第四十二話、サイヘン
「流石に“ヤタノカガミ”のマストは持ってきてないです」
修理隊の隊長が答えた。
ジンギクラスの超重戦艦“ヤタノカガミ”は、飛行艇空母“キサラギに、三本あるマストの内一本を折られている。
「修理は無理か」
トライヴ提督がうなるように言った。
今、モンジョの艦隊は、一時撤退し”補給物資の集積地“に集まっていた。
前線が前に移動したので、“集積地”も前進している。
補給艦の中には、軍に雇われた”オチホキャラバン“や、”奴隷狩り(マンハンター)“の船も混じっていた。
「とりあえず、第一防壁は壊した」
トライヴ提督が腕を組んで考え込む。
しかし、ほとんどのバリスタが燃やされたな
飛行艇の焼夷爆弾によってである。
「報告します、燃やされたドウケンクラスは、マストや帆、バリスタは燃えましたが、艦体は無傷でした」
整備兵の被害報告だ。
「そうか、ご苦労」
ここからは総力戦だな
◆
「来てくださってありがとうございます」
「防衛司令官のサザルです」
サザル大佐が頭を下げた。
「レンマ王国空軍、飛行艇空母“キサラギ”の艦長、メルル―テです~」
メルル―テも頭を下げる。
防衛隊旗艦、“クシナダ”の会議室だ。
主要な人物が集まっている。
「状況は良くないです」
参謀が言った。
真ん中の机の上には、周辺の地図だ。
第一防壁にバツ印が描かれている。
「第一防壁が壊されました」
「第二防壁まで壊されますと、敵の大砲が港に届くことになります」
都市も含めて、大損害を受ける。
事実上の敗退である。
「……艦の修理は?」
アマツカミ級、三艦が損傷している。
「しばらくかかります、それよりも大砲が破壊されています」
砲弾に余裕はあるが、壊された大砲の予備は置いていない。
「砲撃能力が、半減しています」
整備体の隊長が言う。
「むうう」
「焼夷爆弾は、マストや帆は燃やしたが艦体には効いてないのう」
「あれなら、すぐ直ってしまうわ」
ドワーフの整備士“ドワイト”が言った。
“キサラギ”の整備長だ。
「それと……」
「“キサラギ”の体当たりは、やめた方がいいぞ」
「さすがに、艦の竜骨(船の背骨みたいなもの)が歪むぞ」
「わかった~」
メルル―テが答えた。
「一ついいだろうか?」
潜砂艦“アマテラス”の艦長“エルザード”が、手を上げた。
「“アマテラス”は砂の中を、敵に気付かれず移動できる」
周りの人がうなづく。
「砂の中を移動して、敵の補給場所を攻撃できないだろうか?」
エルザードが、周りをを見回した。
「それは……」
「“アマテラス”の八十八ミリカノン砲が、前線から外れます」
「さらに、砲撃能力が落ちます」
砲兵長が言った。
ちなみに、ほかの艦は、四十ミリ砲だ。
「“アマテラス”がいないと、敵艦の突撃を止められないのか」
サザルだ。
「おそらく……」
参謀が答えた。
「敵艦隊、動きましたっ」
無線が会議室に響いた。
「くっ、全艦迎撃態勢に入れっ」
全員、慌ただしく会議室から出て行く。
「エルザード艦長、敵補給基地攻撃の準備だけはしていてくれ」
サザルがエルザードを見る。
「了解」
エルザードが答えた。
ウウウウウ
都市に、警戒用のサイレンが鳴り響いた。
◆
砂嵐が過ぎた後、砂漠の風はないでいた。
モンジョの艦は、送風の魔紋でおこした風を、帆に受けて前進する。
「全艦、矢じり型陣形だっ」
「速度を落とすなあっ」
「第二防壁を破れば、こちらの勝ちだっっ」
「全艦突撃っっ」
トライブ提督が吠えた。
超重戦艦“ヤタノカガミ”を先頭に、左右をドウタククラスの重戦艦。
その後ろを、ドウケンクラスが続く。
砂煙を上げながら、奇麗な三角形を描いて前進した。
◆
飛行艇“イザナミ”と“イザナギ”は、飛行艇空母”キサラギ“に着艦している。
イオリとクルックは、“キサラギ”の飛行隊に仮再編される。
第一小隊に、隊長、ヒイラギ中尉、飛行艇“ネコジャラシ”、飛行艇“ゲッカビジン”二機。
第二小隊に、隊長、イオリ少尉、 飛行艇‘イザナミ“、飛行艇”ゲッカビジン“二機。
魔紋の視界が優秀な、飛行艇”イザナギ“は、偵察部隊になった。
EWAC”イザナギ“という感じだ。
しばしの休憩だ。
「ひさしぶりねっっ、イオリ少尉っ」
ヒイラギ中尉だ。
「そうだ、そうだ」
他の隊員も声をかけてくる。
全員顔見知りだ。
「みんな、久しぶり」
ガシッ
一人の隊員が肩を組んだ。
「しかしっ」
少し離れた所で、ふんふんとがファラクがこちらを見ている。
隊員がちらりとそちらを見た。
「「「うまいことやりやがってっっ」」」
周りに隊員が軽く脇や背中を軽くたたいてくる。
「いやいやいや」
イオリだ。
少し離れた所でクルックが、呆れたように見ていた。
隣にフィッダが並んだ。
「……可愛い……」
「フィッダちゃんていうんだぜ」
「……俺はファラクちゃん派だっ……」
異国情緒あふれる姿と、肌に描かれた魔紋が神秘的に見える。
隊員の視線に気づいたのか、そっとフィッダがクルックと手を繋いだ。
「「「ああ~~~」」」
落胆の声が聞こえた。
「……馬鹿ねえ……」
女性の乗組員たちが、呆れた目で男たちを見ていた。
「事情は聞いたぜ」
一人の隊員がクルックに言った。
「ああ」
クルックだ。
「ふっ、これから、お前は俺たちの目だ、よろしく頼むぜ」
クルックの肩を軽く叩いた。
「……ふふっ、こちらこそよろしく頼む」
クルックが、片頬を歪めて笑う。
ううっ、かっこいい
手を繋いでいたフィッダが頬を染めた。
周りの隊員が、色んな意味でざわめいた。
ウウウウウ
警戒用のサイレンが鳴り響いた。




