第五十三話、アールク
潜砂艦“アマテラス”の会議室に移動した。
『アールヴ、 首長国連邦海軍、 潜砂艦”アマテラス”の、 艦長、エルザードです』
エルザードは、ゆっくりと古代アルヴ語で話す。
『助けてくれて、ありがとうございます』
『私の名前は、ティオナ』
『こちらが、カーリー』
チャクラムを持った女性が、頭を下げる。
『従者のサーラです』
船を操縦していた女性だ。
身長は、ティオナとあまり変わらない。
『この国の名前は、 ”水晶都市国家、アールヴ ” と言います』
『外国、しかも南の砂漠を越えてこられたと、見受けられます』
エルザードが、うなずく。
『一度、”水晶都市、タルフィーヤ”に来ていただけませんか」
『水晶都市、とは?』
マリア女史だ。
『はい、そうですね、巨大な水晶の力で、砂上を移動する都市です』
『すごい、アールクの言ったとおりだ』
マリアが隣に並んだ、アールクを見る。
『僕の記憶が正しくてよかったよ』
『小さかったから、うろ覚えだったんだ』
アールクが水晶を胸から取り出した。
癖なのだろう、手で握る。
『?』
ティオナが、とても驚いたような顔で、アールクと持っている水晶を見ている。
『アールク……さま?』
『ティオナ様。まさかっ』
カーリーも驚いている。
『失礼ですが、お母様の名前は”アレクサンドラ”様ですか?』
『!!、なぜそれを?』
手の平の水晶を握る。
『……こんなことが……』
フィオナが手を伸ばした。
『その水晶を貸してください』
『これですか?』
『母の形見です』
アールクが渡す。
『見ていてください』
フィオナが水晶に指で文字を書いた。
パアアアア
ホログラフだ。
男性と女性、6歳くらいの男の子が仲が良さそうに並んでいる。
『ドゥアラ王とアレクサンドラ王妃、そしてアールク王子です』
『なっ』
確かに幼い自分と母の姿だった。
『……あなたは、十年前に行方不明になった、この国の王子です』
フィオナが、膝まづきながら言った。
◆
「大きいな」
マリア女史だ。
白い双胴船”月影”に乗り移っている。
デザートワームに壊されたフィンの中身を見ていた。
金色の魔紋が描かれた砂水晶が、横向きにつけられている。
30センチくらいあった。
「送風の魔紋でしょうか?」
ファラクだ。
「そのようよ」
「そのようですね」
ワンダとワルダが言う。
「ん、私もそう思う」
フィッダだ。
取り合えず、船巫女を全員集めていた。
『うーん、送風の紋章だぜっ』
カーリーだ。
『 紋章? 』
ファラクが聞く。
なんとか、古代アルヴ語がわかる。
『しかし、紋章(魔紋)を乙女の肌や船に直接、描いてるなんてなあ』
カーリーが、”アマテラス”の船体を仰ぎ見た。
紋章は、砂水晶と、特殊な紙で作った短冊に、描き込むのが普通である。
逆に、カーリーの体に描かれた、”身体強化”の魔紋の方が異例である。
『このフィンで、起こした風の方向を決めているんですか?』
ベクターノズルのように。
『そうです』
後ろから声がする、
サーラと呼ばれた女性だ、
ゆったりとした砂漠の衣装。
この国の、召使の衣装だ。
『ここまで壊れたら、治りそうにないです』
「ふーむ」
イオリだ。
「根元から折れてるなあ」
「無理か?」
マリアだ。
「難しいと思う」
潜砂艦”アマテラス”が、”月影”を曳航(引っ張っていく)していくことになった。
◆
フィオナは、”水晶都市、タルフィーヤ”の太守の娘である。
『アールク様』
『は、はいっ』
アールクだ。
ほんの少し前まで、神社の息子だった。
いきなり王子と言われても戸惑いが大きい。
『覚えていませんか、私とアールク様は、婚約していたのですよ』
アールク6歳、ティオナ5歳の時だった。
何度か顔合わせしている。
『か、かすかに覚えています』
砂漠を越えた記憶が強烈過ぎて、ほとんど覚えていない。
『とりあえず、都市に行きましょう』
『おじいさまと話をするべきです』
タルフィーヤ先代太守は、アレクサンドラの父。
アールクの実の祖父に当たった。




