第四十九話、シンサ
「月読様、行ってきます」
アールクは、神社の前で手を合わせた。
褐色の肌と青い目、170センチくらいの身長だ。
胸元に、水晶の首飾りが見えた。
”熱砂“のほとりで助けられて、10年の月日が流れていた。
「もう行くのかい」
神社の神職の服を着た男性が、声を掛けた。
10年前、救出された時アールクは、神社の祝詞のような”古代アールヴ語“しか使えなかった。
翻訳がてら、神職と話している内に神社の養子として迎え入れたのだ。
今や、親子同然になっている。
「本当のお母さまにも挨拶していくんだよ」
男性と同じくらいの女性が声を掛ける。
神職の妻だ。
「はい、母上」
アールクは、本当の母親のお墓を参った。
彼は、六歳の時、砂漠の向こうから来た。
かすかに砂漠の向こうの光景を覚えている。
「体に気を付けるんだよ」
親代わりの二人は、墓参りを終え出て行こうとするアールクに声を掛ける。
「はい」
「父上、母上、行ってきます」
アールクが手を振った。
潜砂艦”アマテラス“の深砂漠調査に参加するために、王都”サーハリ“に向かった。
◆
モント沖海戦から、約一年経っていた。
色々と改修を終えた潜砂艦”アマテラス“は、王都”サーハリ“に来ていた。
「お久しぶりです」
クルックとフィッダが、エルザードの前に並んでいる。
アマテラスのブリッジだ。
「あら、クルックだわ」
「フィッダです、お姉さま」
ワルダとランダだ。
エルザードの膝の上に座っている。
「一年ぶりか?」
エルザードだ。
「はい」
クルックが、ブリッジの真ん中に新たに設置された、”三次元方向指示器“を見た。
二本の円形のフレームに支えられた矢印が、360度回るようになっている。
「イザナミとイザナギの”指示水晶“を預かってきました」
指示水晶の方を矢印が向くのだ。
潜砂艦”アマテラス“は、王都”サーハリ“で、アールクを乗せた後、”熱砂“に向かった。
◆
潜砂艦”アマテラス“は、”熱砂“のほとりの都市”サギリ“についた。
ここが、最後の補給地になる。
水や物資を補給した。
これから先は、白い砂が広がっている。
「熱砂って、こういうものよ」
ファラクが、白い砂にジャンプした。
ズボッという感じで膝まで埋まる。
「人によっては、”水砂“と呼ぶ人もいるわ」
「ゆっくりとなら、泳げるわよ」
「凄いなこれは」
イオリが砂を手ですくう。
小麦粉みたいだな
イオリは、白い砂から上がろうとしているファラクの手を取った。
潜砂艦”アマテラス“の補給が終わった。
「これより、”アマテラス“は”熱砂“に侵入する」
「最初は、西の海岸沿いを進んだ後、砂漠の奥へ向かうつもりだ」
「危険はいっぱいあるだろう」
「しかし砂漠の向こうには、素晴らしい何かが待っているはずだ」
エルザードが、艦内無線で言った。
「”アマテラス“、両舷全速前進っ」
白い砂に入った瞬間、まるで水の中に入ったように、一度沈んで浮かび上がった。
◆
”熱砂“に進入してしばらくたった。
クルックとフィッダは、飛行艇”イザナギ“で砂漠の上を飛んでいる。
砂漠に何かないか、空から探しているのだ。
「今の所、何も見えないな」
「うん」
“イザナギ”の目でも見えない。
「アマテラス、方向指示器は作動していますか?」
”イザナギ“は指示水晶を持っている。
「こちらアマテラス、正常に作動している」
「もう少し、北西に飛んで、着地してくれ」
ブリッジの矢印は、イザナギを指示しているだろう。
「こちら、イザナギ、了解」
もう夕方が近い。
危険な生物がいないかを確認して、砂漠に着陸した。
目印も何もない広大な砂漠である。
夜の星の位置と、指示水晶を持った”イザナギ“を目印に、砂漠の地図を作っていくのだ。
”アマテラス“が追いついてくるまで、ここで待つことになる。
”イザナギ“の可変翼を最大まで開いた。
翼の一部を開くと、簡単なテントになる。
二人は翼の上で寝ることになった。
ジュウウウ
フィッダが、簡易コンロの上にフライパンを置いてベーコンを焼いている。
缶詰のスープを開けた。
周りはすっかり暗くなってきた。
キャンドルランタンの光が揺れる。
「コーヒーもいる?」
「ありがとう、もらう」
降るような星空を見上げながら、クルックが答えた。
両翼に一つずつテントを作っていた。
二人で、パンと焼いたベーコンに缶詰のスープの夕食を食べた。
コーヒーから白い湯気が上がる。
「砂漠の夜は冷え込むから……」
フィッダが毛布をクルックに渡した。
「ありがとう」
静かないい夜だった。
次の日の昼前に、”アマテラス“が到着した。




