第六十話、オウノマ
戦巫女。
対巨獣用戦闘員であり、身体強化の魔紋を素肌に宿した
踊り子である。
『い、戦巫女だああ』
『ふふふ』
カーリーは、円月輪を構えた。
円月輪は、対巨獣用兵装である。
対人では、オーバーキルになる。
デザートワームの首を、一撃で落とすのだ。
故に、エッジカバーをつけている。
それでもだ。
『うわああ』
受けた盾が粉々になる。
『む、無理っ』
鎧がひしゃげて身体ごと飛んだ。
『ひ、ひるむなあ』
円月輪は、大味な武器だ。
攻撃後のスキが大きい。
『詰めろっ』
円月輪の戻り際に、兵士が前にでる。
しかし、
「させないよ」
大柄な、異国の戦士だ。
カトラスとガントレットで、受けて、殴って、蹴って、投げた。
鮮やかな近接格闘術(cqc)を見せる。
『すまん、エルウッド』
「ふふっ」
海兵隊隊長であるエルウッドは、漢臭い笑みを返した。
『通してもらうぞ』
イグラットが言った。
港には、二十人近いガートの私兵が倒れていた。
港から王の間は広い廊下でつながっている。
外交や来客のもてなしの意味があるからだ。
エルザードたちは廊下に入った。
廊下には、三十人近い私兵がいた。
『これ以上は通さないっ』
『ほほう?』
イグラットが、ゆっくりと前に出た。
『剛将、イグラット さま』
子供でも知っている、大英雄だ。
『う、うわああ』
がむしゃらに若い兵士が飛び込んだ。
『そのこころいきや、よし』
イグラットは、片手剣の横腹で兵士を薙ぎ払う。
『行きなさい、触雷っ』
ティオナが、片手に三枚の、短冊を扇状に持つ。
素早く小筆で、紋章を書き入れた。
パリパリパリ
投げた先で電撃が起こる。
兵士が五人、麻痺して倒れた。
『南方一の達筆っ、フィオナ姫だあ』
しかしまだ、二十人近く残っている。
後ろからさらに十人ほど兵士が現れた。
謁見用の礼服姿のエルザードが、腰のサーベルを抜く。
海兵隊員が、アールクの周りを囲んだ。
『そこまでだ』
大きな声が響く。
廊下の奥に、イーサ将軍と、サーラ、複数の兵士が現れた。
『なぜ、近衛兵が?』
サーラは諜報員である。
王宮の隠し通路を使い、イーサ将軍に事情を説明しにいったのだ。
後ろの廊下に、王国兵が現れる。
イーサ将軍が、エルザード達をゆっくりと見回す。
エルザードが、そっとアールクの背を押した。
イグラットが、アールクの前で跪き、臣下の礼を取る。
ティオナとカーリーも続いた。
『アレクサンドラ王妃によく似ていらっしゃる』
『証を』
イーサ将軍だ。
アールクは、水晶を出し、ホログラフを投影する。
『確かに』
イーサ将軍がゆっくりと臣下の礼を取った。
周りのざわめきが止まる。
近衛兵が、王国兵が、戸惑うようにガートの私兵が、臣下の礼を取った。
『お、お前達っ』
『なにをしているっ』
ガート宰相が追いついてきた。
『ガート宰相、色々と聞かねばならんようですな』
イーサ将軍が、立ち上がりながら言った。
エルザードたちは、閉ざされた大きな扉の前にいる。
『この先が、王の間です』
案内してくれた近衛兵が言う。
バアアン
『しっかりせんかっ、娘婿どのっ』
イグラットが、扉を勢いよく開けて叫んだ。
真っ暗な王の間を、扉を開けてできた光が長く伸び、眩しく照らす。
王の手の上の、ホログラフをかき消した。
王が顔をあげる。
エルザードたちが、王の前の並んで跪いた。
ソフィアが王の目を塞ぐように立ちはだかる。
『下がりなさい、下郎』
しかし、王の無気力な目が一人の若者に止まる。
王が王座から身を乗り出した。
『そこをどけ』
『王さま』
ソフィアが悲しそうな顔で横によけた。
『かすかに、覚えております』
アールクが顔を上げた。
『ま、まさか』
パチリ
ソフィアから何かが砕ける音がした。
王の目に光が戻る。
『アールク、 なのか?』
『はい』
あとは言葉はいらなかった。




