第四十八話、シンサバク
“ヤマタ河”を北に行くと“熱砂”が広がっている。
“熱砂”では、茶色い砂が白く変わりサラサラのパウダー状になった。
「あそこに人が」
白い砂と茶色い砂の境界線に、人が流れ着いていた。
見慣れない高貴な衣装を着た母親の腕の中には、六歳くらいの子供が抱きかかえられていた。
「子供はまだ息があるぞっ」
子供の手には、水晶の首飾りが握られていた。
水晶に、金色の模様がちらりと見える。
約十年前の話である。
◆
砂漠の上を、潜砂艦“アマテラス”が、飛んでいる。
潜砂艦“アマテラス”のベースは、飛行艦である。
後部に、魔術式ジェット二機、前後、縦方向に、姿勢制御用の小型ジェット四機が増設された。
船体の横に、流線型の気嚢(風船部分)が増設されている。
他にも、格納庫と水のタンクが増設されていた。
潜砂艦“アマテラス”の“アメノトリフネ”モードである。
時々姿勢を保つために、小型ジェットがふかされていた。
「とりあえず浮かんでいるだけじゃがのお」
ドワーフの整備士“ドワイト”が言った。
「ちょっとした岩山を乗り越える分には十分ですわ」
“マリア”女史だ。
二人は、並んで飛んでいる、飛行船“ベルゲムーン”の外部通路から見ていた。
“ベルゲムーン”は、収納式クレーンを装備した工作船だ。
アマテラスを改修するために、シルルート王国から呼び寄せたのである。
「ほかにも、砂漠用ソナーと、三次元方向指示器の調子も見んといかんのう」
「そうですねえ」
ドワイトと、マリアが見守る中、
「おおっとお」
“アマテラス”がバランスを崩し、横に一回転しかけていた。
「やはり、補助翼がいりますかねえ」
マリアが、のんびりと言った。
潜砂艦“アマテラス”の正式名称は、深砂漠調査用潜砂艦、“アマテラス”である。
モント沖海戦の後、本来の目的である“熱砂”の深い場所、“深砂漠”の調査の準備をしていた。
◆
「アールヴの民はね」
「“熱砂”の向こうから来たという、言い伝えがあるの」
ファラクが言った。
「へええ」
イオリだ。
飛行艇“イザナミ”を飛ばしている。
「ほら、青い目と褐色の肌って、アールヴにしかいないでしょ」
ちなみに、モンジョは白い肌に赤い瞳。
「確かに」
「しかも、アルヴ語は、周りの国の言葉と共通点が少ないの」
大体、共通語と、自国語のバイリンガルである。
「また、アルヴ語を教えてあげるわよ~」
ファラクが、“イザナミ”の後部座席から言った。
「……しかし、ほんとに飛んでるわねえ……」
ファラクの視界の先には、飛行中の“アマテラス”があった。
「ああ、前に進み始めたな」
“アマテラス”の後部に増設された、魔術式ジェット二機が、赤く輝く。
船体前後に設置された、姿勢制御用のジェットを忙しなく吹かしながら、よたよたと前進した。
イオリが、アマテラスの周りを飛びながらつぶやいた。
◆
「あ~はっはっ、快適だよお~」
“ローズキャラバン”の船長、“ローズヒップ”だ。
モント沖海戦で協力したのと、クルック達を助けたことにより恩賞をもらえた。
恩賞として、キャラバン船に暗車がつけられた。
コノハナサクヤ級二艦に次ぐ、三番目の半帆、半暗車航行可能な船に生まれ変わったのだ。
ローズキャラバンのキャラバン船は、モンジョの“タタラバ造船所”製だ。
これには、タタラバ造船所製の船に、暗車を積むことで、奴隷を使う櫂を無くす目的もある。
実際に終戦後まもなくだが、レンマ王国は暗車のライセンス生産をタタラバ造船所に持ちかけている。
近い将来、暗車の普及により、奴隷の需要はほぼ無くなっていった。
「風に関係なく動けるのは良いねえ」
砂嵐の中でも動ける、ローズキャラバンは他のキャラバンを圧倒。
大きな儲けを出すことになる。
「しかし、クルックとファラクは、元気にやってるみたいだねえ」
定期的に二人から、手紙が来ていた。
「ま、調査にも参加するみたいだから、そろそろ帰ってくるかねえ」
ローズヒップは、ハナゾノ帝国に行った二人に思いをはせた。
◆
クルックとフィッダは、短期留学という形で、“ハナゾノ帝国”の“魔術学園”にいた。
ここの学長の“アマリリス”は、積層構造を用いた“アマリリス式魔術陣”の開発者である。
小柄で、胸が豊かな女性だ。
また、ハナゾノ帝国第一皇女でもあった。
愛妾の子であったため、第二皇女“ローズ”が現皇帝である。
「面白いわねえ」
イマワミ状態の飛行艇“ヨモツヒラサカ”(現“イザナギ”)が、ヨミがえったことだ。
「どう思う、リント教授」
「多分、書き換えが可能なのでしょう」
リント教授と呼ばれた男性が答えた。
ちなみに、“ネコジャラシ’の命名者である。
青く色のついた、水晶を取り出した。
「これは?」
クルックが聞いた。
「砂水晶だ」
「”熱砂“からたまに流れつくらしい」
十年前の親子のように。
「……魔紋?……」
フィッダが驚いたように言った。
「そうだよ、この水晶には、魔紋を書いたり消したりできるんだ」
普通は無理だ。
イマワミ状態になる。
「えっ」
「しかも、効果も大きい」
リントが腕を組んだ。
「アマテラスの”深砂漠“の調査に、”砂水晶“の調査もふくまれるよ」
リントは、二人の顔を交互に見た。
「あなた、帰りましょう」
妻なのだろう、180センチ近い身長の女性が迎えに来た。
クルックとフィッダは、砂水晶に描かれた魔紋が、金色だったのに気づいた。




