第四十六話、シュウセンゴ
「ここまで、か」
「敵艦隊に、停戦要請を出す」
「信号弾、白、白、赤っ」
「撃てえ」
トライヴが、補給所が敵に占領されているのを確認してから言った。
パン、パン、パン
空に信号弾が上がった。
アールヴからの砲撃が止まる。
「敵から信号弾上がりました、白、白、白」
「停戦要請、受託されました」
「海は手に入らなかったよ、アイーシャ」
トライヴが、一瞬気を抜いた。
「次の休暇で行きましょう、海」
アイーシャは、椅子に座っているトライヴの肩に、後ろから手を置いた。
「撤退っ」
「損傷艦の曳航準備っ」
「味方を一人たりとも置いていくなっ」
トライヴが、椅子から立ちあがり激を飛ばした。
モンジョ艦隊は、静々と撤退していく。
途中で、三番艦と合流。
補給所の、補給艦と修理船を回収して、国境都市“ミズラ”まで撤退した。
敵、防衛司令官に打電。
『約二倍の戦力差の中での防衛戦』
『ここに貴艦隊の健闘を讃える』
『モンジョ古王国、南方方面艦隊司令官、トライヴ提督』
「鮮やかな撤退だな」
ファテュマ王だ。
「敵、艦隊司令官より、入電」
『約二倍の戦力差の中での防衛戦』
『ここに貴艦隊の健闘を讃える』
『モンジョ古王国、南方方面艦隊司令官、トライヴ提督』
「以上です」
「ふふ、良い戦であったようだな」
「敵兵の捕虜や負傷者を、丁寧に扱えっ」
ファテュマ王が、大声で命令した。
「やったああ」
「終わったあああ」
「守り抜いたぞっ」
アールヴの兵たちが沸き上がった。
“モント沖海戦”が、ここに終了した。
◆
戦後処理に入った。
モンジョ古王国から、正式に“終戦”が宣言された。
アールヴは、“終戦”を受け入れる。
モンジョからアールヴへ賠償金が支払われた。
賠償金の額は、
艦隊戦は、被害がアールヴの方が遥かに上で、モンジョの事実上の勝利であること。
“レンマ王国”の助力が大きいこと。
公にされないが、“レンマ王国”の貴族(カスマール子爵)が関係していること。
などが考慮された。
“イッザウ”と、奴隷狩りの“デスバド”、オチホキャラバンの“ギール”は、逃げ遅れアールヴの捕虜となっていた。
尋問の末、三人が結託して奴隷狩りをしていたことを認めた。
さらに、“イッザウ”は奴隷の密売ルートを確保するために、開戦を国に働きかけたことも暴露している。
イッザウは多額の身元補償金を支払うこととなった。
その後、度重なる命令違反や、敵前逃亡、撤退の原因となったことにより、“イッザウ士族”から兵力を国に没収。
国境都市“ミズラ”も含めた南西の士族領を、大幅に減らされることになる。
二代後に、没落し“イッザウ士族”は消滅した。
“奴隷狩り(マンハンター)”と“オチホキャラバン”は、イナホキャラバンや他の奴隷狩りがばれ、“犯罪者奴隷”として過酷な鉱山に送られることとなった。
一生、鉱山から出ることはないと思われる。
◆
“クルック”と“カスマール”の処遇である。
クルックは、飛行艇“ヨモツヒラサカ”(現“イザナギ”)の魔紋の浸食を、契約することで抑えられた。
しかし、カスマールの浸食は続いていた。
現在、意思疎通が難しいくらいに浸食が進んでいることとされる。
結局、魔薬に侵されたものが入る“施療院”に入院することになる。
“施療院”はほぼ監獄と変わりはない。
一生出ることはないだろう。
“エンバー伯爵”の命令があったということはうやむやにされた。
カスマール子爵家は、“エンバー家”に責任を押し付けられる形で取り潰される。
間接的に“エンバー家”に殺されかけたクルックは、これを機にエンバー家から除籍を希望。
エンバー家と縁を切り平民となる。
クルックとカスマールが、飛行艇“ヨモツヒラサカ”(現“イザナギ”)を強奪したことは、当時二人は“ヨモツヒラサカ”の魔紋に侵され正気を保っていなかったとされた。
この決定は、“エンバー家”の圧力がかかっていた。
今回、奴隷売買を再開させようとして失敗した“エンバー家”は、カスマール子爵家に責任を押し付け、クルックのことをうやむやにすることで難を逃れた。
しかし数年後、“エンバー家”の長男が女奴隷の上で腹上死しているところを発見され、過去の悪行が全てばれることになる。
領主は廃嫡され、クルックに後を継ぐように言われるが、クルックは拒否。
遠い親戚が跡を継ぐこととなり、“エンバー家”は途絶えた。
処分された奴隷たちの死体は、掘り返され丁重に葬られている。
「クルックと、ひこうていは、私んだからねえ」
ローズヒップが大声を出した。
砂嵐に巻き込まれる前に助けたから、所有権を主張できる。
砂漠で拾ったものは拾い主のものという、過酷な砂漠の不文律である。
拾った人間の水と食料の消費で、キャラバンが全滅することもあるのだ。
クルックをこのまま、軍に置いておくのも問題がある。
しかも、飛行艇“イザナギ”の船主であり、船巫女は一般人のフィッダである。
扱いに困った時、ローズヒップが言った。
「クルックも、ひこうていも私んだし、フィッダはキャラバンの家族さね」
「でさ、二人とひこうていを傭兵として貸し出してもいいさね」
キャラバンとは、元々砂漠を自衛しながら移動する、武装集団である。
傭兵として動くときもあった。
「ま、売る気はないんだけど、クルックとひこうていに値段はつくのかい?」
人身売買は禁止だ。
イマワミから復活した、飛行艇の値段はつけられないだろう。
「それでいいんですか?」
評価官のアルが言う。
「ああ、だが、クルックもフィッダもうちの家族だ」
「粗末にしたら承知しないよっ」
ローズヒップが腕を組んだ。
「……船長……」
クルックが静かに頭を下げる。
クルックに、帰る場所が出来た。
フィッダがそっと、クルックの手を取った。




