと王都が見えてきた。
改めてじっくり見ると他の砂上都市の二倍くらいの大きさがあった。
二隻が王都に入港する。
前回、兵を押し退けて入った港に、歓迎の音楽隊がいた。
『こちらです』
ティオナ達に王の間まで案内される。
「お久しぶりです」
すっかり王族ぽくなったアールクが王座の横に立っていた。
『皆は元気だったかな』
イグラッドが横に並ぶ。
王座は誰も座っていない。
『王は隠居しているのだ』
イグラッドが複雑な表情で言った。
ガート宰相の跡を引き継いだ者と協力して、国を動かしている。
和やかに謁見は終わった。
◆
『砂水晶の採石場所?』
マリア女史が聞き返した。
『はい』
古アールヴの担当官が言った。
サラル砂漠を、東にずっと進むとモンジョ古王国と同じように、竜の台地に突き当たる。
その何処かから、砂の流れの乗って“砂水晶”が流れてくるそうだ。
概ね、南の岩礁地帯に流れ着くのだが、詳しくは不明である。
『安定して砂水晶が得られればと思います』
『確かに』
砂水晶があれば、魔術自体の扱いが変わる。
より使いやすくなる方に。
『キャプテンと話してみるよ』
エルザードと話した結果、このことを調査することに決まる。
もう一度、竜腹門を通り南に戻ることになった。
『調査に行ってきます』
『よろしくを願いします』
アールクが頭を下げた。
◆
二隻は、南に向け王都を出港した。
水先案内人として、カーリーとサーラが同行した。
『久しぶりだな』
カーリーが、海兵隊隊長のエルウッドに話かける。
二年前に知り合ってから、手紙でやりとりはしていた。
『ああ』
『しばらく、この国にいるんだろう』
『一年くらいはいると思う』
『そうかっ、また手合わせしてくれっ』
カーリーが嬉しそうに笑った。
『ふふ、こちらからも頼む』
エルウッドの声が少し弾んだ。
二隻が竜腹門を超える。
岩礁沿いに東に進路を取った。
『もう少し行った所にオアシス都市があります』
『そこで補給しましょう』
サーラが言った。
中規模のオアシス都市だ。
補給の挨拶をするために、オアシス都市の長にあった。
『東に行かれるのですか?』
『はい』
『そうですか、東に行きますと”紅の砂漠”という危険な場所があります』
『気をつけて行って下さい』
『紅の砂漠? 分かりました、ありがとうございます』
エルザードが頭を下げた。
『”紅の砂漠”とは?』
エルザードが案内人であるサーラに訊ねる。
『”紅の砂漠”には、細かな水晶が混じっています』
『細かな水晶は、剃刀の刃のようになっており、人が素肌のまま砂漠に落ちたり、砂嵐で水晶が巻き上げられたりすると血塗れになります』
『血で赤く染まるところから”紅の砂漠”と呼ばれているのです』
サーラの説明が終わった。
「物騒な話だなあ」
エルザードは、全隊員に周知徹底させた。




