第五十四話、サイカイ
潜砂艦”アマテラス”は、水晶船”月影を曳航している。
『あちらです』
しばらく砂漠を走る。
ティオナの誘導により、砂上都市、”タルフィーヤ”が見えてきた。
巨大な円形の土台の上に、城塞都市があった。
近くに、オアシス都市が見える。
『領内のオアシス都市を巡回しているのです』
ティオナが説明する。
都市が近づいて来た。
ティオナが、十センチくらいの砂水晶を取り出した。
水晶に指で紋章をかき、耳に当てる。
”紋章式水晶通信機”だ。
『こちら、ティオナです』
『こちら、”砂上都市、タルフィーヤ”入港管理部です』
『姫様、御無事でしたか』
『こちらの方々に助けてもらいました』
『立派な船ですね、話は聞いてます』
『正面、三番港に入港お願いします』
『”アマテラス”微速前進』
『三番港へ入港するぞ』
”アマテラス”が余裕で入港できる大きさだった。
◆
エルザードたちは、太守の館の応接室へ通された。
しばらく待つと、三十代後半の男性と、六十代の男性が部屋に入って来る。
『砂上都市”タルフィーヤ”の太守、”マルク・タルフィーヤ”です』
三十代の男性だ。
『前太守、”イグラット”だ』
六十代の男性である。
『アールヴ首長国連邦、特使、 ”エルザード・シャラーム・アールヴ” です』
エルザードが椅子から立ちながら言った。
『まずは娘の”ティオナ”を助けていただき、ありがとうございます』
マルクが頭を下げた。
ちなみに、アレクサンドラの兄に当たる。
『南の砂漠を越えてこられたとか』
『孫娘を、助けてくれてありがとう』
『通信で、話は聞いておる』
イグラットが、エルザードたちを見回した。
アールクを見つけた。
『……アールクか?』
アールクの祖父だ。
十年前に膝の上にのせたこともある。
『……はい……』
アールクは微かに覚えていた。
『アレクサンドラは?』
『南の国に流れ着いてすぐ……』
アールクが下を向く。
『そうか』
『良く生きていてくれた』
イグラットは、ギュッとアールクを抱きしめた。
◆
『とりあえず、この国の王と謁見したいのですが』
エルザードが言う。
今、武装艦で無断入国している状態だ。
『ふーむ』
『少し、事情がありましてな』
『十年前、ドゥアラ王は、アレクサンドラとアールクを目に入れても痛くないくらい、溺愛してましてな』
『二人が行方不明になってから、魂が抜けたようになっておるのだ』
『今、王はガート宰相の傀儡になっておる』
イグラットが、アールクを見る。
『しかし、最愛の息子であるアールクが戻ってきたら』
『目を覚ましてくれるかもしれん』
『曲者っ』
後ろに控えていた、召使のサーラだ。
大声と共に、チャクラムを天井に投げる。
誰かがいたようだ。
人が、逃げる音がした。
『御館様』
サーラが、イグラットに声を掛ける。
『ガートの手のものだろうな』
『見苦しい所をお見せした』
『父上、アールクのことがばれたのでは』
マルクが言った。
『ふーむ、エルザード殿』
『貴方の船は王都まで行かれますな?』
『そのつもりです』
『では、私も乗せて言ってくれませんかな』
『アールクと元将軍である私が、説得すれば王も目を覚ましてくれるかもしれない』
イグラットが頭を下げる。
『……わかりました、案内人として乗艦してください』
エルザードが許可した。
イグラットと、アールクの付き人として、ティオナ、カーリー、サーラが乗艦することになった。
◆
「これが、”紋章式水晶通信機”かい」
マリアが、ブリッジに新たに設置された装置を、見ながら言った。
これで、こちらの船と通信が可能だ。
「魔紋、いえ、紋章をつかったものだそうですよ」
イオリが、答える。
「砂水晶もすごいね」
装置の中身を確認する。
「お、砂水晶」
三十センチくらいのものだ。
「大きいですねえ」
カチャカチャ
『あのっ』
通信機を持って来た現地の人だ。
「?」
『あの、大丈夫なんですか』
半ば、ばらばらに分解された通信機を見ながら言った。
『あっ』
マリア女史が気まずそうな顔をする。
『あー、うん、大丈夫だと思うよ』
目をそらしながら言った。
イオリが黙って親指をあげた。




